表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/13

開幕、異能闘技大会!

――ページを開け。

その先にあるのは、ただの知識か。

それとも――勝利か。


 黒いフードの少年が、ゆっくりと闘技場の中心へと歩を進めていた。

 その名は――黒崎レイ。


 巨大スクリーンに映し出される彼の姿と同時に、観客席からどよめきが起こる。だがその本人は、まるで他人事のような顔で、静かに前を見据えていた。


(風の流れ……気温、照明の角度。床素材は石英混合。滑りにくく、熱も伝えにくい……雷属性なら少し不利か)


 観客の声は耳に入っていない。

 彼の思考は既に、目に見えない戦場の地図を描いていた。


 ここは『イグニスアリーナ』

 世界最大規模の異能トーナメントであり、異能を持つ者たちにとっての聖域。

 レイは、この場所に自らの異能を証明するためにやってきた。


 胸元に浮かぶ、淡く紫色に輝く紋章――これは、異能者であることを示すコード印。

 彼の異能の名は《深淵の書架アビス・ライブラリ


 それは、記録と知識を魔導として呼び出す、戦術特化型の異能だった。




「見たか!? あいつがレイだよ。予選で、あの火の獣王を封じたっていう──」


「異能《書架》って、どんな力なんだ? 魔法書でも出すのか?」


「いや、ガチで出すらしいぞ。しかもページ数に制限があるとか……」


 実況席からも熱のこもった声が飛ぶ。


『さああああああッ! ついに始まります、本戦一回戦ッ! リング中央、東ブロック代表・黒崎レイ、異能《深淵の書架》!』


 そして──対する西ブロック代表の姿が、ステージの向こう側に現れた。


「よっ、初戦の相手ってのは、あなたかぁ」


 弾けるような声。

 白と黄色を基調としたスポーティなバトルスーツを身に纏い、肩にかかる短い金髪を揺らして現れたのは、少女だった。


『対するは西代表! 異能《雷鳴の舞姫サンダーステップ》! ナナセ・ユイ選手ーーーッ!!』


「ふふっ、ビリビリの雷で、観客も審判も目が覚めるような試合にしよっか♪」


 少女――ナナセ・ユイは、ステージに乗った瞬間から空気を変える。

 足元に走る紫電。彼女の全身から、微細な放電が舞っていた。


(……雷速。近接型か)


 レイは淡々と分析を始める。

 雷系は初動の速度で押し切るタイプが多い。持久戦には不向きだが、こちらの詠唱の隙を狙われると厄介だ。


 だが、レイの瞳に揺れはない。


 試合開始のホイッスルが鳴った――。




 瞬間、ユイが消えた。


 いや、消えたように見えた。

 雷鳴と共に走り出した彼女の身体は、ステージの端から端までを一瞬で跳躍する。残像が三つも四つも残るほどの速度。


「そっち、隙ありっ!」


 稲妻のような踵落としが、レイの頭上を襲う。

 だがその刹那――レイの口元が動いた。


「第一書庫・第二章。『風の盾』、詠唱、展開──」


 詠唱と同時に、彼の背後から一冊の古びた魔導書が浮かび上がる。ページが自動で開かれ、そこから風の障壁が展開された。


 ユイの踵が風のバリアにぶつかり、軌道を逸らされる。


「っはー、まさか咄嗟に防がれるとは思わなかったな~」


「攻撃速度は優秀。だが……予測できる範囲だ」


 レイの声は淡々としている。

 それに対してユイはにやりと笑った。


「へぇ、ならもっと速くするだけだよ。雷鳴、踏み鳴らせ!」


 ユイが床を蹴った瞬間、放電が爆発するように広がる。

 彼女の異能《雷鳴の舞姫》は、自らの電気を使って筋肉を刺激し、瞬間加速を何度も重ねられる連撃型だった。


 次の瞬間──


 雷撃十連!


 高速の拳と脚が、風のバリアを次々と砕いていく。

 レイは後方に跳び下がりながら、もう一冊の魔導書を呼び出した。


「第三書庫・第五章──『氷結杭』、放射」


 詠唱の終わりと同時に、床から鋭い氷の杭が複数突き出す。

 視線を逸らすように配置されたその氷杭に、ユイは反応が一瞬遅れる。


「っちょ、これは!」


 視線の妨害と、足場制限。戦術型の真骨頂。

 ユイの脚がわずかにバランスを崩した隙に、レイは手を前に掲げた。


「……第五書庫、特別頁──《簡略開頁スキップ・ページ》、発動」


 その瞬間、異能の詠唱が一文字だけで完了する。

 空間に浮かんだ本のページが勝手に開き、青白い魔法陣がユイの足元を覆った。


「うそ、ページ飛ばしとか、ありなの!? ずるいってば!」


「これは……まだテスト中の技術だ。試してみる価値はある」


 そのまま氷結陣が炸裂し、ユイの動きが一瞬止まる。

 勝敗を分けるわずかな時間。その隙を見逃すレイではない。


「勝負は──ここで決める」


「ちょっ、待って、まだ本気出してな……」


 雷光と魔導がぶつかり合い、白い閃光が会場を照らした。




 そして数分後。


『……勝者、黒崎レイッ! 第一試合、激戦の末に東代表が勝利ッ!!』


 レイは息を整え、観客席の歓声には目もくれずにステージを後にしようとする。

 だが、倒れ込んでいたユイが、苦笑しながら手を差し出してきた。


「へへ、負けちゃった。でも、面白かったよ。ねぇ、またやろうよ。今度はもっとビリビリでさ」


 レイは一瞬だけ黙ったのち、手を取り、彼女を立ち上がらせる。


「……構わない。戦いとは、何度でも繰り返すものだ」


「うん、そういうとこ、ちょっと好きかも」


 こうして、黒崎レイは一人目のライバルと出会った。


 そして、彼の戦いは──まだ始まったばかりだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