タイトル未定2025/05/23 17:16
『おはようございます
そろそろ集合時間です
ロビーまでお願いします』
グループのSNSアプリで集合を促し、ロビーへ向かう。エレベーターが開くと、下の階のはずの二人が既に乗り込んでいる。
「おはようございます。上の階に用ですか?」
「おはようございます。お迎えにあがりました」
「ちょっと聞いてもらいたいこともあってさ」
「事務所着いてからでも、車内でも聞けますよ?」
「ほら、あの演出の話!あの後リュウと話し込んじゃってさあ」
やっぱりそうなってるよね……
「あれほど早く休んでくださいって言ったのに」
「あはは。昨日はちゃんと休んだって」
当たり前だ。しかしそれすら怪しい。
「姫はしっかり休めましたか?」
怪しまれているのにすぐに気付いて誤魔化しにかかる。
「うん、今日はクマ大丈夫そうだね」
二人に近くでのぞき込まれて後ずさると、ちょうどエレベーターがポーンと、ロビー階だと告げた。
「着いた!まず降りましょう」
「はーい」
早足でロビーへ向かう。
「それじゃ集合時間まであと10分でお話しお伺いします」
ソファに座るとテーブルにメモを広げてこれをこうしたい、ああしたいと具体的にまとめてきていた。何時までやってたんだか。
そのうちパラパラとメンバーも集まりだして話に加わりだして、さらにイメージが広がって行く。若干広がりすぎかな。
アラームが鳴る。集合三分前。
「みんないます…か?」
気づくと座ったまま囲まれてしまっていて確認ができない。今日も綺麗な顔に至近距離で囲まれている。眩し過ぎる……
「ちょっと離れてください。点呼……あれ、ハルは?」
いないねぇ。連絡も無かったよね
うん、スマホ鳴ってなかったよね
呼んで来ようか?
言うと同時に動き出すトウヤを慌てて止める。
「待って、入れ違うと困ります!まず電話掛けますから」
応答無し…
「呼んで来るって」
「待ってください!みんなは先に行っててください」
「そうだよ。みんなは先に」
「リュウも。先に準備始めて頂かないと時間が押してしまいます。すぐ追いつきますから」
渋りながらも移動車に向かってくれた。さあ、急いで確認しに行かないと……!
「ハル?入りますよ?」
念の為渡されている合鍵で部屋に上がって、スマホで呼び出しながら進む。まだベッドルームでスマホの音がする。
「ハル?具合悪いですか?」
「えーゆきさん?おはよ。どうしたの」
完全に寝惚けた声。
「どうしたじゃなくて、時間見てください。寝坊です」
「マジで?やばっ。うわ、アラーム忘れてるわ」
「わかったから、早く服着てくれますか?」
言いながら回れ右する…なんで上半身裸なんだ
「ごめん、裸族なんだよね、おれ」
後ろを向いているのをいい事に、ハグをしてきた。
「ハグしないでいいから着て!」
「あはは。はーい。ねえねえゆきさん、少しはドキッとしてくれた?兄ちゃんズに色気負けてないと思うんだけど、どう?」
「あー、はいはい。色っぽい色っぽい。そもそも一番美人顔ですからね、ハルは」
素っ気ない返事に拗ねている。
「なんかさー、兄ちゃんズと違って子供扱い?されてる気がする」
それでも一応服を着て準備をしている。
「兄ちゃんズも十分年下のお子ちゃまですけどね、私からしたら。それよりも反省してください。ちゃんと皆さんに謝罪してくださいよ」
手伝いながら急かしてタクシーを呼んだ。
現場には他のメンバーに遅れること15分で着いた。まだ、巻き返せる。
「おはようございます。よろしくお願いします」
先に全体に向けて挨拶すると、ハルが続けて大声で挨拶と謝罪をする。
「おはようございます!遅れてすみませんでした!今日もよろしくお願いします!」
「ハル〜遅いよ。すぐに衣装着替えてメイク!」
裸族がここにもいた。注意してても説得力が無い……
「リュウ、衣装は?」
「オレの肉体美!うそうそ。それ羽織るだけだからシワにならないようにと思って」
「なんでこう脱ぎたがるのかなぁ、男子は」
「ごめんね、ゆきさん。ぼくもこの衣装じゃなきゃ脱いで筋肉見せたいところなんだけど」
「脱がなくていいです」
もう、呆れるしか無い。
「ゆきさん気は使うけど、気にはしてないよね」
「まあ、学生時代も男子運動部のマネージャーしてましたから。状況としては一般女性よりは慣れているかもしれないですね。他の方が困るといけないので、気は使います」
「見慣れてるんか、そうか……」
「リツ、語弊がある言い方しないでいただけますか?」
「ごへい?五平餅?」
どうしてそんな思考回路なんだ……。
「そうじゃないよ。誤解されそうな言い方って意味。日本語覚えようねリツ君」
裸族に諭されてる…
「なんでやねん、日本人やわ」
「知ってるわ!」
