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タイトル未定2025/05/23 16:37

「これ、今日の打ち上げのタイテと出席者名簿です。ライブ後に全員確認するようにしてください」

 ライブ前は時間に迫られる上に色々と用事を押し付ける人がいて、慌ただしい。

 今日も控え室に、これお願い!と押し付けられたタイムテーブルの書類を置きに来た。まさかの一人残っていたので、伝言も置いて行く。

「ゆきさん待って、目のクマ目立ってる」

 控え室を出ようとしたらひき止められた。

「うそ?!うわーホントだ」

 鏡に映る顔が疲れている。昨日仮眠だけだったから……。

「メイク直してあげるから目瞑って」

「え、時間が……」

「すぐだから!こういうの得意だから任せて」

 迷ったけど……疲れた顔はやっぱりダメだ。このまま会場に行くと他の人にも心配をかける。きちんとしておかなくては。

「はい、お願いします」

「これをこうして……ついでにグロスも塗って……よし、できた。綺麗だよ」

 ふっと顔が近づいて、まさかのキス。驚き過ぎて動けない。いや…ダメでしょ!

 離れて彼の口元をつい眺めたら、グロスがベッタリ……

「グロス!ついてます、まずいですよ!」

「あー、ホントだーせっかく塗ったのに取れたね」

「いや、私の方じゃなくて!」

「大丈夫。こっちも、そっちも塗るから」

 自分もグロスを塗り直し、私にも塗る。

「えー、間接キスじゃん、いーなー」

 ややこしいのが部屋に入ってきた。待って。…いつからいた?

「あれ、メイク直してあげたの?さすがぁー」

「だろ?彼女には綺麗でいてもらわないとね」

「僕も直すからそのグロス貸して。僕も間接キスー仲間〜」

 さくっとグロスを取り上げて、自分に塗って言い放つ。

 えぇぇえ、やめて……。

「このグロス良いよね。リップの発色邪魔しないから同じの使ってるってわかんないよね」

 ホントに、いつから見てたの……?

「今日いつまで会場にいるの?」

「え、最後までいないの?見てて欲しいなぁ」

「今日は他の人が会場外の対応しますので、最後までバクステでお手伝いします」

「やったー!」

 ドアをノックする音と同時に会場スタッフの声がする。

「そろそろお時間なのでスタンバイお願いします!」

「ほら急いでください!二人共!」

「ゆきさんもね」

 綺麗な顔の二人にウインクされて促される。

 勝てるわけない……。

「……はい」


 ここで働く事になったのはひょんなことからだった。

「今日で辞めます…ありがとうございましたっ!」

 目に涙をいっぱいためながら、負けてたまるかと大声を張り上げてそう挨拶をすると、誰かに後ろからがしっと肩を組まれた。

「じゃあ行こうか、ここの会社で要らないなら貰ってくわ」

 え?誰?何?と呟きながら力強い腕に驚いていると目の前の人達が私以上に驚いて……いや、羨望の眼差し?

