10『こんな異世界は嫌だ』
「――――気のせいだ。あと、おっさんて呼ぶなレッド。じゃ、そういうことだから」
レッドが幼くなっていようが、こんな危険地帯で時間をかけるわけにはいかない。
まだ見つかったのはレッドだけ……娘のアシェリーにさえ遭遇しなければ俺は土木作業の仕事から足を洗えるのだ。
俺は片手で『ちーっす』をし、屋敷の門へと向かう――。
「やっぱ、ハジメおっさんじゃねえかよ!」
クソガキッズのレッドが窓から飛び出し、俺の後を追走する。
「あと、名前付ければいいってもんじゃねえぞ。レッド!」
既に乳酸の溜まった足で必死に門へと向かう……。
あと10mで自由の身……時として、この一瞬の気の緩みは命取りとなる。
俺の走り慣れていないチキンレッグは絡まり――。
「んがー」
転んでしまった。
しかし、まだ俺には腕がある……。下手くそなほふく前進なのは自分でも分かる――――ッ。
だが、俺はそれでも地を這い、ユートピアへ向かうのだ!
「うおおおおおおおおお」
ふっと、体が宙に浮いた……。
俺には分かる、成人男性が宙に浮くなんて……魔法か親方のどちらかと。
「……足場はもう出来上がったのか?」
もちろん、後者であった。
しかし、強面の親方と言えど、近くに子供たちがいれば眉間をピクピクさせるだけで怒ることはないようだ……。
レッドに釣られて子供たちは出てきたのだろう。九死に一生……。
それにまだアシェリーとは遭遇してない。チャンスはいくらでも……。
「父様! お怪我はありませんか――――ッ?」
紛れ込んでいやがったぁぁぁ。
始まる前に終わった……俺の楽々猟人生活……。
俺は諦めて、土木作業の仕事を続けることにした。
それに……近くで娘アシェリーの学校での姿を見れるなんて良いじゃないか。
親なら誰もがその眼に焼き付けたいものである……。
頑張る父ちゃんの背中――しっかり見せてやんねえとな!
足場の組み立て作業は、おのずと勉強中の子供たちと顔を合わせることになる。
「ぅおいっ! ここの足場の紐、ゆるっゆるじゃねえかバカ野郎っ!」
「え? そこ結んでたの親方っすよ」
「バカ野郎――――ッ」
「しゃあねぇすね、今やりますよ。やりゃあ良いんでしょ。アシェリー、勉強がんばるんだぞ~」
「……」
俺はボロボロの体にムチを打ち働く。
そして気づく――学校ではレッドの他にブルーとオレンジが同様に幼くなっており、グリーンが先生をしていると。
彼らも恋愛のフラグ立てやアシェリーのフラグ回収に陰ながら手を貸す。
そんなこんなで一日目の現場が終わった……。
「お疲れ~~明日からは現場集合だから遅れんなよー」
「ういーっす、親方もお疲れ様っす」
家へは仕事が終わるのを待っていたアシェリーと帰る。
「父様って、家にいる時と仕事の時の雰囲気違うんですね……」
「そうか? みんなそういうもんじゃないのか?」
「なんか……生き生きしているように見えました!」
「アシェリー勘弁してくれよ~。どう見ても、俺があの仕事向いてるようには見えないだろ」
「――フフッ。確かに、親方さんに何度も怒られてましたもんね」
「そうそう、母さんには内緒だぞ。あと、帰りに市場で魚を買いたいんだが場所わかるか?」
「え? ……お魚ですか?」
「なんだアシェリー、魚苦手か? 勉強には魚が一番って婆ちゃんが言ってたぞ」
「いや……苦手じゃないのですが……」
アシェリーの様子に疑問を持ちながら向かった市場。
横並びの牛肉屋と魚屋……。
俺は魚の値段を見て驚愕した……。
「サンマ一匹が……A5ランクの黒毛牛200グラムと同じ値段だと――――ッ?!」