剣豪の異能
――速さではない、力でもない。
おれの斬撃は、意志で届かせる。
【バトル開始前】
準決勝・第2試合。
アリーナに現れた二人に、観客席からどよめきが走る。
「黒崎レイ……そして、あの剣士か」
「カザマ・リュウジ。一次予選でも圧倒的だった……!」
堂々と、まっすぐに歩いてくる男。
黒の道着を基調にした軽装。腰に佩くのは、一本の長太刀。
「俺の剣は、最短最速で決める。回避も防御も、そもそも要らねぇ」
「それはつまり、外れたことがないってことだろうね」
「……ああ。今日も、それを証明するさ」
【バトル開始】
開始の合図とともに、カザマが斬りかかる。
足音すらなく、瞬間移動のような踏み込み。
(速い……! けど、それだけじゃない)
「《斬気解放:初式・直撃》!」
斬撃が空気ごと断ち割り、距離を飛び越える。
斬った軌道が延伸し、レイの目前に迫る。
「物理距離を……斬撃の気で補ってるのか!」
レイは側転で躱しつつ、詠唱開始。
「《即記式展開:反魔盾・三重》!」
三層の魔力障壁が彼の周囲に立ち上がる。
が、次の瞬間──
「《斬気応用・連撃交錯》!」
カザマが、同時に三方向から斬りかかってくる。
それは実際の身体ではない、斬撃の意志が形を取り、複数の斬撃を一斉に再現する技。
「(斬撃を記憶させるのか!? 攻撃動作自体が拡張可能なコードになってる!)」
魔導盾が一枚、二枚と砕ける。
レイはすぐさま詠唱を飛ばす。
「《簡略開頁:干渉改変式》──斬撃の起点をズラす!」
空間の干渉点を操作し、カザマの斬撃の出発点を横にずらす。
だが――
「見えてるぜ、その手口」
カザマの剣が、風を裂いてくる。
「《斬気変位・戻刃》!」
ずらされた軌道を、意図的に斬気で再修正して逆方向から打ち込んでくる!
空間を制御するレイの術式を、逆利用して襲う反応速度。
レイは咄嗟に防御を選ぶ。
「《衝撃緩和式:空間バッファ》!」
剣圧を半減し、吹き飛ばされながらも致命傷を回避する。
「っ……はは、すごいな。君の剣、本当に届くんだな……」
「届くさ。どんなに防いでも、逃げてもな──意志が斬りたいと願えば斬れる」
【終盤:異能の本質と対話】
互いに傷付き、疲労も濃い。
それでも、戦場は熱を帯びる一方だった。
「お前の戦い方、考えすぎだ。だが、それで生き残ってきたのも分かる」
「君の戦い方は、シンプルで強い。でもそれだけじゃない。技の裏に研鑽がある」
カザマの目が一瞬、驚きに揺れる。
「……そうか、お前も斬撃を読めてたのか」
「読んで、それでも、間に合わないほど速かった。でも、間に合わなくても対応はできる」
レイの手元で魔導書が高速に捲られ、次々に詠唱式が展開される。
「《魔導再構式・ページ融合》――!」
複数の記録を統合し、複合魔法が起動。
「《斬撃反応:動作模写式》……君の剣技、ここで再現する!」
レイの腕が、カザマの軌道と同じ角度で空を斬る。
空間に仮想斬撃が発生し、カザマの斬気と正面衝突。
「っっ、な……!?」
衝撃が弾け、二人が同時に後退。
そして――静かに、カザマの剣が地に落ちた。
勝者:黒崎レイ。
「……負けたよ。俺の剣、読まれてた……」
「違う。読んだのは技術だけ。君の意志は、最後まで届いてたよ」
言葉少なめな敬意。
カザマは微かに笑い、右手を差し出す。レイがそれを握る。