第7.5話『宿でのひととき』
小さな宿にたどり着いたカイルとミリエルは、立ち止まりながら宿の外観を眺めた。
外見は質素だが、どこか温かみを感じさせる建物だった。
「ここなら、落ち着けそうだな」
カイルが言うと、ミリエルも頷いた。
「うん、安そうだし、良い雰囲気!」
二人が宿の扉を開けると、40代くらいの恰幅の良い店主であろう女性が、気さくな笑顔で迎えてくれる。
「いらっしゃい、お二人さん。今夜の宿は決まってるかしら?」
ミリエルはにっこりと微笑んで声をかけた。
「すみません、実は私たち、明日からしばらくこの街に滞在しようと思っていて。長期でお世話になるとしたら、少しだけでもお安くしていただけるととても助かります。もちろん、お店のご都合もあると思うので、無理を言うつもりはありませんけど……」
ミリエルの言葉には、少しの謙虚さと強い意思が込められていた。
店主は俯きながら、肩を震わせていたのだが──
「──だっはっは! わかったわかった! 長期の滞在なら、少しだけ値段を見直すことにするよ。気持ち程度だけどね」
豪快に笑いながら、店主は料金が書かれた紙を見せる。そしてその額よりも少し低い金額を告げた。
「えっ? こんなにも……? 本当にありがとうございます!」
ミリエルは嬉しそうに飛び上がってお礼を言った。
「いやー、あんたみたいな可愛くて若い子がいきなりぎこちない交渉を始めるんだもの! 我慢できなかったわよ! でも、とっても真剣に交渉する姿はちょっと感心したわよ。アンタ気に入ったわ! 長居していってちょうだいね」
どうやらミリエルは店主の“お気に入り”になったようだ。
カイルは二人の会話を眺め、思わず笑みを浮かべた。
ミリエルの一生懸命さと、自然と他人を引きつける力に感心していた。
「さすがだな、ミリエル」
カイルが言うと、ミリエルは照れくさそうに顔を赤らめた。
◇ ◇ ◇
案内された部屋は、シンプルでありながらも家庭的で居心地の良い雰囲気が漂っていた。
店主の計らいで手料理までご馳走になる。
店主も交え3人で夕食を共にし、街の話を交えながら親しく会話を楽しんでいた。
「お二人さん、収穫祭目当てなんだろ? 明日あたりから、出店が並び出すはずだよ」
店主の言葉に、ミリエルは目を輝かせる。
「出店!? やったー!」
「お前、ほんとに楽しそうだな」
カイルが笑うと、ミリエルは人差し指を立てて左右に振る。
「わかってないね〜カイルくんは。お祭りだよ? 各地から集まる美味しいものが、いーっぱいあるんだから!」
冗談めかして言ってはいるが、ミリエルの食に対する本気度が伝わってきた。
「だっはっは! ホントに良いカップルさんだね」
店主の言葉に二人は一瞬固まる。
「カップルって……私たち、そうじゃないんですけど……」
すぐにミリエルが小声でつぶやいた。
カイルも恥ずかしそうに笑うのが精一杯だった。
「なんだ、違うのかい? でもねアンタ、この子を手放しちゃいけないよ? こんないい子、そうそういないんだから! だーっはっは!」
豪快な笑い声を宿に響かせながら、店主は部屋に戻って行った。
二人も部屋に戻り、明日の散策に胸を膨らませた。
外の月明かりが、静かな夜を照らしている。
その夜、二人は静かなひとときを過ごしながら、明日から始まる収穫祭に備えた。
《つづく》
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