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夏合宿 3

 翌朝は9時から開始される。その前に集まってスケジュール確認と連絡事項を伝えていく。

「今日の撮影ですが、変更が一点あります。昨日夜の海の景色が良かったそうで、ラストシーンを夜の海で撮影したいと申し出がありました。夕食を早めに取って20時から撮影開始します。配信用コンテンツの撮影が少し大変になりますが……よろしくお願いします」

「スタッフも夕飯一緒にしちゃえば?」

「配信の編集が大変になるんですよ……」

「そうかー。じゃ、マネージャー二人カメラ持って参加ってのは?」

「賛成!映らなきゃいいんだよね?」

 あくまでも食事に合流させたいらしい……。

「MV撮影後からはメンバーでお願いします」

 ここは高橋さんが諦めて返事をする。

「準備完了しましたー!U:niONとダンサーの皆さんよろしくお願いします!」

「よろしくお願いします!」

 

 なんとか昼過ぎにバックダンサーが撮了した。

「お疲れ様でした。ありがとうございました」

「お疲れ様。この後15時頃まで見学して二人連れて帰るわ」

「ありがとうございます。夜の撮影が入って送れなくなってしまってすみません」

「仕方ないよ、それでなくてもゆきはマネージャー業務もこなすんでしょ?」

「ゆき先生この後マネージャーの仕事もするの?タフ〜」

「私の本業はマネージャーだから。皆さんは早く帰って休んでくださいね。先に現場戻ります」

 U:niONは休まず撮影中だ。ゆっくりしていられない。

「ゆき先生ってホントにパワフルな人だよね」

「あんなに応援してくれるスタッフがいたらそりゃ頑張るよね」

「二人も応援される人を目指しなさいね」

「はい!その為にもしっかり見学して勉強勉強!」


 現場は滞りなく進み、バックダンサー組はもちろん、撮影隊も大半が引き上げて行った。

「夕飯の買いだしだー!」

「おー!」

「ジャンケンで準備組と買いだし組に別れます!」

「せーの、ジャンケンポン!」

 思った以上に時間が出来たので、買いだしから配信用コンテンツの撮影をする事になった。普段のわちゃわちゃをマネージャー二人で追いかける。買い出し、準備、調理。自然体の出会った頃のままの青年たちは、撮影の疲れも見せずに楽しんでいる。

 一段落したところで、撮影をメンバーに任せてマネージャーも離れて撮影風景を楽しむ。

「さっきまでのカッコイイ彼らはどこにいったんでしょうねぇ?」

「ホントですよね。でも、これが私の中では普通なんですけどね。パフォーマンスしている彼らの方が見ててびっくりします」

「私はゆきさんにもびっくりしてますけどね」

「やめてくださいよ。彼らとは違います」

「違わないんだけどなぁ」

「そろそろ私は撮影居残り組スタッフの、食事の手配に行ってきます。その後そのまま夜の撮影準備に取り掛かります」

「よろしくお願いします。私はこっちの撮影をして夜の撮影準備にメンバーを向かわせます」

 お互いにその後のタイムテーブルを確認して別れた。もっと疲れて動けなくなるんじゃないか、自分の体力が一番のネックになるんじゃないかと思っていたが、案外動けている。散々仕事帰りに気晴らしと言ってダンス教室で踊って体力をつけていた甲斐があったのかもしれない。

「皆さんお疲れ様です。お食事です。ついでに夜の撮影の段取りを確認させてください」

 一緒に食事を取りながら、夜の撮影の詳細を確認していく。

 昨日の夜、月明かりがとても綺麗で幻想的だったことや、タイミング良く今日が満月だと言うことを撮影監督に熱っぽく再び語られた。そして多分に漏れず、酒井さんも居残りしてくれている。若い人に任せず、自ら動いて行く姿は尊敬する。

