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現実を受け止められずに飛び出した

久しぶりの投稿。3話で完結

「魔女殿……早速だけど私と死んでください」


「は? フェルト殿下、一体どうしたのですか?」


「魔女殿は、なんでも叶えてくれるのですよね」


「……悪いけれど、そんな約束を店の売りにした事はないわ。だから一緒には死ねないわ。何故死にたいの?」


「私はずっと家族の為に……皆の為に頑張ってきたんだよ。寝る間を惜しんでね……それなのに」



「待って、話が長そうね。お茶を淹れるから座って。私はユリアナよ」

「知ってる」



 ソファに座るフェルト。向かい側に座るユリアナは指をパチンと鳴らすと目の前にはティーセットが現れる。


 手を添えなくてもポットは浮かび、カップに湯を注ぐ。カップからは甘い匂いの湯気が立つ。

 その光景を眺めるフェルト。


「話して」


「あ……あぁ、そうだった。間近で魔法を見たことがないら驚いたよ」

「ミルクティーでいい?」


「あぁ、凄いね。私も魔法が使えるようになる?」

「ならないわ。練習して使えたら私達の存在に価値がなくなるわ」


「他にも魔女が?」

「えぇ……本物の魔女がね」


「君は本物ではないの?」

「私は……人間と魔女の愛の証なんですって。だから私は人間でも無いし魔女でもない。寿命も人間と同じよ。ただ、少しだけ魔法が使えるだけ、だからこうして占い屋を開いているのよ。さぁ、どうぞ」



 フェルトはミルクティーを飲む。

「美味いな。頭がスッキリしたよ。君の魔法?」


「その様なもの……悩みや考えを誰かに話していると自ずと答えは見つかる」



「そんな気がしてきたよ」

「それで死にたい理由は?」


「私は……親の決めた相手と結婚した。そして子供が産まれた。しかし私とは違う……弟の色だった」


「あら……それって」


「妻は弟と関係を持っていたようだ。弟と同じ髪の色だ」

 

 フェルトは思い出す。妻が出産し妻に感謝を述べようと部屋に入ると妻の顔色が悪かった。出産のせいだと思ったが違った。弟と同じ黒髪の女児であった。自分の髪は金髪、妻の髪は薄いピンク色だった。


「弟は何と言っていたの?」

「まだ、話してない。驚いて飛び出してきた」


「確かのは『妻の産んだ子が自分の色ではない』って事ね」


「そうだ……」


「貴方は金髪、そして弟は黒髪ね。しかし国王は黒髪よ? 黒い髪の子が産まれてもおかしくはないわ」


「しかし……クレアは何も言わなかった。ただ……私は悪くないと。私は全てを放棄してきた。今頃、城は大混乱だと思うよ。いや……弟……アルシュベルトがいるから大丈夫だろう」


「きっと大騒ぎしているわね」



「なので魔女殿……いやユリアナ嬢、私と一緒に死んでくれないだろうか」



「……何故、私もなの?」


「だって、君は弟の婚約者だろう? 愛し合う2人は私達が邪魔になるだろ」

「そうかしら、私は婚約解消されても問題はないわ」



「そうか? 君がこの国の為に弟を影で支えているのを知っている。弟が突然に凄い案件を提示してくるのも思いがけない解決策を持ってくるのもの君の力添えがあってこそだ」


「違うわ。ここで茶を飲み、頭を休める。ゆっくり整理していくと見えてくるのよ」


「それでは……弟は自分で考えていたのか?」


「私には無理よ。私は貴方の妻とは違うわ。貴方の妻は貴族でしょ、教養もあるし貴族の流行も知っているでしょ。そして彼女の父は宰相よ。彼女の方が私よりも沢山のモノをもっているわ」


