第17話『二つの力』
室内に張り詰めた静寂は、剣戟よりも鋭く、火花よりも熱を帯びていた。
カイルは深く息を吸い、右手の二本指を地面へとかざす。その動作ひとつで、空気の流れが変わった。
「……来い」
ヴァンスは微動だにせず、大剣を片手に構える。
カイルが一歩踏み込むと同時に、並走する形で足元から隆起した岩塊がまるで生き物のように走り出した。
「『土槍』!」
鋭く尖った土の槍が地面を這うように飛び出し、ヴァンスの脇腹を狙う。だが、彼は身をひねるでもなく、剣の柄で難なく受け流した。
「いい攻撃だ。だが、単調だな!!」
ヴァンスは受け流した剣筋をそのまま、カイルへと向ける。
大剣の重さを感じさせないその剣筋は、歴戦の剣士を彷彿とさせた。
「まだ終わってません!」
次の瞬間、空気にパチッと火花が弾けた。
カイルの左手に、微かな熱が宿る。そこから奔る赤光──
「『火糸』!」
細く、鋭い火の糸がしなるように空間を走り、ヴァンスの足元へと飛ぶ。だが、彼は地を蹴って跳び、宙で姿勢を保ったまま着地する。
「二属性か。やはり只者ではないな」
「それだけじゃ、終わりませんよ」
カイルはパンッ、と両手を合わせ、両の属性を同時に練り始める。
足元には岩塊、頭上には火の残滓。その二つが絡み合うように流れ、まるでひとつの意志を持つかのように渦を巻く。
「『地火螺旋』!!」
土と火が混ざり合い、螺旋状の熱塊が発生。轟音と共に空間を突き抜け、ヴァンスの正面へと襲いかかった。
「ほう……!」
ヴァンスが目を見開く。鋼の剣で構えたものの、爆風が押し寄せ、壁際まで弾かれる。
しかし、彼は倒れない。ただ、驚きと興奮を帯びた目で、煙の向こうに立つ少年を見つめていた。
「……これは」
風が煙を払い、カイルの姿が現れる。まだ息は整っている。魔素の暴走もない。技の後も、しっかりと制御されている。
「この年齢で……あれだけの魔素を、複合属性で……」
ラティナがぽつりと呟く。ミリエルは唖然としつつも、誇らしげな笑みを浮かべていた。
やがて、ヴァンスはゆっくりと剣を下ろした。
「……降参だ。あれでまだ魔力に余裕があるのか……まったく、骨のある若造だな」
「ありがとうございます」
カイルが息を整えながら、頭を下げる。
「ヴァンスさんに隙が全然無かったので、こちらで無理やり作るしかありませんでした。それに、『地火螺旋』を受けて立っていられるなんて……流石です」
「はっはっは、私もまだまだ現役ってことだ」
ヴァンスは続ける。
「……君は力も才能もセンスもある。だから、力で相手の意見をねじ曲げることもできる。……しかし、君はそれをしない、いや、したくない性質のようだな。君自身も、その力をどう使うか、決めあぐねているようにも感じた」
「……」
カイルはヴァンスの言葉を受け止めて、黙って聞き入れる。
「そして、私の力量に合わせて己の力を調整した。と同時に、自分に何ができるか、楽しんでいるようにも見えた。……カイル君。君みたいな人間が、これからの世界を変えてくれるのかもしれないな」
ヴァンスは鞘に剣を納め、カイルたちに向き直った。
「君たちの目的は、“魔素水”の流通と普及。……その品質、見せてもらえるか?」
「はい。これが私たちの《ミリエル印》の魔素水です」
ラティナが瓶を差し出す。ヴァンスは慎重に受け取り、光に透かす。
無色透明で、濁りも泡立ちもない。液体の中にはわずかな光の粒がきらめいていた。
「……なるほど。純度、魔素量、そして安定性。これは、間違いなく一級品だ。工業品ではなく、まるで芸術だな」
彼は深く頷き、視線をラティナへと移した。
「よくぞ、これを見つけた。これは……もはや奇跡の水と言っても差し支えない」
「へへっ、言ったでしょ? 私、見る目だけはあるのよ」
「ふん。調子に乗るな」
そう言いながらも、ヴァンスの表情は穏やかだった。
「君たちの魔素水、そして信念。商会として、全面的に支援しよう。シェルバの名に懸けて、これを世界に届ける手助けをする」
その言葉に、カイルたちは顔を見合わせた。
大きな一歩が、確かに今、踏み出されたのだ。
《つづく》
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