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百戦錬磨の武術家

「拳を重ねて初めて、互いの強さが測れるんだ」

そう言った君の拳は、まっすぐだった。

……だから、俺も真正面からぶつかると決めた。



 次の対戦カードが発表された瞬間、控室のスタッフがざわついた。


「黒崎レイの相手って、あの鉄掌か……?」


「ああ……ユン・カン。格闘異能のトップランカー。重装甲を砕く一撃必殺の男だ」


 戦場に現れたのは、筋骨隆々の東亜系青年だった。

 赤い武道着に身を包み、巨大な拳を静かに下ろしたまま、ゆっくりと歩いてくる。


「黒崎レイ……あんたの戦い、見てたぜ。面白ぇ力だな」


「君が……ユン・カン。異能《鉄掌の反動リフレクト・パーム》」


「ああ。ぶっちゃけ頭使うのは苦手だが、拳と拳の勝負なら、絶対に負けねぇ」




 開始のホイッスルと同時に──地面が鳴った。


 ドンという轟音とともに、ユン・カンの巨体が跳躍。

 その一撃はただの拳ではない。地面を砕き、空気を割る鉄塊だ。


「速っ……!」


 重力と筋力による跳躍と踏み込み。しかも、ただの物理攻撃ではない。

 異能《鉄掌の反動》は、受けた攻撃の衝撃を自分の次の拳に加算するという代物。

 つまり、撃てば撃つほど、ヤバくなる。


(接近されればされるほど不利……なら、距離を取る)


「第二書庫・第四章──『風断弾』展開!」


 レイが唱えると、魔導書から風を圧縮した弾丸が複数発射される。

 だが──


「フンッ!」


 ユン・カンは右手を前に突き出し、空中で炸裂する風弾をすべて素手で払い落とした。


(……反応速度も尋常じゃない)


「そんな軽い攻撃じゃ、拳の燃料にもなりゃしねぇ!」


 ユンの掌が光を帯びる。反射された風の衝撃が、加算された証だ。

 踏み込んだユン・カンの拳が、レイの肩口を狙って唸りを上げる。


 その瞬間、レイが低く呟いた。


「……第五書庫。応用詠唱――《反転詠唱:氷壁展開》」


 床から立ち上がる氷の壁。拳がぶつかり、壁が砕ける。

 だがその衝撃で、ユンの拳の反動カウントが、さらに蓄積されていく。


 つまり──レイは、あえてユンに打たせたのだ。




「ふっ、何を狙ってやがる……?」


「君の異能は、打たれれば打たれるほど強くなる……だが、そのエネルギーは物理法則に沿っている。ならば──」


 レイは空中に魔導書をもう一冊展開する。

 手のひらをかざし、ページを高速で捲る。詠唱を省略し、同時展開を始める。


「《氷杭召喚》・《断風波》・《視界撹乱》、三重詠唱」


「なにっ、三つ同時だと!?」


 氷杭がユンの足元から突き上げ、風圧が身体を浮かせる。

 目の前に舞う紙片状の幻影が、視界を奪ったその刹那──


「《深淵頁:拘束式・鎖書グラビティ・ペイジ》」


 ページの中から伸びた黒い鎖が、ユン・カンの両腕をがっちりと巻きつけた。

 しかもその鎖は重力を操作する封印式で、異能の蓄積反動を、打ち出せないように固定している。


 異能の力を、封じたのだ。


「……なるほど。頭使う戦い方ってのは、こういうもんか」


 縛られたまま、ユン・カンがゆっくり笑った。


「だがよ……拳ってのは、放つ力だけじゃねぇんだよな」


 ユンの足元の床が──爆ぜた。


 蓄積された反動を、腕ではなく足に流し、床を蹴る形で爆発的加速!

 拘束ごと体ごと、弾丸のように飛び上がるユン!


「もらったァッ!!」


「……しまった」


 レイの肩に、鉄槌のような跳び膝蹴りが突き刺さる。

 風が震え、魔導書が吹き飛び、レイの身体が大きく後方へ投げ出された。




 観客席がどよめく。


「……まだ、立てるか?」


 ユン・カンが、拳を下ろして問う。


 だが──その答えに、レイは立ち上がりながら静かに応じた。


「俺は……分析してる。君の筋力、踏み込み速度、体重配分、重力操作への適応限界──」


 息を切らしながらも、視線はまっすぐ前を見ていた。


「次の一手で、君を倒す」


「へぇ……なら、全力で来な」




 そして、最終局面。


 レイは片膝をつきながら、最奥の一冊を開いた。


「第七書庫……封印解除。記録魔導、《閉鎖環クローズド・リング》──発動」


 浮かび上がる無数の光の環。

 レイの詠唱が終わると同時に、それらが空中で交差しながらユン・カンの動きを完全に封じる。


「っ……身体が、動かねぇ!?」


「これは異能のパターンを固定し、君の異能を強制停止させる干渉魔法だ」


「な、なんつう戦い方だよ……!」


 次の瞬間、レイの掌に収束した風と氷と重力の三重詠唱が──一点に集束する。


「――《終章:氷風重圧撃ストーム・インパクト》」


 爆音が鳴り響いた。




 結果、勝者:黒崎レイ。


 だが、ユン・カンは、笑いながら立ち上がって、拳を差し出してきた。


「いい拳だったぜ。……いや、あんたのは本じゃなくても、立派な拳だ」


「……ありがとう。君の拳も、真正面からぶつかってきた」


 固く交わされた拳。それは敵ではなく、互いを認め合った者同士の印だった。


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