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第2話:転落の加速

ある日の深夜、青年は寂れた歩道橋の上で、欄干に足をかけている少女を見つけた。  

彼女の瞳には、かつての青年が持っていたものとは比べ物にならないほど濃密な「死」の気配が宿っていた。


 青年は声をかけなかった。助ける気など毛頭ない。彼はただ、特等席でその瞬間を待った。少女が重力に身を任せ、アスファルトに叩きつけられる。

その瞬間の、生温かい風と、周囲の叫び声、そして少女が最期に漏らした


「ああ、これで終わるんだ。」


という絶望の極致。



『素晴らしい。これほど芳醇な収穫は久しぶりだ』


 現れた悪魔から、青年は二百万円を受け取った。たった数分、他人の死を眺めていただけで、かつての年収に近い額が手に入る。もはや青年の心には、罪悪感など一分も残っていなかった。


「悪魔よ、願いを聞いてくれ。僕はこれからも、この仕事を続けたい。警察や世間に疑われず、絶対に捕まらないようにしてほしい」


 悪魔はくっくっと笑った。


『容易い。君はこれから、世界の目から「透明な存在」となるだろう』


 願いは叶った。青年はさらなる効率を求め、インターネットの深淵へと潜った。  


「一緒に死にましょう。」


 そう綴ったSNSのアカウントを作り、自殺志願者に近づく。自分も同じ絶望を抱えていると偽り、親身なフリで彼らの壮絶な過去を聞き出す。そして相手が心から自分に依存しきり、最後に「あなたと一緒に死ねてよかった」と涙を流すその時まで。

 一緒に逝くと約束したその相手の死を確認すると、自分だけが現場から消える。警察は動くが、青年の姿は誰の記憶にも、監視カメラの記録にも残ってなどいないのだ。


 彼は高級マンションに住み、美食に耽り、かつての自分と同じ「持たざる者」を見下すようになった。贅沢は麻薬だ。そして彼が一度覚えた快楽を維持するためには、より頻繁に、より大きな不幸を供給しなければならないのだ。


「最近は、サイトの閉鎖が早すぎる……獲物が足りない」


 焦りが、青年に新たな狂気をもたらした。彼は歯軋りをしながら考えた。

そうだ、見つけるのが大変なら、育てればいいんだ。幸せそうな人間を、奈落の底へ突き落として、絶望させてから刈り取る。その方が、自ら死にたがっている人間よりも「鮮度」が高いはずだ。


 青年の目は、澱んだ川の様に濁りきっていた。背を丸めて徘徊し、たどり着いた駅前の公園のベンチでぼんやりと空を眺めていた、冴えない印象の、何の変哲もない男を見つけた。

かつての自分を見ているような、どこか懐かしく、そして虫唾が走るほど「凡庸」な男。


「……あいつにしよう。あいつを世界で一番、不幸にしてから殺すんだ」


 

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