運動部出身者だらけだからなのか、ノリは間違いなく部活といった感じ。年齢差はあるけど、同じグループで一緒にデビューして同期として、ざっくばらんに話す感じはとりわけ兄弟と言ったところか。
「ほら、メイクさん困るからじっとしてください」
「ゆきさんお母さんみたい」
「みなさんの母親みたいなものだと思ってお仕事させていただいてます」
「俺たちの彼女でもいいんだよ?」
隣に来て私の肩に手をかけて前髪をかきあげながらキメ顔で言う
「メイクも出来上がって、カッコつけてるところ申し訳ありませんが、トウヤは彼女にこんな世話をさせたいんですか?問題発言ですよ」
「うわぁ、そっか、待って。今のナシ」
「発言する前にはよーく考えてください」
「もう、少しは動揺してよー」
「動揺するどころか、冷静につっこまれて指導されてやんの」
「うるさい!」
遅刻で少しピリピリしていたスタッフもすっかり笑顔にしている。
「現場は今日も平和なようでなによりね」
「酒井さん。おはようございます。すみません、遅刻致しまして……」
「もうみんなそんなのすっかり忘れてるわよ。愛されるグループなのがよくわかるわ」
「ありがとうございます。みんな天然であれなので、可愛くて仕方ないです」
「ホント母だね」
「母ですね」
二人で顔を見合わせて笑う。どれくらい巻き返しできたかと、時計を確認すると、酒井さんも覗き込んで
「間に合いそうだね」
と言って下さった。
「お陰様で。今日は衣装一人二着?三着?」
「三着。また裸族数名ウロウロしそうだね」
「スタッフにはすっかり彼らの裸族定着ですね」
ため息混じりにそういうと、対照的な声で、
「目の保養でわたしは嬉しいです!」
とメイクさん達も加わって喜んでいた…
「やっぱり、見慣れすぎなんでしょうか、私……」
「母だからね。しょうがない」
そう言ってみなさんに笑われた
お疲れ様でした!ありがとうございました!
挨拶をして控え室に戻る。いつ見ても団体競技の試合後だな、と思う。
「撮影お疲れ様でした。この後事務所へ戻って食事とレッスンです」
「新曲の振りだっけ?楽しみだなぁ」
「また気合いいれないとー!」
気合いという名のおふざけが始まっている。
「20分後に移動車が来ますので、よろしくお願いします」
「20分後だって、ほら急いでやるよー」
「うぃー」
年上中心に声を掛け合って動いているのを確認して、スタッフに挨拶に行く。
「今日もありがとうございました。お先に失礼致します」
「おつかれー。またよろしくお願いします」
「お疲れ様でした」
労いの言葉を掛けて諸々の打ち合わせをしてから控え室に再び向かう。
「あー、いいところに。裸族、そろそろ何とかしてちょうだい。衣装まだ着たままのもいるし」
「すみません!……みなさん、時間無いですよ!筋トレしてないで着替えてください。スタイリストさんにもご迷惑です!」
手を叩きながら大きめの声で急き立てる
「ごめんなさーい、ついつい……」
「反省も後回しでいいです。巻きで着替えお願いします」
「ツアー終わってちょっと緊張感抜けちゃってるねぇ。まだまだ大変そうね、ゆきさん」
流石の酒井さんも呆れているようだ。
「ホントにすみません。しっかり反省させておきます」
「食事の後反省会させていただきますのでそのつもりでよろしくお願いします」
移動車に乗り込んだところでそれだけ言って、一番前に一人で座る。ノートパソコンを広げて仕事モードで黙り込んだ。
「怒らせちゃった?謝る?」
「反省会まで聞いて貰えないと思うよ」
「今のうちに反省文書いとこうかな…」
ほぼ丸聞こえな会話は完全に無視する
「ほら、どうするって言ってても始まらないから、ちゃんと各自反省して、改善出来るとこを考えて、手間取らせないように、練習時間減らさないようにしろよ」
「そうだね。リーダーの言う通りしっかり動くよ」
全員の全力の『はい!』でつくづく部活かよ、とつっこみながらちょっとだけほっとして、そのまま仕事に没頭した。
そこそこ仕事が片付いたところで外を眺めると、ちょうど移動車も事務所付近を走っていた。最新のスケジュールの確認をして、降りる準備をする。立ち上がってふと見回すと、どうりで静かなわけだ、みんな反省もそこそこに寝ていたらしい。
リュウがもたれかかっているカイに気を使いながら、しーっと人差し指を口に当てている。
『もうちょっとだけ』と口を動かして伝えている。
寝られる時に寝るのも大事なこと。私もそっとOKと返して座ろうとすると、指ハートとウインクで返された。
リュウも寝起きの顔なところを見ると、私が片付けでごそごそした時に起こしたのかもしれない。駐車場に着いてから起こしても今日は問題ない。この後も相当ハードな練習が待っている。