「弟は何故、君と婚約を?」

「愛かしらね」


 ふふっと微笑むユリアナであった。その微笑みに少し心が動かされるフェルトであった。


「ん? それは従属のブレスレットか……弟は君を利用しているのか?」


「違うわ。この呪いはね、解くのは簡単なのよ。ただ、しないだけ……アルシュベルトが望めば簡単に解けるわ。私が不要だとね」



 パチンと指を鳴らすとカーテンは閉まり、薄暗い部屋となる。

「少し占ってあげる。サービスよ」


 テーブルの上に広がるカード。


「ん……貴方……妻の事を愛していないの?」

「結婚をするつもりはなかった。しかし国の為に結婚した」



「そう……確かに彼女の不貞のカードが出てるわ」

「……」


「彼女もそうね。他に好きな男性がいる」

「そう……アルシュベルトだな」


「貴方だって幸せになれるわ。人の幸せの形はそれぞれよ」


「そうか……」


「だから死ぬのはやめた方がいいわね」

「……」



「ふふっ、城へ戻る事にした?」

「いや……もう少し、冷静に考えたい。少しいても? 紙とペンを貸してほしい」


「そうね。貴方の希望、現在の状況、紙に書いて整理するのもいいわ。アルシュベルトも同じように考えるわ。やはり兄弟だわね」


「ユリアナ嬢はアルシュベルトがクレアを選んだら?」

「私の心配してくれるのね。大丈夫よ、奥の部屋を使う? アルシュベルトがいつも使っている部屋だけど」



「……借りようかな」

「どうぞ」


 フェルトがユリアナの店に向かっているとは知らない弟あるアルシュベルトは兄嫁の出産を祝いに訪室する。



「兄さん、生まれたって」

 扉を勢いよく開ける男は、この国の第2王子アルシュベルトだ。


「あれ……兄さんは?」


「…………アルシュベルト殿下」


 顔色の悪い兄嫁のクレアに気付く。


「クレア大丈夫? 顔色が悪いから休んだ方がいいよ。しかし、こんな時に兄さんは何処にいったんだよ。兄さんは楽しみにしていたのにさ……叔父さんだよ〜。ん?」

 生まれたての子を見て驚くアルシュベルト。その子の髪の色は兄の色とは違う黒髪の女児であった。



 この国で生まれる子は両親のどちらかの色のしかでない。それ以外の子が産まれると言う事は不貞を意味する世界である。


「え? クレア?」

 驚き、クレアの顔をみるアルシュベルト。


「……私、どうしたらいい? きっとフェルトは……」

 クレアの手は震えていたのだった。そして、周囲の視線に気付き室内の使用人達を見ると、冷めた瞳で2人を見ている。

 

 ――待て、まさか俺が?


 その時だった。


「クレア、生まれたのか? 私にも見せておくれ」


 その時、クレアの父である宰相が妻と共にクレアの元にやってくる。嬉しそうに娘を労い。孫の顔を見る為にクレアへと近づく。


「あっ、パパ、ママ……あの……」

「さぁ、可愛い孫…………え? 黒髪? クレア……これは?」


「パパ……パパ……私……」

 涙を貯めて両親を見るクレア、その娘を抱きしめる母親。


「フェルト殿下は?」

 父でもある宰相はクレアに静かに問う。


「生まれた子を見て……」


 泣き出すクレアを強く抱きしめる母親であった。

「クレア? まさか……お前……」


 クレアの父はアルシュベルトを見る。

 

「アルシュベルト殿下?」


「違う……違う……俺は違う。クレア? 違うと言え」


 慌てて、クレアに誤解を解くように言うアルシュベルトであった。


「パパ……違うの。私……私は……」


「フェルト殿下は執務室か? 行ってくる。アルシュベルト殿下にもお話があります」


 急ぎフェルト王子の執務室へと向かう宰相。

 室内にはクレアの鳴き声と赤子の鳴き声だけが響いていた。




 コンコンコン――返事はない。


「フェルト殿下? 入りますぞ」



 誰もいない執務室。

「フェルト殿下……ん? 手紙」



 ――すまない、少し冷静になる必要がある。あとは任せた。 フェルト。


「クレア……お前は何という事をしたんだ……国王に報告しないと」


 すぐに謁見の間へと行くクレアの父であった。最後の謁見が終わったところであった。国王の元に近づく宰相は、国王の耳元で話し始める。



「国王様……」

「なんだ?」

「クレアが子を産みました。しかし、問題が」

「ん? どの様な問題だ」


「ここでは……」

「わかった。執務室へ行こうか」



 祝いの言葉を宰相に述べる国王と顔色の悪い宰相は国王の執務室に向かい歩く。


「さて、君も座れ。問題とは何だ?」

 資料に目を通し、書類に書き込み作業を始める国王であった。



「クレアの産んだ子ですが、実は黒髪でして……」



 ペンを落とす国王。


「……黒髪」

「はい、それを見てフェルト殿下は何処かへと。これが手紙です」


「……そうか。王妃は今、視察へ行っている。戻るのは3日後か……」

「そうですが、国王……顔色が悪いですよ」

「いや……なんでもない。驚いたからな」




「宰相よ……私は少し休む」

「わかりました」


 宰相は考える。フェルト王子が自分の子でないと言うかもしれない。しかし、アルシュベルト王子の子か、クレアは昔からアルシュベルトを好いていたからな。可愛い娘の幸せの為に父として何とかしないといけないな。クレア、父に任せておけ。女児を産むだなんてよくやった。未来の王女も夢ではない。