「いつも率先して衣装チームまとめてくださって本当にありがとうございます」

「今時は若い人達使うのも色々気を使うから。まぁ、私がU:niONの現場が好きなのもあるけどね。YUHKIもいるし。今回の現場、YUHKIファンが多いのよぉ」

「ありがとうございます」

 なるほどみんな熱く語るわけだ。

「衣装もね、月明かり用に追加してもらったのよぉ。どうしてもゆきさんに着せたくて」

「私?U:niONじゃなくて?」

「U:niON分用意するとさすがに予算オーバーしちゃうから……わはは」

「いやいやいや、U:niONが主役ですよ!」

「U:niONも!ちゃんと違って見えるようにしたから!予算内で!」

 どうしてこうなるのか……ため息をつきながら、時計を確認するともう撮影時間が迫っていた。

「後三十分くらいで時間ですね。片付けないと……」

 ケータリングの片付けに動き出すと、撮影アシスタントさんが止めに来た。

「ここは私達がやるので!YUHKIさんは酒井さんと準備に行ってください!」

「マネージャーの仕事ですので……」

「私からしたらYUHKIさんも演者さんなので!大ファンなんです。一緒に仕事して、お話しできただけでも嬉しくて。片付けなんてとんでもない!させられません!」

 苦笑していると、酒井さんが(かたわ)らに来て、

「諦めて着替えに行くしかないねえ」

 と、ニヤニヤしながら引っ張って行かれた。


「どう?キレイでしょ、キレイでしょぉ?」

 月光に映えそうな、淡い藤色のワンピース・ドレス。U:niONには前日の白い衣装に同じ藤色のスカーフを各々施している。

「まさかこのパンプスで砂浜を歩くんですか?」

「あー……歩きにくいかなぁ?」

 どうやら深く考えてなかったらしい。歩けなさそうだったら手に持つか……思案しているとメンバー達も続々と着替えに来た。

「うわぁー。ゆきさんもう着替えたの?キレイ!」

「昨日よりレベルアップしてますね」

「すぐ着替えて来るから!」

「またツーショ撮ってや!」

 怒涛の如く通り過ぎ、着替えに行く。

「なに、あの子達ホントに面白いわねえ」

「若いですよね。可愛いです」

「ゆきさん居てこそのあの子達だから、ゆきさん込みで面白いし、可愛いわよ?」

 そうか、周りからはそう見えるんだった……。

「もう、何とでも言ってください……U:niONの一部だと思って頂いて光栄です」


 夜の海は怖いほどに美しかった。(なぎ)いている海は月明かりを映してキラキラと輝いていた。

「きれい……」

 幻想的な景色に思わず見とれ、言葉を失う。少し砂浜に降りて歩いてみる。思ったよりはパンプスでも歩けた。引き潮で湿った海岸は、更に容易(たやす)く歩けた。景色を堪能して振り返ると、同じように景色に呑まれているU:niONのみんながいた。手を振って、ゆっくり戻ろうとするとカメラが回っていたらしく、そこで止まって!と声がかかった。待っていると、メンバーがゆっくりこちらに向かって来てみんなが手を差し伸べる。ただただ嬉しくなって微笑むと、カット!と声がかかった。途端にメンバーがダッシュでハグしにきた。

「ちょっと!なに?」

「キレイすぎ!」

「そのまま月に帰るんかと」

「んなわけないんだけども!」

「全力で守りたくなった」

 口々に言われるのでよくわからない。月?帰る?

「皆さん撮影中ですよ!スタッフに笑われてます」

 そうだったーと、とりあえず我に返ったようだ。

「ゆきさんがYUHKIになって居なくなるんじゃないかって不安になったんだ」

「それくらい魅力的だったってこと」

 兄ズが落ち着いて意見をまとめてくれる。

「それは……ありがとうございます。でも、辞めろと言われてもマネージャーは辞めませんよ」

「やっぱりゆきさん好きー」

 またハグの嵐が過ぎ去る。

「みなさーん、撮影再開していいですかー?」

 スタッフもさすがに痺れをきらしているようだ。

「皆さん、仕事です」

「はい!よろしくお願いします!」

 そこからは、着々と進んで行く。月の海をバックに個人ショットを撮り、最後に波打ち際で昨日と同じシーンをトウヤバージョンで撮る。また監督から別パターンを撮りたいと希望があり、YUHKIが膝から崩れ落ちた所を支えるショットをトウヤ、リュウ、ナツの三人のバージョン、それ以外のみんなで支えるバージョンを撮って撮了した。最後にモニターチェックをすると、かなり余分なYUHKIのショットが沢山あることに気付き、くれぐれも顔を出さないように念を押す。

「皆さんとても素晴らしい表情でした。仕上がりを期待していてください」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 お礼の言葉を発すると、自然と号令となって、最後の挨拶をする。

