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第8話

 ――その時。


「おお! リリ!」


 振り向くと、フィンがいた。


(ぎゃあ……)


 せっかくの気分が、一瞬で台無しになる。


「そんな顔するなよ。冬服にしてやろうと思ってな」


「それより、この服戻してください!」


「ほら」


 次の瞬間、服が光り、姿が変わる。


「何するんですか!」


 フィンは鏡を差し出した。


 ……似合っている。


「……今回は許します。でも、ちゃんと戻してくださいね」


「うん、分かった」


(なんだあいつ……)


 ぶつぶつ言いながら、リリはバスへ乗り込んだ。


 今日もまた、世界は広がっていく。


バスの中でも、リリは休むことなく学び続けていた。


ふんふん、なるほど。


なるほど、なるほど。


パソコン。


インターネット。


SNS。


そして――AI。


人間は、驚くほど多くの情報を手に入れることができる。


だが同時に、それらをすべて覚えておくことは苦手だ。


リリは静かに考える。


――そこは、私のほうが得意。


魔法使いリリと魔法手帳。


この組み合わせは、人間の世界では少しだけ反則かもしれない。


けれどリリが本当に知りたいのは、知識ではなかった。


人間とは何か。


それだけだった。


そして地球時間で一週間後。


ちょうど一週間前に出会った、おじいさんとおばあさんを思い出した。


食べ物がない場所。


病気の子どもが、静かに命を落としていく場所。


助けたい――そう思った。


リリは地球に来てお腹が減るという感覚を初めて知った。


でも、オルフェンの店に戻れば、温かい食事が待っている。


安心できる場所がある。


――それだけで、人は強くなれるのかもしれない。


窓の外を眺めながら、リリは小さく呟いた。


「今日で、日本は最後か……」


神様は、次に行くべき場所へ導いてくれるのだろうか。


そんなことを考えているうちに、バスはゆっくりと停車した。


その瞬間。


けたたましいサイレンが、空気を切り裂いた。


赤色灯が回りながら、車が滑り込んでくる。


扉が開き、担架が運び出される。


動かないままの人。


そのまま、建物の中へと消えていった。


リリは静かに降り、建物の玄関へ回った。


中は広く、白く、明るかった。


そして――人が多い。


ピンポン。


電子音が鳴り、上部の掲示板に番号が表示される。


リリは記憶を呼び起こす。


「……うん。ここは、病院」


それも、大きくて、きれいな病院。


けれど――


「……人、多い」


胸の奥が、少し重くなった。


この日本にも、こんなにたくさんの病気の人がいる。


リリは、少しだけ顔をしかめた。


「……あまり、長くいたい場所じゃないな」


そう呟いて、外へ出た。


外の空気は、少しだけ冷たく感じた。


そのとき。


「……おお?」


視界に入ったのは――


外国人。


それも、ひとりやふたりではない。


声が飛び交う。


英語。


中国語。


韓国語。


フランス語。


スペイン語。


――他にも、いくつも。


リリは瞬時に理解する。


言語判別は、魔法使いの得意分野だった。


「……ここ、都会。でも……少し違う」


歩きながら、リリは周囲を見回す。


そして――


目の前に、赤い構造物が現れた。


入り口?


建物?


木?


――あ。


「鳥居だ」


魔法学校で習った、日本の建造物。


そして、思い出す。


「日本って、東京の次は……京都?」


完全に、適当だった。


けれど、本人は大まじめだった。


リリは外国人観光客たちを見て、頷く。


「なるほど。観光地」


「ついていけば……あの人たちの国にも行けるのかな」


少し考えて、首を振る。


「……いや、明日のバスで行けばいいか」


自分で言って、笑った。


リリは、やっぱり少し天然だった。


せっかくだから――


「観光したいです。お願いします」


小さく祈った。


その瞬間。


空中に、光の地図が浮かび上がった。


「ふんふん……なるほど」


リリは、それを一瞬で記憶に焼き付ける。


そして、歩いた。


見て。


食べて。


触れて。


感じて。


寺。


神社。


石畳。


線香の香り。


人の祈り。


「……ここには、いろんな神様がいるみたい」


少しだけ、不思議な気持ちになった。


でも――嫌じゃなかった。


「日本の最後に、京都観光か。……まあ、良かったかな」


満足そうに息をついた、そのとき。


ふと。


横の細い路地に、目が向いた。


着物姿の――外国人。


リリは、瞬きをした。


そして、その光景を、静かに記憶に刻んだ。


――人間は。


どこにいても。


何を着ていても。


何かを求めて、生きている。


リリは、ゆっくりと空を見上げた。


そろそろ帰ろう――そう思い、リリはいつものように小さく祈った。


だが、今日は様子が違った。


静かな空間に立ち尽くしても、あの不思議なバスは姿を現さない。


「……あれ?」


いつもなら、呼べばすぐに来るはずだ。


胸の奥に、わずかな不安が広がる。

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