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第13話 最終話

そのうち、クリスは母の膝にもたれたまま、静かに眠ってしまった。

オラフは立ち上がり、棚の奥から一冊の分厚い書物を取り出した。

革張りの、使い込まれた聖なる書。

「少しだけ、お見せしましょう。」

ページをめくる音が、暖炉のはぜる音に重なる。

最初のほうの頁には、こう記されていた。

――最初の人間夫婦は、神に背き、歩み始めた。

リリは文字を見つめたまま、しばらく動かなかった。

「なるほど……。」

胸の奥で、何かが静かにほどけた。

神様は、人間を幸せになるように創られた。

争いも、涙も、本来はなかった。

けれど、人間は自ら神に背いた。

そそのかしたのは、悪い天使。

――私たちの、仲間だったのだ。

その事実は、冷たい風のようにリリの心をかすめた。

やがて気がつくと、オラフもミリアも、暖かな椅子にもたれて眠っていた。

家の外に、かすかな気配。

リリは立ち上がった。

――バスだ。

二人にそっと毛布をかける。

「ありがとう、オラフさん、ミリアさん。そしてクリス……。」

眠る少年を見つめる。

「きっと、クリスの旅が成功しますように。」

祈りのような言葉だった。

リリは静かに扉を開け、夜の中へ出た。

バスは、闇を切り裂くことなく、ただ滑るように進んだ。

星々は、変わらず瞬いている。

やがて浮遊島の広場に着くころ、リリは急に眠気を覚えた。

真実の塔の自室へ戻る。

扉を閉め、ふと振り返る。

そこに刻まれていた数字は――49。

「やっぱり……。」

リリは小さく呟いた。

だが、心にはまだ一つ、残された疑問があった。

――人間を、神様は救わないのか?

考えようとした瞬間、まぶたが重くなり、そのまま深い眠りへ落ちていった。

翌朝。

オルフェンのカウンターへ向かうと、そこに彼の姿はなかった。

代わりに、一通の手紙が置かれている。

『リリへ。

お疲れ様。よく頑張ったね。

今日のバスは、リリの疑問に答えてくれる場所へ連れていってくれるよ。

――オルフェンより。』

リリは手紙を胸に抱いた。

「オルフェン……色々ありがとうございました。料理も……。」

目は潤んでいたが、いつもの大泣きはしなかった。

広場へ向かう足取りは、少しだけ大人びていた。

掲示板に書かれた行き先。

――未来行き。

「そうか。未来に答えがあるんだ。」

やがてバスに乗り込み、リリは未来の地球へと飛んだ。

しばらくの滞在ののち、帰りのバスの中でリリは上機嫌だった。

争いのない楽園を、この目で見たのだ。

子どもたちの笑い声。

武器のない広場。

恐れのない夜。

神は、救わないのではなかった。

神は、時間の中で救うのだ。

バスが浮遊島のあたりへ戻ったとき、そこに島はなかった。

代わりに、バスはそのまま進み、魔法学校の門へと到着した。

リリは胸を高鳴らせながら校長室の扉を叩く。

ドアを開け、校長の顔を見た瞬間、深く頭を下げた。

「ごめんなさい。リリは……卒業したと……。」

その言葉を遮るように、校長は穏やかに微笑んだ。

「卒業おめでとう。これでリリは立派な魔法使いですよ。これからも、みんなから愛されるリリでいてくださいね。」

その瞬間、堰を切ったように涙があふれた。

「うわーん……!」

結局、リリはリリのままだった。

泣きながら、笑っていた。

そして物語は、まだ続いていく。

――完。


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