6『ピンク色の朝』
まだ寝ていたい……。
そんな朝を迎えるのは久しぶりだ。
チュートリアルステージでの生活は睡眠を必要としない。故に、寝起きのぼーっとした感覚が久しかった。
ベッドの隣では背を向けて眠る女性……妻に憑依しているピンクだ。
寝起きのキスでも頭にかましたい所だが、ふとムラサキに監視されていた事を思い出し……背筋に悪寒を感じた。
「顔でも洗うか……」
裕福では無いが、綺麗に整理整頓された家の中は中世ナーロッパ世界の一般家庭である事を物語っている。
洗面所にて、甕からタライに水を汲み……顔を洗い、ゴワついた布で顔を拭いた……。
「……え?」
鏡写る自分の顔……いや、本来なら主人公である彼女の父親の顔があるはずなのに。
そこには『税所一』、俺自身が写っていた。
「きゃああああああああ」
突然、ピンクが眠る寝室から叫び声が聞こえる。
やばいッ! ピンクに何かあれば、戻った時にムラサキから何をされるか分かったものでは無い。
「何があったピンク!」
急いで寝室に戻ると、ベッドの上で手鏡を持つスッピンのピンクが俺を見て……。
「いやああああ! 見ないでええええええ」
顔を隠し、うずくまるのだった。
化粧をしていても童顔のピンクの素顔は、十代と嘘をつかれても気づかれないほど幼かった……。
マジ異世界最高。
紳士としての嗜みを弁えている俺はピンクがぴえんになるのをリビングで待つ。
「…………」
にしても、腹が減った……。
確か、主人公の彼女は朝食前には一人で修行をしに出かけていたはず。
かと言って、俺がぴえんをしたままピンクの手料理を待つのもダサ過ぎる……。
俺は三人分の朝食を準備する事にした。
サラダとスープにパン。そして、何かの骨付き肉を焼き上げ、食卓に並べていると玄関をノックする音が聞こえた。
俺の記憶では、この家に誰かがやって来ることはなかったはずだが…。
「はーい、新聞なら要りませんよ…………イエロー」
「……はじめ」
玄関を開けると、大きな三角帽子を被り魔法の杖を持つ、ぴえんの顔をしたイエローが立っていた…………。
「まだこの家にぴえんは一人で充分ですッ!」
本能的に俺はイエローを追い帰すことにした。
「ちょちょちょっ、アタイに頼んだのはハジメでしょ!」
「頼んだが、まだ頼んでない! そう、俺はまだ頼んでない!」
くそっ! なんて力してんだこいつ、バフでもかけてんのか?!
俺は『子一人の結婚生活』というものをまだ味わいたかったのだ。
むしろ、まだ始まったとも言えない!
「むぅー! 二回も頼んでないって言った! てか、この状況、ハジメも気づいてんでしょ!? おかしいって。それになんか良い匂い……アタイ急いで来たから何も食べてなかったんだよねーあぁほんと気がきく男!」
「二、三日ッ!二、三日で良いからー」
俺は全身の筋肉に語りかける……。
おい、俺の筋肉よ! どうなんだ?!
魔法のバフなんかに負けてたまるかぁぁぁぁ!!
しかし、異世界というものは非情だ。
「あら。イエローもう来たの? とりあえず、ウチ入ったら?」
ピンクの準備が整ったことを俺に知らせた。
「そうなんだピンク、イエローがなかなか家に入ろうとしなくて俺も困ってたんだ。まぁ、飯でも食って落ち着けよイエロー」
妻役の前でカッコ悪いことは出来ないと、俺は唖然とするイエローを招き入れる事にした。
イエローは俺に耳打ちして。
「貸ひとつだからね!」
買収してきたが……。
「飯食ったらチャラな」
「チッ」
やはり、仲間はフェアでないとな。