 同じ頃、フェルトはじっくり考えていた。


 ――弟はクレアを好いていたのか? 2人が一緒にいる所を見た事がない。こっそり会っていたのか?


 ――たしかクレアはアルシュベルトと好きだったはず……私が知らないだけで、2人は想い合っていたのか? そうなるとユリアナ嬢は……。


 ユリアナの用意した茶と菓子を食べるフェルト。ふと机には2人の姿絵が飾られてある。幸せそうな2人の笑顔。


 ――羨ましいな。弟は彼女を裏切らない。



 

 そして、フェルトは紙に書きながら考える。その時、店の方が騒がしくなる。しかし、フェルトには聞こえない。何故なら、この部屋には外の音を遮断する機能もあり。フェルトは部屋をか明るくしようとした際に電気のスイッチと間違えて押していたのだった。



 一方、ユリアナのいる店舗スペースに騒がしく入ってくる男がいる。


「ユリア……大変だよ」

 ユリアナをユリアと呼ぶ男性はユリアナを見るなり抱きつく。


「アル、どうしたの?」


「兄さんがいなくなった」

「あら、困ったわね」


 ユリアナに抱き付く男は、ユリアナの婚約者であり、この国の第2王子でフェルトの弟アルシュベルトだ。長い黒髪を1つに結い上げ。額には汗が浮く。

 

「そうだよ。クレアが子供を産んだんだ。でもね、黒髪だった」

「今のアルは黒髪ね〜」


 ユリアナを抱いたままソファーに座りユリアナの飲みかけの茶を飲むのだった。


「そうなんだ、だから僕がクレアと不貞を冒したと思われている。急いで逃げてきた」


「アル……フェルト殿下はね。宰相の娘であるクレア様と国の為に仕方なく婚約し結婚したのよ。子作りは義務よ。でも黒髪はマズいわね」


 ユリアナはアルシュベルトの汗を拭く。そして彼の分の飲み物を用意する。



「だって、兄さんは……」

「アル、これ以上は言っては駄目よ」


 アルの口に人差し指を添える。


「ごめん。だから、僕が父親ではないと証明しないといけない」


「そうね、それなら……まずはフェルト殿下に」


「いい方法がある。ユリア……僕の子を産んで」

「……アル?」


 ニコリと笑うとソファーに押し倒すアルシュベルト。


「アル、待って……ここではダメよ」

「寝室ならいいの? たまには僕の部屋でもいいし」


 今、アルシュベルトの仕事場にはフェルトがいるため、ユリアナは説明しようとする。アルシュベルトはユリアナの首元に何度もキスをする。


「待って……アル」


「ユリア……まさか。僕はこんなにも君を大好きなのに……僕はいらないの? そんな訳ないね、さぁ仲良くしようね」

 

