11『治癒魔法を頼む』
「……グリーン先生が授業で言ってたのです。お魚は傷みやすいから、長距離の運搬に向かないって……」
「にしても高い……」
確かに、魚の敷き詰められてただろう氷はほとんどが溶け。
若干だが生魚の匂いに腐敗臭も混じっている……。
高級サンマを前にして、今日の献立を再構築しているときだった。
「……私が氷を作れるようになったら」
アシェリーがそんな事を言った……。
瞬時に俺の異世界警報装置がアラートを鳴らす――。このフラグはダメだとッ。
俺の生きていた日本では、親のために子供が将来の夢を選択することはしばしばある。
そして、それらは美談としてテレビや多くのマスメディアで語られる……。
だが、ここは異世界! ほとんどの夢や希望が、山あり谷ありを経て結局の所……叶ってしまう場所。
要するに、向こうでは美談でも異世界では粗悪談なのだ……。
現実逃避にアニメやウェブ小説を読み漁っていた俺には分かる……どんなに評価されていたウェブ小説だって、アニメ化され――媒体が変わればゴミ糞扱いされることを。
それくらい……『異世界』は過剰な期待値の割に、至る所を擦られて――大阪のシンボル、ビリケンさんもびっくりなほど。
場所が変われば、誰の爪痕か手垢か分かったものではないのだ。
「アシェリー、ほどほどにな」
結局、市場では芋を数個買い――イエローの狩りが成功していることを願って、家に帰ることにした。
*
小高い丘の上にある我が家は、労働を終えた俺にとって霞んで見えるほど遠い。
「アシェリー助かったよ~。お前が飲み水を出せなかったら、俺は我が家に帰って来れなかったかもしれない……」
「大袈裟ですよ父様。あっ、先生が外で待ってくれてます! 先行きますね」
子供の活発さは筋力や持久力とは違う何かだとは言うが……。
まだ20mは緩やかな上り坂が続くというのにアシェリーは駆けて行った。
遅れて俺が到着すると、イエローは誇らしげに。
「ハジメ~。そんなだらしない姿をアシェリーに見せちゃだめじゃないか。ほれほれ、聞きたいんだろ? アタイの今日の獲れ高?!」
近くに狩ったモンスターは見えないが、どうせアイテムボックスか何かに入れているのだろう……。
分かってる分かってる、あなた様はおっちょこちょいに見えてちゃんとしている人なんでしょ。
そんなことを思いながら……。
「そんなことよりもイエロー、治癒魔法を頼む……。このままでは夕食を作る体力が……」
「――――よぉしっ、アシェリー! 早速、修行はっじめるよ~~ん」
「はいッ!」
二人は「あはは」と修行に出かけてしまった――。
残された俺は……。
家の食糧庫に完璧にまで補充された食料と置き手紙を見て。
「…………だよな。マジか…………」
これまでに感じたことのない疲労感が肩に重くのしかかる。
置き手紙には『継続して家事全般を頑張るように! byムラサキ だってさ~~』と書かれていた。