16『アシェリーのフラグ』
「そうなんですよねっ?! グリーン先生!?」
「……あぁ……この子は……」
アシェリーが来るまでは人が変わったように火のついたグリーンだったが、寝耳に水をぶっかけられでもしたのか状況を整理出来ずにいた。
そんなグリーンに『違うと言えっ!』と、アイコンタクトを全力で送る。
それに気づいたグリーンはハッとすると、軽く息をフッと吐き言った。
「よく分かりましたねアシェリー、彼を教室に案内してあげて下さい」
ダメだこりゃ……。
ならば、俺がこの現状を変えるしかない!
サッと立ち上がり。アシェリーの脇を抜けて逃げるルートを瞬時にシュミレーションし……。
「誰が学校なんか通うかよ、ばーかばーか!」
そう言ってシュミレーション通り廊下に飛び出した。
俺には解る……これはアシェリーが『突発的に生み出したフラグ』。
チンポジで止まってしまった転生転移者たちを見てきて分かったこと……その一。フラグにはいくつか種類がある。
分かりやすいフラグとしてはモブキャラ達が何気なく言ったひと言が分かりやすいだろう。
倒れた敵を前にして主人公以外が『呆気なかった』などと言おうものなら、倒れたはずの敵は復活して主人公を更なる窮地に追い込むし。
主人公が心底気に入らない奴には『ざまぁ』展開がグリコのおまけのように付いてくる。
ある意味……これは異世界の法則ではあるが、俺が転校生になる展開だけはいただけない。
なんたって俺は主夫としてスローライフを送るのだから…………。
「あぶないっ! 避けろっ!!!」
屋敷の玄関を出てすぐだった。親方の叫び声が聞こえたのは。
*
目を覚ますと、見覚えの無い天井だった。
俺の右手を包む小さな手の温もり。
「ここは……?」
「起きたのね、屋根から落ちてきた板材に頭を打たれて気絶してたのよ」
「そうか……ところで君は誰?」
「私はアシェリー、この学校に通ってるの。よろしくね、転校生くん」
「……転校生? ……俺が?」
一体、この美少女は何を言っているんだ?
俺は大人……んにゃ体が縮んでる!
もしやこれは……異世界転生ってヤツかっ?!
「自分が誰かわかる?」
「そんなの分かるに決まってるだろ。俺はサイショハジメ」
いや、ここは異世界。ハジメ・サイショの方が良かったか??
「珍しい名前……でもないか」
えっ? そうなの?? 異世界だよね?
しかし、美少女の前で狼狽えることはできない。
「だろ? とりあえず、その……なんだ。……手を、離してくれないか?」
「あっ! ごめんなさいっ!」
「いいよいいよっ。その……君が助けてくれたんだろ? ありがとう。どこも悪いところ無いようだし、俺ウチ帰るわ」
どこ帰ればいいかわからんけど、とりあえずここは俺がいるべき場所では無いと胸騒ぎがする。
「……帰るってどこに?」
アシェリーと名乗る女の子は感情を無くしたような声でそう言った……。
「それは…………」
俺が返答に困っているときだった。
「ハジメ――――ッ。起きた~~??」
陽気な魔法使いの女が俺の名を呼んで、部屋に入ってきた。