「ありがとうございました!お疲れ様でした!」

 良かった。メンバーみんな満足そうな顔をしている。

「それでは急いで着替えて宿泊所へ戻って配信用の撮影してください」

「まあ、ずっと私は回したまんまなんですけどね」

 そう、高橋さんは食事から夜の撮影の様子もずっと撮影している。

「使えないシーンだらけだったんじゃ無いですか?かなりじゃれてましたよね……」

「上手く編集してもらいますよ」

 事務所の編集専門スタッフも大変だ……何はともあれ、撮影スタッフに挨拶をし、自身も着替える為に酒井さんと更衣室へ向かう。

「ホント月に帰るって表現がハマってた」

「また酒井さんまで……」

「歌詞とマッチしてホントにキレイだったんだもの。衣装準備した甲斐があったわ」

「メンバーの衣装も同じに見えなかったですね」

「でしょう?海風になびいて雰囲気もよく出て良かったわぁ」

「ありがとうございました」

「いえいえ、仕事だもの」

 信頼出来るスタッフが周りにいて、本当に良かった。


 翌朝、スタッフの宿泊所で皆さんに挨拶をして送り出し、高橋さんと二人でU:niONの元へと向かう。

「二泊は短いね。色々詰め込みすぎであっという間だったね」

「そうですね。私の場合は体力的には限界ですけど」

「それにしてもダンス凄かったなぁ。仲野さんと二人のダンスは圧巻でしたよ」

「そう言って頂けると頑張った甲斐があります。ダンスレッスンかなりハードだったので」

「確かにハードそうなダンスだったよ。あれをやってのけるってどんなスキルなんだってメンバー達とも話してたんですよ」

「歴だけは長いので。メンバーよりは少し長く生きてますしね?」

「ダンスを仕事にする選択肢は無かったの?」

「うーん。好き過ぎて、仕事にしたくなかったのかもしれないです」

 実際ダンスで生きる道も先生からは打診されていた。先生の下で働くのもある意味裏方の仕事だと思っていた。だからこそ、裏方の仕事に興味があったのだと思う。

「色々やってみて、先生みたいなダンサーさん含め、ステージに立つ皆さんを支える仕事がしたかったんですよね。支えて、輝く皆さんを見る方が楽しいな、と思ったんです」

「なるほどね。私なんか自分は無理だから、せめてキラキラした人と一緒に仕事してみたいってミーハーな理由ですからね。だから、余計になぜステージで輝ける人が裏方なのか不思議で」

 YUHKIファンなら当たり前の考えだろう。

「高橋さんもYUHKIに復帰して欲しい派ですよね」

「他人事みたいだね、まるで」

「少なくとも私とは違う作られたキャラクターなので……でも、U:niONと一緒に居たのは私だったような気がします。作品になったら、YUHKIっていう違う人だけど」

 よく分からないことを言っていると自分でも思う。けど、彼らのバックでポーズしたり、踊っていたのは間違いなく私だった。

「彼らの言う通り、U:niONに限って復活ですね」

「相手がU:niONで無かったら、やって無かったですから。彼らの為になったなら良かったです」

 ちょっと残念そうに、そっか、とだけ高橋さんは答えた。


「合宿お疲れ様でした」

「お疲れ様でしたー!」

「今回とてもいい経験をさせて頂くことができました。ありがとうございました」

 温かい歓声と拍手。そして。

「俺らも本当に楽しくて、いい経験になりました」

「ゆきさんのおかげだよね。ありがとう」

「めっちゃ頑張ってくれたんやろなって。ほんまありがとう」

「僕達よりもっとずっと大変だったんじゃない?本当にありがとう」

「ホンマありがとう。ゆきさん好きやー!」

「どさくさに紛れて何言ってんだよ。こんなヤツですが、俺と同じくらい感謝してます。ありがとう、ゆきさん」

「ゆきさんホンマ凄くて。めっちゃ勉強になりました。ありがとう」

「ゆきさんのおかげで絶対いいMVになった。スタッフの有難みってのを凄い感じた。ありがとう」

「ゆきさんとの共演で僕らもいい刺激を貰えました。ありがとう」

 全員から感謝の言葉を頂いてしまった。

「……びっくりした……ありがとうございます。私は今回一緒に仕事ができて、本当に楽しい時間だったんです。感謝されるなんて……U:niONのマネージャーになって本当に良かったです」

「ゆきさんがマネージャーになってくれて本当に良かったです」

「ありがとうございます!」

「やだ、泣きそうになるじゃないですか!やめてください」

 思わずみんなに背を向ける……隙を与えてしまったが最後、後ろから次々とハグを繰り返され、最後に兄ズのハグの後、二人に肩を組まれて移動車まで連れていかれた。


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