15『触れぬ神にたたりなし』
無心になって家事をすると、案外早く終わるものだ。
時刻は午前十時を過ぎたばかり。
食糧庫で見つけた茶葉に湯を注ぎ、庭でイエローとティータイムへと洒落込む。
「「…………」」
「……暇だな」
「……暇だね」
「「…………」」
暇な時ほど会話は弾まないものだ。
今頃アシェリーは勉強をし、ピンクたちもそれぞれの役割を果たし、親方も屋根の修理に励んでいるのだろう。
なのに、俺とイエローはただただ時間が過ぎゆくのを待つばかり……。
父親役といえど、アシェリーからしたらモブキャラの内の一人。彼女と冒険するわけではないし、必殺技を伝授するわけでもない。ただ彼女の衣食住を保証するだけの存在……。
そんな奴から突然の自己否定を食らった彼女は傷ついただろうに……。自己嫌悪で合わす顔がない……。
「……はぁ」
そんな俺にイエローも同情でもしたのだろう。
「馬鹿だねぇ~。いつまでに気してるのさ、まぁ言い方は別として。昨日、見てあげたけどあの子に見込みがないのは事実! ありぁ、良くて中の下が良い所だろうね。ハジメは気にしてるかもだけど、アタイはあれで良かったと思うよ」
「イエロー…………お前って、俺よりも残酷なこと言うんだな」
俺はイエローの毒舌に若干引くのであった……。
すると、イエローは行き過ぎた発言を後悔したのか、顔を赤らめムキになって。
「ハジメがッ、ハジメが落ち込んでるから言ったわけで本心じゃないし! アタイが教えるんだから、世界征服確定だしッ!」
「いやいや、世界征服をアシェリーは望んでないから。彼女が望んでるのはスローライフだから……」
そして、何を思ったのか……。
「――よしっ! どうせ暇だし、アシェリーがどうしてるか見に行こっ!」
「いってらっしゃーい」
「何言ってるのさ、ハジメも行くに決まってるじゃん! 行くよニート!」
「ニートじゃねえし! 主夫だし! ちゃんと家事してるし!」
「はいはい、ニートはみんなそう言う。どうせ、遠いとかこの後に文句言うんでしょ? はい、乗った乗った~」
「……被害広めるなよ」
ドラゴンの姿に変身するのだった。
*
「うわ、親方めっちゃ機嫌悪そうじゃん……。俺はここで待ってる」
離れた屋敷の門に身を潜め、中を覗くと板材を荒く投げる親方が見えた。
「何言ってるのさ、ここからじゃアシェリー見えないじゃん。……あ、そうだ!」
嫌な予感がした……。
イエローが俺に向けて魔法を唱え、眩い光が俺を包む――。
「……だよな」
「定番だからね!」
俺の身体と服は子供サイズになっていた。
だがしかし、アシェリーに合わす顔がない……。
「気持ちは嬉しいが、やっぱりイエローひとりで……」
「二人とも、こんなところで何してるんですか?」
断ろうとしていると――後ろから俺たちに話しかけてきたのはグリーンだった。
しゃんとした教師に見えるグリーンにはイエローもばつが悪いのか……。
「いやぁ、ハジメが気になるっていうからちょっと見に来ただけで~」
「イエロー、あなたまた単独行動しましたね! ここじゃ何ですから、中で話しますよ」
「……はい」
素直に従うしかなかった。
通された客室にて。
「――――だいたい、イエローはチームワークってものをですね! 聞いてますかイエロー!」
「……だってぇ」
「……まあ、グリーン。イエローだって悪気があったわけじゃ……」
「あなたもですよ! サイショハジメさん!」
「……はい」
ぱっと見は草食系男子のグリーンだが、先生の役に入り込んでいるのか……初めて会った時のようなオドオドした様子は無くなっていた。
その後も、主にイエローへの注意が続く……。
これは日頃のモヤモヤを一度に爆発させるやつかと思っていると――――。
ドアをノックする音が聞こえ。
「――グリーン先生! 授業の時間、もうとっくに過ぎてますよ!」
「「「あっ」」」
入って来たのはアシェリーだった。
そして……。
「……もしかして、転校生さんですか?」
俺を見てそんなことを言うのだった。