第45話『因縁の剣 ―公開決闘の幕開け―』
講堂に轟いたレオンの声が、会場全体を揺らしていた。
その名を知る者も知らぬ者も、ただただ圧に呑まれている。
「茶番はここまでだ」
金糸の外套を翻し、レオンは舞台の中央へ歩む。
背後の従者たちが押し黙り、観客席はざわめきの渦となった。
「ここは研究院の場だ!」
シリル・ハートリーが立ち上がる。
「公開小審査はすでに終了した! これ以上は許されない!」
「ならば新しい審査だ」
レオンは青く光る瓶を掲げた。
「王都に害をなす偽物を排除する審査だ!」
黒衣の査察官が口元を歪める。
「……緩衝陣は稼働中だ。外へ出ぬ限りは命に別状はないだろう。記録も研究院が続行する。──よかろう、決闘を認めよう」
観客席がどよめく。
「決闘だと!?」
「研究院の中で?」
驚きと恐怖が混ざり合う。だが誰も目を逸らせなかった。
◇ ◇ ◇
「カイル……」
ミリエルが袖を掴む。震えていた。
「やめて、今は逃げて!」
カイルはその手を握り返し、静かに首を振った。
「もう逃げない。あの日の続きだ」
ラティナは冷ややかにレオンを睨み、吐き捨てる。
「一番見苦しいタイミングで出てくるのね」
フィノは鈴を抱え込み、顔を蒼くしながらも呟いた。
「……でも、これで本当に証明できる」
セリーヌは席から立ち上がり、震える声で叫ぶ。
「レオン! やめて! もうやめてよ!」
だがレオンは彼女を一瞥し、嗤った。
「相変わらずだな。選べない女が口を挟むな」
その一言に、セリーヌの顔が蒼白に染まる。
ミリエルが肩を抱き、耳元で囁いた。
「大丈夫。今は、見届ける番よ」
◇ ◇ ◇
レオンは腰の瓶を一気に掲げ、栓を引き抜いた。
中の液体が青く輝き、光の尾を引きながら彼の喉へと流れ込んでいく。
「……ごくっ、ごくっ」
会場がどよめいた。
「まさか──生で飲むのか!?」
「過剰摂取だ!」
レオンの肩が震え、血管が浮き上がる。
「お……おぉぉぉぉ……!!」
呼吸が荒れ、刃を握る手が青い火を纏った。
測定陣が激しく揺れ、波形が跳ね上がる。
「これが“規格”の力だ……! 王都の瓶の中身こそが、真の魔素だ!」
声が反響し、観客の耳を打つ。
彼の身体から放たれる魔素の奔流は、講堂全体を圧迫していた。
◇ ◇ ◇
カイルは木剣を手に、舞台の中央へ歩を進めた。
その姿に人々の視線が集まる。だが彼の耳には、もっと遠い記憶の声が蘇っていた。
──「カイル、荷物を持て。従者の分際で遅い」
──「戦いの場に立つな。お前は後ろで見ていろ」
──「俺がいれば十分だ」
思い出すのも嫌だった声。
レオンの背中に付き従い、仲間と呼ばれながらも下働き扱いを受けていた日々。
心臓を貫かれた、あの瞬間までも。
けれど今は違う。
隣に並ぶ仲間がいる。
自分の魔素を分かち合い、共に歩んでくれる者たちがいる。
(あの頃の俺は、ただ黙って耐えるしかなかった。今思えば、そんな状況と“向き合うこと”から逃げていたのかもしれない。だが今は──)
カイルは木剣を強く握り直す。
胸の奥で、青く濁った声を押し流すように。
「……来いよ、レオン」
低く、しかしはっきりと言葉を投げた。
「今度は俺が“逃げない”」
「……フン」
緩衝陣が厚みを増し、舞台を檻のように囲う。
光の檻の中で、二人が向き合った。
レオンが剣を構え、カイルが木剣を握り直す。
観客は誰一人声を発せず、ただ息を止めて見つめていた。
──次の瞬間、二人の足が同時に地を蹴った。
光と音が交錯する、その直前で。
《つづく》
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