20『プレゼント選び』
いつも通りアシェリーとピンクを見送り、家事を済ませた。
今日はイエローと二人で、隣町にアシェリーの誕生日プレゼントを買いに行く予定だ。
もちろん、隣町に行く理由はアシェリーとの接触を避けるため。
「ハジメ~~まだぁ?」
「いま行く」
それにしても、明日でこの生活が終わってしまうのも感慨深い。
モブキャラが主人公の物語りはこれまでに何度も観てきたが、俺たちはそのモブキャラですら無くなる……。
言うなれば、自分の性格をクローンのモブキャラに定着させるようなものだ。
ここでの生活が終われば、俺たちはチュートリアルステージに戻り、アシェリーはコピーされた俺たちと過ごし……未来へと歩んでいく。
本当にそれだけで、彼女の止まってしまう未来が変わるのか疑問だが……。
そんなことをドラゴンに変身したイエローに乗りながら考えた。
「イエロー、明日で終わるんだ。安全運転で頼むぞ」
「はいはい。わかってるさ、そんなこと。……でもねハジメ、ドラゴンに法定速度はないんだよ?」
背に乗ったことを確認したイエローは、大きく両翼を広げてニヤリとほくそ笑むのだった。
*
「ハジメはアシェリーちゃんへの誕生日プレゼント考えてきたの?」
「もちろん、いま考えているところだ」
隣町は露店が並び、武器やアクセサリー、魔導書なんかも売られていた。
しかし、どの店を見てもパチモン臭い……。
そもそも、ちゃんとした物を扱っていれば店として成り立つはず。
だが、そんなことも言ってられない……根本的なところ、アシェリーへのプレゼントが決まらない。どれを渡しても、愛想笑いで引きつった彼女の顔が目に浮かぶ……。
「アタイはこれにしよ~~。おじさん、これちょうだい!」
イエローは小さなポーチを手にしていた。
クソッ、無難だが絶妙なところを攻めていやがる。
何と言っても、魔法の先生が魔法具をプレゼントとして選ばない所が良い!
ならば――――ッ。
「イエロー、あそこの魔法具店に入ってもいいか?」
俺は安全策に出ることにした。
魔法具店は杖や、魔導書、瓶に入った爬虫類など。いかにも魔法具店らしいものが揃っている。
しかし……どれも高い。子供のアシェリーにプレゼントとして渡すにはどれも高価すぎる。
そもそも、子供のプレゼントの相場ってどのくらいなんだ? 二千円? 三千円? ググれない異世界は不便だ。
そんなことを思いながら、陳列されている商品を見ていると、万年筆のようなものが目についた。
「これも、魔法具なのか?」
「どれどれ? あぁこれは魔法筆だね、懐かし~~」
無駄に体を密着して、教えてくれるイエロー。
「へぇ。魔法の杖とは何か違うのか?」
「へぇって、ちょっとはドキッとしないのさ? こんなにイイ女とデートしてるっていうのに」
「ただの買い物だろ。それで、何が違うんだ?」
「はいはい、どうせアタイはピンクみたいに妻役は務まりませんよ~~」
めんどくせぇ……。
どう取り繕っても角が立つもの言いだ。
俺が思うに、イエローは承認欲求を満たしたいだけ! 惑わされるな俺!
「話を逸らすなイエロー、父親役が務まってないのは俺も一緒。それで何が違うんだ?」
「ハジメは真面目なんだか不真面目なんだか。まぁ、簡単にいうと魔法の杖がポケモンでいう所のリザードンで魔法筆がヒトカゲだね」
「ん~~つまり、弱いってことか?」
「間違ってはないね。要するに魔法の杖は進化の歴史なのさ。地面に魔法陣を描いてた時代、魔法筆で文字として魔法を使ってた時代、魔法の杖で魔法を唱えた時代、詠唱だけで魔法を使った時代、無詠唱で魔法を使う現代みたいなね。もっと言うと、骨董品だね。まぁ魔法の杖と詠唱、無詠唱が主軸となった現代に比べると……魔法を使うときの反動がゼロになるぐらいだから、能力を底上げする魔法具の方をみんな好んで使ってるね」
そこまでの知識がありながら、なぜポーチを選んだのだと思ったが……
「……なるほど。じゃあ、これでいいっか。お手頃価格だし」
「うわぁ……プレゼントを値段で決めるとか。……ないわぁ」
「はいはい、どうせダメ夫ですよ。俺は」
誰にも買われないのか、値下げシールが重ねて貼られ、二千五百ガエンになった魔法筆をプレゼントにすることにした。