 キャップとサングラスで覆っても隠しきれてない綺麗な顔立ち。この状況なのに一瞬魅入ってしまう。

 さんせーい!と、反対側からもがしっと肩を組まれる

 派手な髪色とアクセサリーもさる事ながら、全身がキラキラしている。同じくキャップとサングラスじゃ全くもって隠せていない。近すぎて眩し過ぎてクラクラする。

「じゃーねえー。はい、回れ右!」

 ひらひらと空いてる手を振りながら回れ右させられて、裏口から外へ。順番どうのと一悶着しながら、組んだ腕を外して一人ずつ狭いドアをくぐった。

「ずっと隅で打ち合わせしながら見てたんだけどさぁ、どうしても俺の方が納得出来なくなっちゃったんだよねぇ。そしたら辞めます!って言うから思わず連れて出たよね」

「僕のが先に立ちあがったのに、先に行くんだもんなぁ、ずっるいよね」

 どうやら先に来た彼の方の席がこちらに近かったらしい。

「え、あれ、打ち合わせは?良かったんですか?」

「いいよ、あんな会社と仕事したくない」

「リュウっ!ナツっ!勝手な事して!」

 後ろからマネージャーらしき人が慌てて追ってくる。

「めっちゃくちゃ気持ちは分かるし契約白紙にしてきたけども!車こっちだから!」

 完全に逆方向へ向かおうとしていた。

「あそうだっけ?ごめん」

 派手な彼はかわいく舌を出してあまり反省してない謝罪をしている。

「えーと……」

「あ、こっちもすみませんでした」

 もう一人、先に肩を組んだ彼は私に丁寧に頭を下げてくれる。

「え、いえ!こちらこそお見苦しい所を……」

 つられて頭を下げて、では…と駅に向かおうと踵を返すと、再びがしっと肩を今度は両側から組まれた。

『うちにおいでよ』

 なるほど、羨望の眼差しの理由がわかった。

 ……U:niON……

 サングラスを外したその顔はあのグループの二人だ。誰かわかった途端にびっくりなのと、いや、それよりも二人とも美人過ぎて思わず雰囲気に飲まれてついつい、はい、と応えてしまった。


 最近話題のこのグループは歌、ダンス共に飛び抜けて上手いと賞賛されていて、とにかくみんな顔立ちが綺麗でとにかく美人揃いだった。

 横に並んだら絶対負ける自信がある……。

 結局一緒に車に乗せられて、マネージャーの高橋さんに

「ごめんね、言っても聞かないから。あ、でも打ち合わせ中に顔見合わせて連れて帰るのはほぼ決定だったから」

 と説明(?)された。

 後に聞いた話だと、何度か打ち合わせ中に仕事ぶりを見てああいう人が欲しいと言って下さっていたらしい。タイミングの良い辞める発言だったよ!と言われた。

 そのまま事務所の練習室に連れて行かれ、他のメンバーにちょっとヘッドハンティングしてきたと紹介された。

「で、ゆきさんはオレらの専属マネージャーで良いよね?」

「そのつもりで連れてきたんでしょ。何言ったところで聞かないでしょ?」

 と、高橋さんも決定事項として話し出す。

「あの、まだ会社の手続きも何もしてなくて、えと、副業も禁止でして…」

 私も訳が分からないことを口走っていた。

「いいよ、あんな会社。私から連絡します。私物もこちらに送って貰うから心配しないでいいよ。ウチも手いっぱいで人手欲しかったのはホントなんだ。少しずつ覚えてもらえればいいからね」

「やったぁ!ゆきさんよろしくねー」

 口々に歓迎の言葉を掛けてくれる。いい子達なんだなぁ。確か私よりみんなかなり歳下だったはずだ。

「あ、ごめん、私は他の子達の打ち合わせがあるから、また後で!」

「あ、はい…」

 高橋さんは事務所内の三組ものマネージャーを務めていて、この子達がデビュー前にも関わらず爆発的に売れて仕事が手におえなくなって来ていたらしい。デビューに向けて人を探そうと、メンバーとも話していたところでああなってこうなったそうだ。