 一瞬悲しそうな表情をするアルシュベルトは起き上がり。ユリアナを肩に担ぎ自分専用の仕事場へと運ぶのだった。


「アル、アル……そこには」

「まぁ、僕に任せて。その男に僕がどれだけユリアを愛しているか聞かせてやるから」


「アル……」


 アルシュベルトはカーテンを勢いよく開くと、そこには男が懸命に紙に何かを書いている。声を掛けるも気付いていない。

「まさか、遮断スイッチを?」


 アルシュベルトは遮断スイッチを押し解除する。そして声を掛ける。


「……兄さん」


「ん? アルシュベルト……」

「兄さん……探した。皆、心配している」


「この部屋はいいな。あのさ、考えてたんだ。アルシュベルトは僕を裏切らないはずだとね……こんなに可愛らしい婚約者もいる」


「兄さん……わかってくれるの?」


「あのさ……それよりもユリアナを担いでどうしたのだ?」


 アルシュベルトの肩でバタバタと暴れるユリアナをゆっくりと下ろす。


「クレアの産んだ子が僕の子ではないと証明する為に、ユリアに子供を産んでもらおうと思ってね」

「…………お前。ユリアナ嬢が子を産むことが証明に繋がる? 意味が分からない」


「……ん? そうか兄さんは知らないから」



「ユリアナ嬢は知っているな。私にも教えてもらおうか、向こうで話をしよう」


 ソファーに座る3人、ユリアナはお茶と菓子を出す。


「さて、ユリアナ嬢」

「あの、敬称なしでいいですよ」

「そうだよ。妹になるんだ。でもね、ユリアと呼ぶのは僕だけだよ」


「さて、聞かせてもらおうかな」




 ユリアナの菓子を摘むアルシュベルト。菓子を食べ終わると、髪を解きピアスを外す。


「外すとこの通りだ」


 黒い長い髪はサラサラの銀の髪に変わったのだった。


「おい、黒髪が……しかも銀色だと?」

「そうだ。僕はずっと考えていたんだ。この髪色には見覚えがあるでしょ」


「まさか……元騎士団長?」

「正解」


「母さんは認めたよ。騎士団長とは幼馴染で婚約者だったようでね。婚約していたのが父さんに変更となったそうだ。あんなに強くていい男の騎士団長がずっと独身だった理由も母さんだよ。ずっと、2人は想い合ってたんだね。当時の母は一世一代の賭けに出た」


 ゆっくりと茶を飲むアルシュベルト。


「何故、髪色を……しかし、その色だと皆が知ったら」


 フェルトは母の不貞だけではなく、異父兄弟だと知り言葉が出なかった。


「そうだね。僕が黒髪でいた理由は、父が自分の色ではない事に腹を立てたんだ。僕が産まれた時の髪色は金色だったみたい。自分と同じ色にしろと命令した。兄さんにも内緒だった。銀色には徐々に変わったんだ。母が僕の本当の髪色を知ったのは最近だよ。団長が亡くなる少し前に母とユリアを連れて団長の見舞いに行ったんだ」

 


 2か月前、騎士団長は病の為に40歳という若さで亡くなった。若い頃から部下達に慕われ、真面目さと強さを兼ね備えた男は最年少で団長へとなった。そして銀色の髪を靡かせ戦い、そして若き頃から母の婚約者として護衛と夜会のパートナーをする凛々しい姿に多くの令嬢は目を奪われた。

 しかし母との婚約が解消され、我こそは彼の隣にと思う令嬢達だったが、誰一人として騎士団長の恋人にすらなれない難攻不落の銀の騎士と呼ばれていたのだった。



「団長様……嬉しそうだったね」

「最初で最後……家族として過ごした。そしてね……」

「団長様、幸せそうに眠ったわ。大好きな女性と息子に囲まれてね」


「うん……ユリアの占いがあったからね。母を騙してまで連れて行って良かったよ」



「俺と妹は父さんの子か……まぁ、同じ母から生まれたのには変わりないな」


 この国は女性が後継者となる。つまり国王と呼ばれているフェルトとアルシュベルトの父はあくまで王配だ。王女であった母は優秀な男から種を貰い繋ぐ、それが王族の王妃の務め、次の世代は末姫がこの国を治めていく。王子はそれを支える。それがこの国だ。



「兄さん……問題はクレアが女児を産んだ。さてどうしようか」


 アルシュベルトは菓子を摘みながら話す。



「ん〜」

 考え込むフェルト。



「一応、兄さんの妻が産んだ子だ。王位継承2位だよ。それにさ……僕の子だなんて言われたら。ん? ユリア……お菓子が……ない」



 空の皿を悲しそうに見つめるアルシュベルト。


「お茶のおかわりも用意するわ。少し2人で考えていて、私は……ちょっと最後の仕上げをしてくるわ」

「ん? 何か作ってたの?」


「そうよ。今日は2人とも泊まっていったら、たまには部下達にも頭を悩ませる案件も必要よ」


「……いいのか? アルシュベルト」

「ユリアがいいのなら問題ない。今日はハンバーグがいいな」


「……ふふっ、そう言うと思って準備してたわ」

「さすが、愛するユリアだ、僕たちが来ることもわかっていたね」


「さぁね」


 ユリアナは自室のある店の2階へと行く。

 テーブルには沢山のお菓子と茶か用意が何処からか姿を現した。

 

「はい、兄さん。お茶のお代わりだよ、たまには兄弟で話をしようか。僕達の未来がかかっている。国の未来もね」


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