1『チュートリアルステージ』
「ここは、もしや……。勝ち確きたぁぁぁぁぁぁぁぁ」
俺の名前は税所一。三十八歳、独身。
日本の中小企業で働いていた――これと言った未来に期待を持てない中年であった。
恐らく俺は死んだのだろう。
現実世界では仕事終わりの晩酌のオトモに現実逃避でアニメやウェブ小説を読み漁る毎日だった。
だからこそ分かる……俺が今いるのは異世界へのチュートリアルステージ。スキルや武器、異世界でのライフプランを選択する場所であることが――ッ!
床だけ白く光る空間で、不自然にスキルや武器名が表示されている特大プレートを前に……。
思わず叫んでしまった。
だがおかしい……この場合、アナウンスや誰か女神様みたいのが居て、選択を急かすものだが……誰もいない。
「……しかし、選択肢の沼だなこりゃ」
恐らく表示されているものを選べば俺の異世界生活は始まる……。
そして、異世界生活では山あり谷ありの人生だが結局の所、上手くいくというものだろう――それが異世界というもの……。
だが俺には解る……そんなものは虚像であると。
現実逃避で幾多のアニメやウェブ小説を見て来たからこそ解る……何を選ぶかは重要だが、それが全てではない。
結局の所、『当たりスキル』『ハズレスキル』などとは言うが……自己満と評されて終わるか否かは他人次第なのだ。
もちろん、自己満100%の人生も良いが……強欲な俺は他人からも評価される人生にしたい。
だからこそ俺は選べずにいる……。
*
「あぁ、新規の方ですね~~。ここは異世界へ行くためのチュートリアルステージになります~。あのプレートの中から好きなものを選択すれば異世界に行くことができます。もちろん、前世の記憶は持っていけますし、何なら途中で思い出すパターンもありますよ。それにここでの会話も忘れることができますし……」
気づいた時には俺は……何も選べず、チュートリアルステージで異世界への転生転移者を案内していた。
「はぁ~~何でみんな、そんな簡単に決められるんだろ……。クソつまんねぇ人生を異世界でリプレイするだけなのに」
送り出した異世界への転生転移者は千人を軽く超えていた。
スキルや武器名が表示されている特大プレートは人によって変わるようで、たまにハズレスキルにしか見えないものだけが表示されている人もいた。
だが、そういう人に限って異世界での生活を謳歌しているように見える。
それとは逆に、異世界での生活風景が止まったまま動かない人もいる……。
彼ら彼女らは一体どうしてしまったのか。
これは単に『中世ナーロッパ世界』に限ったことではない。令嬢しかり、モフモフしかり、機械類に転生した人しかり……半数以上の人が止まったままだ。
そんな……誰にも頼まれていない異世界案内人みたいなことを始めて一万人を超えたときだった。
白く光る床の一部が開き――――階段から。
「そろそろ、仕事始めっかあ~~」
彼らがやってきた。