 マネジメントは大学で授業を取っていたけれど、初めてづくしの仕事でしばらくは鬼の忙しさだった。

 そして、女マネージャーという事で、ファンの子達に睨まれる事もそれなりにあった。

 ただ、メンバーが何かとマネージャーのお陰だからと、ことある事に言ってくれるので、この頃はチームの一員として認められつつあるように感じている。


 少しだけ雑用をこなしてからバックステージに向かうと、ちょうど円陣を組んでいた。

「ゆきさんも入って!」

 スタッフが彼らを囲って円陣を組んでいた方に入ろうとしたら、こっち、とメンバーの中に引きずり込まれた。

「ゆきさんはもう一人のメンバーだからこっちね」

 何時ぞやみたいにリュウとナツにがしっと肩を組まれて眩しくて美しい皆の輪に入る。

「よし、それじゃー楽しんで、ファンの皆にも楽しんで貰いましょう!GO!」

 眩し過ぎる、凄いなぁ。

 歌い踊る彼らは更に輝きを増す。覇気も加わって全ての想いが解き放たれる。

 ツアー最終日。いつも以上に気合いが入っていた。観客の歓声も今まで以上に聞こえる。

「若さだよねぇ。凄いなぁ」

「ゆきさんも若いよ。同じくらいキラキラして見える」

 ボソッと呟いたら、いつの間にやら隣に駆けつけていた高橋さんがそう言った。

「あんなに若くないですよ。あれは彼らにしかない輝きですし。ずっと呑まれっぱなしです」

 歓声の中、これでもかというくらいの輝きを放っている。

「それでもあの輪の中に入れるのはゆきさんだけなんだよ。ゆきさんは彼らにとっては同じ場所に立ってるメンバーだからね」

「お世辞でも嬉しいです。あんな凄い人達と一緒に 仕事ができて本当に幸せです。連れて来てくださった事、感謝しています」

「あの場で大人三人惚れさせた凄い人が何言ってんの。二人が本気過ぎて私は手が出せそうに無くて残念なんだけどね?」

「あはは、またそんな事を。そのうち私刺されそうだから、やめてくださいよ」

 もう合言葉になりつつある冗談を言い合う。

「そうだね。お互い気をつけましょう」

「はい。彼らは私が絶対に守ります。もっともっと上を目指せる人達ですから」

 どこからあんな熱気が湧いてくるのか。彼らはこれでもか、という熱量を発散している。ホントになんて眩しいんだろう。全身でこの大きなステージを楽しんでいる。全く臆すること無く。キラキラと、光を発している。

 観客を魅了するパフォーマンスを次々と繰り広げている。甘くて力強い歌声。圧倒的なダンスパフォーマンス。魅力全開の表情で、惹き付ける。

 なんて綺麗なんだろう。もっと彼らを世界中に知らしめたい。すごいでしょ?って見せびらかしたい。


 衣装チェンジの為にライトが落とされ、大歓声の中バックステージにはけてくる。

「ハイ、水!すっごい良かった!みんなホントにキレイでした!まだまだこれから、もっと盛り上げましょう!」

「おう!」

 ステージのテンションそのままで応えてくれる。

「その前にゆきさん補給〜」

「あ、独り占めはずるい」

「二人ともずるいよ、みんなのゆきさんだからね!」

 そして汗だくのまま順番にハグされて、ひとをもみくちゃにしてスタッフに急かされて衣装チェンジ。ハイタッチでステージに送り出す。

「もう結構この儀式も見慣れたけど、みんなホントにゆきさん好きよねー。あれに圧倒されないゆきさんも凄いわ」

 スタイリストの酒井さんがみんなに手を振りながら送り出し、少し呆れながらそう言った。

「そんな事ないですよ。毎回圧倒されまくってますよ。少しでも力にって気合いで立ってるだけです」

「ファンが見たら刺されそうな光景だけどねー。気をつけてね?」

 ここでも毎度お約束のからかいをされる。

「やめてくださいよ、酒井さんまで。きっとほぼ姉、いや母の立ち位置ですよ、私」

「あんな子達の母になりたいもんだわー。自慢しまくっちゃう」

「ですよね。親御さん達毎回楽しみに見にいらしてますよ」

「さて、次の準備するわ。ハグで時間とる分衣装チェンジめっちゃ頑張るからね!」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 そう、はける度にあのくだりを繰り返す。このツアーは三度はける。それもあって、時間の無い地方の時は会場外の仕事をする事が多い。本当は私だって彼らのパフォーマンスを見たいのだけど。

 今日はいつになく眩しいステージだった。久々に通して見たからだろうか?みんなが綺麗過ぎてカッコよすぎて、裏でドキドキしっぱなしだった。こんなに大人になったのかと、思い知らされた。もう出会ってから四年、高校生だったカイトもいつの間にやらお酒も嗜む歳を過ぎている。


 長くて瞬く間のライブ。残すはアンコールのみになった。

 水を渡しながらハグが繰り返される。最後二人が離れてくれない。

「ゆきさんありがとう。好きだよ」

 両頬にキスを受ける。早々に戻った弟達にずるいよ、二人!と咎められてやっと離れてくれる。ふらつきながらハイタッチしようとしたら、次々に頬にキスをしてステージに向かって行く。

「君たちは時間無いでしょ!先に出番!」

 ナツが急いで着替えてそう言って、注意しながらやっぱりしっかり頬にキスをして、ねえ?とか言いながら駆け抜け、リュウはもう一度ハグ&キスでステージに向かう。

 みんな……テンション上がりすぎだ……。

 そんなの耐えられるわけがなく。その場に座り込んでうぅっと唸っていると酒井さんが刺されないでね?と本気で心配してくれていた……




 カンパーイ!

