7『アシェリーもとい、樋口杏子さんの異世界生活』
「イエローどうしよう……これじゃ憑依じゃなくて転移だよね……」
「……まあとりあえずはさ。向こうの班も同じような状況らしいから……ハジメ、このお肉もっとないの?」
「おいこら、無銭飲食。そもそも、それは俺の分だ」
朝食を始めた二人をよそに……俺は追加で朝食の準備をしていた。
チュートリアルステージで監視するムラサキとの連絡はイエローが代表して行う。
どうやら、レッドたちも俺たち同様。元々の姿のようだ。
「けど良かったのかしら? まだ私たち、主人公の女の子に会ってないわよ?」
「いいのいいの。そこらへんの帳尻合わせなんていくらでも出来るしさ、でしょハジメ?」
「……俺を過大評価するなイエロー。とりあえず、彼女が帰ってきたら先走って先生を雇ったことにはするが……」
準備した朝食を二人の座る食卓に運んでいるときだった。
玄関が開き……。
「ただいま帰りました……」
そこには転生したの女の子『アシェリー』もとい樋口杏子さんが怯えた様子でこっちを見ていた。
「おかえり」
「おっかえりー」
「きゃああああああ。何この生きもの超ーかわいんですけど! そうそうそう、私の娘アシェリー。おかえり~~」
一人我を忘れて抱きついたピンク。…………まずい。
そもそも、アシェリーもとい樋口杏子さんの異世界生活で家族とのやり取りはほとんど無かったのだ。
両親の人間性は不明だし――。彼女に違和感を与えかねない……。
また、彼女の日常は一人闇雲に修行しては諦め、文字の読み書きを習いに近所の子供たちが集まる寺子屋のような所に通う毎日だった……。
……ちょっと待てよ。ホワイト班は恋愛対象のフラグ回収だった気が……いや、まさかな。
「ピンク、アシェリーが苦しそうじゃないか。朝食を食べさせてあげなさい」
「は~~い。アシェリーちゃん、ママとお手々洗おうね」
過保護――――ッ。
ピンクは見かけによらず、子供好きなようだ。
ちなみにだが、俺たちがそれぞれを『名前』で呼ぶとき――元々いる人間には『ちゃんとした名前』で聞こえるらしい……。
そして、夫婦役の俺とピンクはこれで良いらしい……。
食卓を四人で囲み食事をしながら、本題を進める。
「アシェリー、俺と母さんで話し合ったんだが……」
「父様、もしかしてアシェリーのために先生を付けてくださるのですか?」
「そうよアシェリー。独学には限界があるわ……」
「なんたってアタイは十二導士の内の一人なんだからね! スローライフでも世界征服でも、ドンと来いさ!」
おい、イエロー……。
「先生は異世界の方なのですか――――ッ?!」
その後、アシェリーもとい樋口杏子さんの誤解でない誤解を解くのに俺たちは必死だった。