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9『学び舎』

 小高い丘の上にある家から歩いて、十五分ぐらいだろうか……。


「……はぁ、はぁ。……着いた」

「おぉ、やっと来たか。今日の現場に向かうぞ」


 ……今なんと? 着いたばっかりなのに……。

 街の入り口に着いて早々、親方は俺の荷物の三倍はあるだろう袋を担ぎ上げた。


「……マジかよ」


 土木作業の仕事道具は意外と重い。

 すでに俺の肩は道具入れの(ひも)から伝わった重みで、今日一日の使用上限を使い果たし――。振り返って見える我が家までの距離に足がすくむ。

 車社会に慣れ浸しんだ日本人にとって、重い荷物を持っての通勤は……もはや肉体労働の一部。いや、肉体労働の全てと言っても過言ではない!


 帰りたい……。

 しかし、一家の大黒柱として弱音を吐くことはできない……。


 俺は今日を最後に、親方へ退職願いを申し出ることを心に決めた。

 土木作業員が親方一人になった所で問題ないだろう……。

 そうだ、イエローと共に猟人として生計を立てればいい!

 にしても、まだ現場には着かないのだろうか……。


「親方~~。今日の現場ってどこすか~? 俺、もう肩が爆発寸前ですよ~」

「相変わらずお前はヘタレだなぁ。娘の前でもそんなんなのか?」

「こんな姿見せれるわけないじゃないすか~。ちゃんと、良い父親やってますよ~」


「ホントかよ……おっ、見えて来たぞ。今日からの現場」


 え? あそこって……。

 俺は親方が指さした場所に見覚えがあった。

 むしろ、アシェリーの異世界生活で何度も出てくる場面――――アシェリーの通う学校である。

 学校といっても、屋敷を学び舎として使っているだけで生徒数は十人にも満たない。


 しかし、おかしい……。

 古びた屋敷ではあったが、補修工事などの人が出入りする様子は無かったはず……。

 もしや……。

 俺の異世界百科事典がこの状況が何かを教える――――。



 ――――バタフライエフェクト。



 ほんのわずかな変化が加わると、その後の状態が予想もできないほど大きく異なってしまう現象のあれだ。


 とはいえ……起きてしまったことはしょうがない。

 そもそも、俺たちがアシェリーの異世界生活に干渉すること自体が非人道的行為なバタフライエフェクト。

 悪く言えば、俺らは彼女の異世界生活にケチをつけて土足で改変しようとしているのだ。


「……こりゃひでぇな。飛竜でも低空飛行で横切ったのか?」

「…………」


 二階建ての屋敷は三角屋根の片面がほとんど剝げ落ち……小さなのぞき窓があっただろう場所からは子供がこちらを見ている。


「ちょっくら話してくるから、足場の準備頼むわ」

「へ~い」


 とはいえマズい……アシェリーとバッティングしてしまったら、明日からの楽々猟人生活が水の泡!

 俺は終業時間を待たずに、ドロンしようと思い――荷物を置いて逃げようとしたときだった。


「おっさん、こんなとこで何やってんの?」


 聞き覚えがある言い回し……だが子供の声?

 声のした一階の窓から顔を出していたのは……。

 アシェリーと同世代ぐらいまでに、幼くなった姿のレッドだった。

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