舞い戻る雷
――雷鳴は、舞い戻る。
決勝を前に、あの約束を胸に。
【Aパート:回想と決意】
試合から一夜。
ナナセ・ユイは、夜のアリーナ跡地を見下ろしていた。
空は雲に覆われ、今にも雨が降りそうだった。
(もうすぐ、決勝。あたしの相手は……あの黒崎レイ)
思い出すのは、1回戦のあの激闘。
雷鳴と戦術がぶつかり合い、勝者はレイだった。
(でも、あたしはあの時から、ずっと考えてた)
(速さだけじゃ、レイには勝てない。もっと、深くなきゃ)
そのとき、誰かが背後に現れる。
彼女の兄――元・異能戦士だった、ナナセ・タクトだ。
「……あの頃のお前は、ただ速いだけのバカだったよな」
「ちょっと、それ言い方きっつ……!」
「でも今は違う。勝ちたいって顔してる。誰かのために」
タクトは静かに、掌をユイの頭に乗せた。
「お前の雷は、誰よりも真っ直ぐだ。だから――戻ってこい、笑ってな」
【Bパート:決勝直前・控室】
一方、黒崎レイも準備を終え、静かに目を閉じていた。
控室には誰もいない。けれど、彼の意識は極めて冴えている。
(ナナセ・ユイ……君の雷には理由がある)
彼女は速さだけではない。
速さに意志と感情を載せて戦う。
(俺の魔導には、それが欠けていた。だが――今回、君から学んだ)
レイの掌に、新しいページが開かれる。
《深淵の書架》が、自らの成長を受け入れるように。
「この決勝……戦い以上の意味を、俺は得てみせる」
【Cパート:決勝戦直前・スタジアム】
観客が歓声を上げる中、二人の姿がステージに現れる。
「行くよ、レイ。あたしの全速全開、ぶつけてやる!」
「ああ。君の速さと、俺の知識。どちらが先に、未来に届くかだ」
視線が交わる。互いの成長と、約束と、決意と――
全てが、この一戦に凝縮される。