12『ごろごろ野菜とうさぎ肉のシチュー』
「……遅い」
疲れた体に再びムチ打ち準備した夕食――。
今日はごろごろ野菜とうさぎ肉のシチューを作ってみた。
作り終わったタイミングで修行から戻ってくるイエローたち――――そんなテンプレ通りの夕時を半ば予想していたのだが……。
時はすでに夜の八時――。
暇でしょうがない俺は家の掃除とゴミ出し、トイレと風呂の掃除まで済ませてしまった……。
食卓の上にはシチューを注ぐために置いた食器が静かにその時を待つばかり。
これでは共働きの夫と塾帰りの子供を待つ……。
『おかん』ではないか――――ッ。
そんなことを思った矢先。
「たっだいま~~。いやぁお腹減ったねぇ」
イエローを先頭に、一団となって帰って来た。
クソッ、あと十分遅かったら先に食べてたぞ。
そんなことを思いながらも――。
「おかえりー。今、温めるからちょっと待っててくれ」
キッチンに向かう俺は……やはりおかんそのもの。
しかしなぜだろう……怒りよりも言いようのない別の、暖かな感情が静かに湧き上がるのだった。
テレビもない、四人で囲む食卓は各々が今日あったエピソードを話す。
イエローとアシェリーは修行でどんなことをしただとか……。
ピンクは売上げ記録を更新して、店長を任せられることになっただとか……。
俺以外のみんな……充実した一日過ごしてんじゃん。
え、なに? 俺だけ肉体労働に家事って何かの罰ゲームかな?
やっぱり、明日からの仕事辞めても良いんじゃないかとすら思える。
「それで、ハジメはどうだったのさ?」
イエローが聞いてきた。
俺の情けない一日を知っているのはアシェリーだけ。
アシェリーも俺を見て少しソワソワしている。
「別に……ほどほどな一日だったさ」
そう言って、俺はアシェリーにアイコンタクトを送った。
「へぇ~つまんないの。シチューおかわり、肉多めで」
「へいへい、どうせつまんない一日ですよ~。てか三杯目だぞ」
イエローから皿を受け取り、鍋のあるキッチンに向かった。
すでにシチューの鍋は空……。アシェリーが注ぎに行ったので最後だったか……。
食卓からはピンクがイエローに注意する声が聞こえる。
「イエロー、使者様は家族のために働いているのよ。つまんないとか言わないの」
「え~~だってつまんないじゃん。ピンクもあれだねぇ奥さんになるとハジメの肩を持つんだねぇ。オアツイねぇ」
「イエローったら、からかわないの!」
おいおい、俺が席を外した時にそんな話しないでくれよ~。
ピンクの恥ずかしがってる顔が見えんじゃないかぁぁぁ。
しょうがなくそのまま洗い物を始めていると、アシェリーが食器を持ってやってきた。
「おう、悪いな。そこらへんに置いててくれ」
「……父様はやっぱり、家にいる時は別人みたいなのです」
「ふふふ、これが家庭円満の秘訣……。男は女性を立てろだ!」
アシェリーはクスッと笑い。
「――――何ですかそれっ、初めて聞きました。お皿拭くの手伝いますね」
「アシェリーは良いお嫁さんになると思うぞ~~」
そうして……一日目の夜は幕を閉じた。
あと俺は、料理系ダンディではない。