5『彼女の異世界生活を正規ルートへ!』
「くぅはぁ~~やっとかぁ」
レッドが大きく腕を上げて背伸びした。
俺も疲れこそ無いものの、二人の『ブラズレ』に感謝が湧き上がる。
ムラサキとホワイトが『ブラズレ』と言った主人公は幼女に転生した能力者。
主人公の回想からして、二十代のブラック企業勤めのOLが異世界転生を機にスローライフを目指すという流れだ。
しかし、彼女は幼女期から青年期の十五歳ぐらいで一気にシーン移動した後から性格がガラリと一変し、希望とやる気に満ちた女の子から引きこもりのコミュ障へとなり……止まってしまった。
俺はそんな主人公の彼女を気の毒に思うが、どう手助けできるか思い付かない……。
だからこそ、二人が『ブラズレ』と同時に声を上げた時は驚いた。どうやって引きこもりのコミュ障へと向かう未来を変えるのか……?
まぁ俺はこのチュートリアルステージで……。
ムラサキとホワイト、主人公の彼女を見守る傍観者だ……。
そんな事を思いながら、話し合いを呑気に聞き流しながら腰掛けていたのだが……。
「ムラサキ様――――ッ! 絶対に恋愛対象のフラグ回収不足です」
「何を言っているんだホワイト。どう見てもこの女の戦闘力不足だろ! あんな修行で生き抜ける訳ないだろ!」
「いいえ! フラグ回収です!」
「いいや、修行不足だ!」
ムラサキ専属の執事と思っていたホワイトは見かけによらず恋愛脳で、ムラサキは俺の見立て通りの自立した女であった。
こういう時はリーダーのイエローに聞いてみるのが良いだろう……。
「おいおい、イエロー。早速、分岐ルートできちゃったけどどうすんだ?」
「そうだね~。じゃんけんでいつもは決めるんだけど、あの二人が仲悪くなると仲直りするまで長いんだよねぇ。ハジメ、年長者でしょ? 何かいい案ないの?」
「そうだな……っておい」
その間にも、仲裁にレッドが入る。
「まあまあ、ムラサキもさぁ~修行って長いよ~。あの子どう見てもヘタレだよ~」
「うっさい! 攻略対象は黙ってろ」
レッドが『ちーん』となり、俺は閃いた。
「例えばなんだが……ムラサキ班とホワイト班に分けるのはどうだ? ほら、ここには九人いるわけだろ……」
「それだ!! ムラサキ班とホワイト班に分けて、二人の指示でアタイらは異世界でしっかり働くよ!!」
俺の話を中断してテーブルをバンッと鳴らしたイエローは今……なんと?
そして、班分けされ――。各々の憑依先が班長の二人から割り振られる。
俺は今回、主人公の父親に憑依することになった……。
父親って……結婚すら未経験なのに――ッ!
ムラサキとホワイトは特大プレートの前で憑依した俺たちに指示を出す役割となる。
『ブラズレ』の彼女たちが行かない理由は至極単純――感情移入し過ぎて、我を忘れないためだそうだ。
特大プレートは異世界へのゲートに姿を変え――。
「じゃあ、打ち合わせ通り。アタイらで主人公ちゃんの能力値向上をサポートするよ!」
「使者様と夫婦役だなんて私……はぁ」
「サイショさん、ピンクに手を出したら戻って来た時……わかってますよね? あなたの言動は私がここで一挙手一投足、監視していることをお忘れなく」
「……イエロー、すぐに師匠として雇いを出すから寄り道しないでくれよな……」
「それは隠しフラグかな?」
「おい……頼んだぞ」
「じゃあ、みんな! 彼女の異世界生活を正規ルートへ!」
こうして俺の――異世界転生転移の管理人としての現場一発目が始まった。