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留年部へようこそ。活動内容は最速帰宅です。

掲載日:2026/06/30

六限目終了から数十秒のタイムラグの後、校舎にチャイムが鳴り響く。

「はー。やっと一日終わった。三時までが長い長い」

椅子の上で大袈裟に身体を反らしてみる。

「久しぶりに授業フルタイムで受けましたからね」

北条もそれに同調する。

「フルタイムじゃないですって、小早川さんも北条さんも一限目いなかったじゃないですか」

多田に痛いところを突っ込まれてしまった。

これには北条も苦笑い。


「まぁ。そういうなよ。俺たちの中では、遅れてきて帰らなかっただけ殊勲賞ものなんだから」

「ちょとー。一緒にしないでくださいよぉ」

なぜか北条は不満気だった。

「心配してやってるんだぜ、北条の出欠は。来年も三年生やるか?」

「小早川さんも、授業聞いてないとまたダブりますよ!」

北条に肩をはたかれた。

「あはは。それじゃあ小早川さんに北条さん、また明日、お会いしましょう」

多田はこれからバスケ部での活動がある。

「おうよ。じゃあな」

「頑張ってね、キャプテン!」

礼儀正しくお辞儀をして多田は退室していった。

やはり体育会系はいい。


「放課後って、もっとワイワイしてたと思ってたんだが、ずいぶん人が減ったな」

「みんな部活とか忙しいんですよ、新歓の時期ですしね」

教室に残っているのは三分の一程度である。さらに俺たちのように席に残っているのは数える程だ。

「北条はどっかの部活に入らないの?」

「入らないです。なんかそんなバイタリティーないです。だから部活入ってる人はそれだけで尊敬です」

北条は机の上のバッグに顔をうずめ、グッタリした状態で応じる。

「去年はどっか入ってた?」

「帰宅部です」

さらに深くバッグに顔をうずめていく北条。

「そういう小早川さんは、どっかに所属していたんですか?」

「してたよ。キックボクシング部」

「きっくぼくしんぐ?」

「そう。その名の通り、ボクシングにキックを足したコンバットスポーツ」

「こんばっとすぽーつ?」

北条がばっと顔を上げた。


「そうそう。簡単に言えば格闘技だね」

「え?えーと・・・じゃ簡単に言わないと何ですか?」

「なんだよその質問。つまりは、あれだ。マーシャルアーツってことだ」

「ますます良く分からないんですけど。専門用語はナシでお願いします」

注文が多い。

「まあ、ケンカだね。ルールのあるケンカみたいなもの」

「へええ。小早川さんってケンカするんですね」

「うん。でも君が思ってるほどバイオレンスじゃあないよ」


「蹴るんですか?」

「うん、蹴るよ」

「殴ったりします?」

「基本的には、殴るね」

「格闘技?」

「イエス」


北条は再びバッグに顔を伏せて、そしてすぐまた顔を上げた。長い金髪が暴れる。

「いやいや、バイオレンス極まりないでしょう、それ」

「そっかなー、アメフトとか野球の方が怖いし、危ないと思うけど」

「で、小早川さんはそのバイオレンス部にはなんで戻らないんですか?」

「キックボクシング部な」

俺は一息つく。


「なんでって言われても困るな。」

「え。私、困るようなこと聞きました?」

「いやー、なんかこう、恥ずかしいっていうかさ、心の準備ができていないっていうかさ」

俺は言語化できない感情をなんとか言葉にしてみる。

「ええ?なんでいきなり乙女系男子になってるんですか?」

ダメだ、この子には伝わらん。バッサリと断とう。


「いいんだよ、俺のことは。それより君はどっかの部に心動かされたりしないわけ」

「今も昔も変わりません。一貫して帰宅部です」

「なーんだ、つまらない青春だな」

「つ・・・つまらないって何ですか!言っておきますけどね、私だって人並みにバレーや演劇に情熱を捧げたいっていう気持ちはあったんですよ」

荒ぶる北条。

「じゃあ、捧げてくれよ、その情熱をどっかに」

「それがそうもいかないんです。だから困っているんです」


「うん?」

「小早川さん。今疲れていますか?」

「そーだね。だいぶ疲れてるよ。五限と六限は特にヤバかった」

「でしょう?かく言う私も同じです。私たちって一日のバイタリティを授業だけで使ってしまう派なんですよ!」


「去年は毎日放課後に練習していたけど……」

「昔の話です。もう歳ってことですよ。疲れが抜けなくなっているんです」

「分かるような、失礼極まりないような」

まあいいと言わんばかりに話を切り替える。

「それじゃあさ、もっとユルい部活に入ってみれば?」

「いーえ、さすがに三年生にもなって新入部員にはなれませんよ」

まあ、言いたいことは分かる。

「グループだの個々の役割だのが、もう構成されちゃってるから?」

「その通りです!乙女系女子の私にはちょーっとハードルが高いですね」

「乙女系女子……自分で言っても虚しいだけだな」


「ああ!そうだ!」

人の話を聞かない子だ。

「なに?どんなしょーもないこと思いついたの?」

「ちょっ・・・何ですかそのテンションの低さは!」

「いや、ある程度予想がついたから」

「え?」

「アレだろ。自分たちで部を作ろうってことだろう」

「お・・・大当たり!さすが小早川さん!伊達に十九歳で高校生活送ってないです」

なんだこの舐めた称賛は。まあ、いい。

「そりゃ分かるよ。その部には入部条件があるわけだ。それは俺や北条のようにブランクを持つ生徒であること。名付けて・・・」

「「留年部」」

テンションの高い声と低い声が絶妙なハーモニーを織りなした。


「・・・」

「・・・」

教室内に残るグループの楽しそうな声が聞こえてくる。

一方で2人の間では数秒、会話が止まった。

「北条さぁ」

沈黙を破る俺。

「はい、なんでしょうか」

さっきまで散々笑っていたくせに、北条の横顔が妙に静かに見えた。

「やっぱり帰宅部が一番だよな」

「ですよね」

「帰るか」

「はい、帰りましょう」

北条はスクールバッグを持って立ち上がった。

「因みに帰宅部の主な活動はなんでしょ?」

俺は教室の戸に手をかけながら聞いてみた。

「最速で駅に着き、十五時二十分の快速電車に乗って帰ることです!」

迷いのない純粋な眼差しで即答する。

「……グッド」

そうして俺たちは放課後の教室を後にした。

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