「ツアーお疲れ様でした!スタッフ、家族の協力、応援のおかげでとても充実したステージにする事が出来ました。ありがとうございました!」

『ありがとうございました!』

 運動部ばりのビシッとした挨拶をして、頭を下げると、拍手とお疲れ様の声が飛びかった。会場内の別の部屋に移動して、打ち上げが行われている。彼らのご家族も招待されて、ケータリングを囲んで、彼らは普段のふわふわな青年に戻っていた。

 乾杯の後、愉しそうな彼らを見届け、ツアー中お世話になった諸々の方に挨拶に回り、一旦会場を出てこの後のスケジュール確認をする。会場責任者と打ち合わせを行って、事務所に連絡を入れた。

「お疲れ様です。今無事に打ち上げに入りました。はい。十時頃撤収します。分かりました。ではまた後ほど」

 ふぅ、と一息ついてまた会場に戻る。あとはご家族会にご挨拶して……。

「お疲れ様です。今日もステージを見にいらっしゃっていただきありがとうございました。みんな本当に素敵でした。毎回今までで一番を更新して行く姿に驚かされます。一緒に仕事をさせて頂いて幸せです。ちょうど本人達も来ましたので、改めてましてご挨拶を」

 手招きをして、挨拶を促す。

「応援ありがとうございました!」

 照れくさいのか、挨拶もほどほどにやっと捕まえたとばかりにこちらに話しかけてくる

「ゆきさんゆきさん、今日僕一番だったでしょ?」

「歌詞一瞬飛ばしたの聞き逃してませんよ」

「ほらー、バレてるって言うたやん」

「でもダンスのキレはみんな今までで一番でした。あまりにも綺麗で失神者出ないかヒヤヒヤしちゃいましたけど。ファンの皆さんも耐性がついてきたのかもしれませんね」

「僕は?最高だったでしょ?ゆきさんの為に愛情込めて投げキッスを……」

「そこ反省ポイントです。あの時すごい悲鳴が聞こえて。泣いて過呼吸で倒れそうな子がいて慌てたんですよ。スタッフ目の前で対応早くて事なきを得ましたけど。やたら真剣な投げキッス禁止です」

 指で✕を作って数名でダメだよー!禁止〜!と、ミニ反省会になって、ご家族もどっと笑ってくれる。

「残念だったわねーナツ。もっとしっかり愛情を伝えなくちゃゆきさんなびいてくれないわよ。頑張ってよね」

「お言葉ですが。リュウだって負けませんよー。ゆきさんにはリュウが1番似合ってます」

「おふたり共ちょっと待ってください。何をおっしゃってるんですか」

「まあまあまあまあ。親公認ってことで」

「そうだよーゆきさん。観念して?」

 両サイドからまた肩を組まれ、更に皆さん大爆笑。うなだれつつ腕からすり抜ける。

「冗談はさておき、皆さん短時間ではありますが、楽しんでください」

「ええー、ゆきさん一緒に食べようよ」

「残念ながら私は仕事中なんです。食事はさっき少し頂いたのでそちらの心配も不要です。みんなしっかりご家族に感謝伝えてくださいね。では、失礼します」

 ぽんぽんっと年少者達の背中を押して、親の前に促して、スタッフへの挨拶周りを再開する。ちょうど片付けをしてくれていたスタッフが合流する時間だ。

「酒井さん!ありがとうございました!」

「流石ねえ。親御さん達からも信頼バッチリで」

「聞いてらしたんですか?」

「嫁候補で取り合いされる程とは」

「だから、冗談ですってば。いつものバックステージと一緒でからかわれてるんです。何故か親御さん達にまで!私がみんなに勝てないの知ってるから。ただ、認めて頂けてるんだな、というのは凄く伝わってくるので嬉しいです」

