17『フラッガー』
陽気な魔法使いの女を見た直後だった。
思い出される――失われた記憶。
「イエロー……」
「んん?? どうかしたのさ?」
「……いや、大丈夫だ。アシェリーと言ったか……すまないが二人にして欲しい」
アシェリーが部屋を出た後、俺に起こった一時的な記憶喪失を話した。
「あぁぁぁ、まずいねぇ。だとは思っていたけど……」
「イエロー、もったいぶってないで教えて欲しいのだが」
「あぁごめんごめん。あの子『フラッガー』だね」
「フラッガー?? クラッカーの仲間かなんかの?」
「まあ、要するに自分で無意識に『フラグ』立ててしまう人の事だね」
「おい、スルーするな。まあ良い、それの何が悪いんだ?」
「もちろん、『この異世界』は彼女が主人公だからある程度自由にフラグを立てて、その後の展開を盛り上げるのはいいのさ。でも……無意識に不要なフラグを立て続けたらどうなると思う?」
「そうだな~、本筋から離れるとかか? でも、遠回りしても……そうか! 本筋に戻って来た時に、何も進んでないことを目の当たりにするのか!」
「そう、それさ。つまりは自己満に浸っておいて、後で後悔するわけだね……」
相変わらず容赦がねぇ……。
「てかなんで、アシェリーがその無意識にフラグを立てる『フラッガー』って言えるんだ?」
「ハジメ……異世界スローライフを目指す子の展開の途中に『記憶喪失』なんか要る?」
「確かに……要らんな。脈略がわからん」
「そうそう、脈略のないことは異世界において『均衡崩壊』になるのさ。そして、その均衡崩壊の原因は主に主人公の深層心理から来るんだよ」
「なるほど~~。生きてた時なんかは、つり合いなんてどこにあるんだって感じで普通だけど、こっちじゃそれがあだになるわけか。でもちょっと待てよ、彼女の深層心理からその均衡崩壊が起こるってことは……」
「そう……彼女は『頭に物がぶつかれば記憶を失ってもおかしくない』って自覚してなくても思ってるってこと」
「……マジか」
俺は少しずつだが、アシェリーに転生した樋口杏子さんがどういう人間だったのか分かってきたような気がした。
「そもそも、アタイたちがこっちに来た時にそのまんまの姿だったのがその最たるものかな」
「確かに……言っちゃあ悪いが、自分の親にも興味ないってことだよな」
転生先とは言えど、育ての親――――。
箸にも棒にも掛からない親なら兎も角……。
「とりあえず、俺が転校生っていう誤解は無かったことにした方が今後の展開としては良さそうだな」
「だね! アタイが屋敷の屋根をぶっ壊したことから始まったことだろうし――」
そして、イエローは壊れた屋根を魔法で直し――。
幼くなった俺と会った記憶も、彼女が授業中に見た夢であったことに『記憶を変更する魔法』を使ったのだった。