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第19話『瓶のカタチ』

 応接室を出たあと、ミリエルはすぐさま作業室に籠もった。

 机には紙とペン、布の端切れや空き瓶が並べられ、彼女の目は真剣そのものだった。


「瓶って、“体”なんだよね……。じゃあ、“体”って、どんなのがいいんだろう?」


 ミリエルの呟きに、隣のラティナが頷く。


「まずは丈夫さ。落としても割れない、が前提ね。次に軽さ。たくさん持ち運ぶとなると、重いのはダメ。あと——」


「あと?」


「見た目。人は目で買うの。手に取ってもらえなければ、意味がない」


「うぅ〜……難しい……!」


 紙の上に描かれた幾つかの瓶のスケッチを眺めて、ミリエルは頭を抱えた。縦長、丸っこいもの、装飾がついたもの、どれもしっくりこない。


「でも、せっかくなら……オシャレなやつが良くない?」


「オシャレ……?」


「ほら、“これを持ってるとカッコイイ”みたいな! それって大事だと思うんだよねっ」


「……なるほど。それ、使う相手が貴族なら当然だけど、今回は“大衆向け”でしょ?」


「うん、でも子どもとか、女の子が持ってて楽しくなる瓶だったら、嬉しくない?」


「そういう感性……私はあんまり持ち合わせてないのよね」


 ラティナは肩をすくめる。だが、否定ではなかった。

 するとそこへ、ヴァンスが書類を持ってやってきた。


「ふたりとも、話はまとまったか?」


「うーん……まだだけど、ちょっと方向は見えてきたよ!」


「それは良かった。こちらも素材のあたりはつけてある。特殊加工の職人にも声をかけてあるが……」


 彼はテーブルの端に、別の魔素水の瓶を置いた。


「これは、既存の市販品だ。見て分かる通り、表面に刻印があるだろう?」


「……これ、魔法陣?」


「そう。“安定化魔法”が刻まれてる。瓶そのものに魔法をかけてあるんだ。これで魔素の揺らぎを抑え、輸送中の事故を防いでいる」


 ラティナが瓶を持ち上げ、角度を変えて刻印を確認する。


「なるほど……封印と、結界の応用みたいな構造ね。複雑すぎて、魔力だけじゃ維持できない構造……」


「ラティナ、分かるの!?」


「理屈だけよ。私も“刻む側”じゃないし。だけど、これは相当精密な術式よ」


「それに加えて、今回流通させるカイルの魔素水は濃度が低いものだ。安定化の術式がなければ、輸送中に瓶が割れる可能性はかなり高いだろう」


 ヴァンスは腕を組んで唸るように言った。


()()()なら、この手の術式にも詳しいと思うんだがな。……まあ、今はただの“書庫の管理人”なんだが」


「その、カイルにも言ってた“書庫”って?」


「ベルダルク近郊にある、旧王家の魔導書庫。今はもう誰も出入りしないが、そこに住み着いてる変わり者がいてな。俺が過去に世話になった人物だ」


「なんか、すごくクセが強そうな予感がするんだけど……」


「その予感は外れないだろうな。……カイル君に行ってもらってるのは、魔素水の生成者である彼にしか通じ合えないものがあるかもしれんからだ」


 ミリエルが心配そうな声で呟く。


「カイル、大丈夫かな……」


「大丈夫なんじゃない? カイルって、なんて言うのかしら、その……妙な雰囲気があるでしょ? なんか試してみたくなるような、放っておけないような」


「あはは、わかる! ラティナもそう思ってたんだ!」


「あはは! ミリエルもなのね!」


 カイルのいないところで勝手に意気投合する二人であった。 


「きっと大丈夫ね」と、ミリエルは一呼吸しながら。「じゃあ、あたしたちは瓶の“外側”を、カイルは“内側”の問題を解決するってことね!」


「その通りだ」


 ヴァンスが微笑みながら頷いた。

 ラティナは再び紙に向かい、瓶の設計図を描き始めた。ミリエルもまた、手を動かす。


「ねぇ、子どもでも持ちやすい瓶って、どんなのだろう?」


「細めで、握るところにへこみがある形……とか? 滑らない工夫も要るわね」


「うんうん、それ、いいかも!」


 ふたりのアイデアが重なり合い、瓶の形が少しずつ形になっていく。


 ◇ ◇ ◇


 そしてその頃——。

 街の外れ、ひっそりと森の奥に佇む石造りの建物の前に、一人の青年が立っていた。


「ここが……書庫、か」


 カイルは石扉の前で立ち止まり、空を仰いだ。

 重厚な建物。苔むした壁面には、かつての栄華を示す王家の紋章がかすかに残されていた。

 入り口には誰の姿もない。代わりに、重たい扉には『立入禁止』の札と、簡易的な封印が貼られていた。


「……クセが強い、ね」


 呟いたそのときだった。

 カイルの目の前で、封印が勝手に“すっ”と剥がれ、扉が軋みを上げて開いた。

 その向こうから、ひんやりとした空気と、紙と薬品の匂いが流れてくる。


「……誘われてる?」


 カイルは一歩、足を踏み入れた。

 まだ見ぬ“クセの強い”存在との出会いが、静かに幕を開けようとしていた。


 《つづく》



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※最新話は【毎日12時10分】更新予定です。

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