 信頼を感じて嬉しく思う瞬間でもある。

「相変わらずいい子だわー」

「もちろんです。自慢のメンバーですから」

「違うわよぉ、ゆきさんが。百点満点の答え。そりゃみんな手放したくなくて必死になるわけだ」

「そんな事ないですよ。実際前の会社には邪魔者扱いされましたし」

 いい子に出来ていたら今頃ここにも居ないだろう。

「あぁ、ヘッドハンティングの話の…」

「なんで知ってるんですか」

 内輪の採用事情なのに……。

「あら、有名よ。事ある毎に彼らが自慢してるもの。知らなかったの?」

「なんか、やたらみなさんが親切に仕事教えて下さった理由がわかった気がします……」

「みんなそれだけじゃないけどね?まあ、よっぽど嬉しかったのよ。理想の人が現れて。私もあなたはここにいるべき人だったんだなーって思ってるわよ」

「ありがとうございます。心して務めたいと思います。それではゆっくりしていってくださいね」

 その後も次々と関係者に挨拶をして、車の手配に見送りと、仕事をこなしていった。


「そろそろお時間ですので、改めまして彼らからご挨拶をさせていただきます」

 一列に並んだのを確認して、リュウが挨拶を始める。

「短い時間でしたが、楽しんで頂けたでしょうか。また次の仕事でお会い出来ることを楽しみにしています」

『ありがとうございました!』

 残りの関係者は全員で見送る。

 ご家族会が最後に残り、まとめて手配しておいた近くのホテルまでバスで行って頂く。

「今日はありがとうございました。ホテルの方でゆっくりされてください」

「楽しかったわ。ゆきさんも早く休んでくださいね。おやすみなさい」

「お心遣いありがとうございます」

 ご家族会バスを見送り、メンバー車を回して貰えるように伝えた後、会場に待機していたメンバーと合流する。

「お疲れ様。そろそろ楽屋裏口に車が来てるはずなので荷物を持って行ってください」

「ゆきさん一緒じゃないの?」

「今日は高橋さんこの後来れないので。諸々手続きが完了したらタクシーで事務所に戻ります」

「そのくらいなら待ってるから一緒に帰ろうよ」

「ダメです。先に休んでください。私も明日は休暇ですから、心配不要です」

「ゆきさーん!こっちお願いします!」

 タイミング良く会場スタッフに呼ばれ、手を振りながら彼らを見送る。さあ、あと少し。




 事務所に戻ると流石に疲れが襲ってきた。

 直帰でも良かったかなぁ。どうせ書類出しとかなきゃ明日……もう今日か、気になって休めない。真面目な自分の性格が恨めしい。

 デスクに書類を置いてソファに座り込む。寝ちゃいそうだなぁ。


「……ゆきさん迎えに来たよ、帰るよ。姫はキスじゃないと目覚め無いかな?」

 夢?イタズラな声…ナツ?

 ソファ越しに後ろから抱きしめられた。

「なんでここに?帰って休んでくださいって……何かありました?」

 不安になって一気に目が覚める。

「あったよ。ライブ前リュウに抜けがけされた。キスしてたでしょ?もとい。キスされてた」

 あれ、か……。

「メイク直してくれただけです」

「僕は 真剣だからね?」

「ありがとうございます。だけど私は誰も選べないし、選ぶ事はありません」

「選んで。僕を選んで。その上でみんなのゆきさんでいてくれていいから」

「無理です」

「リュウの方が好き?」

「私はみんなが大事なんです。ほら、早く帰って休みましょう。休息も大事な仕事です」

「 わかった。上書きしたらね」

「上書き?」

 腕をすっと解いたと思ったら、目の前に来てしゃがみこんで、

「そう、上書き」

 といたずらに微笑んだ。その美しさに見とれた瞬間素早く唇に上書きされた

「上書き完了♪ほらほらー帰らないとー」

 何よりも私が一番負けているのは間違いない……


 メンバーはそれぞれ同じマンション内で暮らしている。送り届けるのはいつもの事で、愛してるよーなどとふざけても、パパラッチにすら相手にされない。しかも私も同じマンション内の一室で暮らしているので、駐車場に車を回してから出て来なくとも当前なのだ。そもそもここは会社のマンションだから。寮という方が正しいか?そうでなきゃやや都心から離れていると言っても、こんな高級なマンションに私が住めるはずがない。

 郵便受けの確認の為にロビーに上がると、リュウがナツを捕まえていた。

「なんでゆきさんに送って貰ってるの」

「心配で迎えに行っただけだよ?」

 良くない雰囲気……。

「二人とも部屋で休んでください。それともまだ私を休ませて頂けないのかな?」

「ごめんなさい……」

 少し強めに言ってみたら、しょぼくれたワンコ達にしか見えない。可愛すぎる。

 大人しく部屋に向かうべくエレベーターに向かう。すると、言い合いしていたのがウソのようにエレベーターに乗り込むとわいわい話しだした。

「今日さー、あの演出もうちょっとなんとかなるんじゃ無いかと思ったんだけど」

「あー、あそこ俺も思ったわ。こんなのどう?」

「いいじゃんいいじゃん、ゆきさんどう思う?」

「え?ゆきさん?」

 堪えきれずに笑っていると今度は怪訝な顔が二つ並ぶ。

「ホント、仲いですいよね。仕事好きだし。でも、今日はもう休んでください。ほら、着きました」

「はーい。おやすみなさい」

 仲良くハモってエレベーターから自室に向かう。私はそのままもう一つ上の階へ。

 ちゃんと部屋に帰ったかな?あのまま演出の討論してなきゃいいけど。


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