雷鳴の少女
――速さは力だ。
それは誰にも奪えない、あたしだけの閃光。
ナナセ・ユイは、雷とともに生きてきた。
彼女の異能《雷鳴の舞姫》は、電流で神経と筋肉を加速させ、常人では捉えきれない、瞬間移動にも似た連続加速を可能にする。
そのスピードは剣も魔法も置き去りにし、相手が何かを考えるより早く打ち倒す。
ユイは、それこそが自分の勝ち方だと信じていた。
(勝つってのは、つまり一番速くて、一番派手ってこと)
雷光が走るたびに、彼女の心も高鳴った。
観客の声援も、眩いスポットライトも、自分のためにあるように思えた。
だが──。
「あれ、ちょっと強すぎじゃない?」
そう思ったのは、本戦一回戦であの少年と向き合った瞬間だった。
──黒崎レイ。
無駄な動き一つせず、感情の起伏も見えない。
ユイのような直感型の人間からすれば、正直、ちょっと苦手なタイプだ。
(でも……なんだろ。妙に気になる)
構えも、動きも、普通。なのに、隙がない。
まるで全部、計算済みみたいに動く彼を見て、ユイは初めてこう思った。
(この人、本当にバトルが好きなんだ)
だから、勝ちたかった。ぶつけたかった。雷も、気持ちも。
「っしゃあ! 雷鳴──フルスロットルでいくよっ!」
ステージに足を踏み出すと、電流が脊髄を駆け上がり、筋肉が火を噴いたように躍動する。
観客の熱、審判の声、そして目の前にいる冷静すぎる少年。
「行くよ、黒崎くん!」
初撃は踵落とし。反応される前に打ち込む。
……だが、彼は初撃を完璧に読み切っていた。風のバリア。氷杭のトラップ。そして極めつけは、あの変則的な詠唱――
《簡略開頁》
あれが決まった瞬間、ユイは心の中でこう思った。
(ちょっとズルい。……でも、カッコよかったかも)
試合には負けた。正直、悔しい。
だけど、それ以上に楽しかった。雷速で駆け抜けるだけじゃ、届かない世界があるってことを知った。
「次は、負けないよ」
そう誓って、彼に笑顔を見せた。
控室。着替えながら、ユイはモニターで次の対戦カードをチェックする。
「ふふ、あたしの次の相手、重力系の人か~。また厄介な異能だね」
でも、不安はない。
速さは武器だ。そして今のユイには、もうひとつ新しい武器がある。
――ライバルという名の、目標が。