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8・動揺しないわけがない

多少遅くなって申し訳ありません

 カップル特別イベントとは、如何に?それは、簡単にいえば暇人がカップルがいちゃついているのを外から見て、からかうという真にくだらないものであります!

 大まかに、三つのステップに分かれているそうで、それぞれのステップをクリア毎に懸賞品が貰えるとか。


 「懸賞品って何?」


 葵がコック長らしき人に尋ねる。確かにそこ重要。たかだか、くだらないフィギュア系統のブツで人生を捨てたくありませんよ。


 「ハイ、まず一つ目をクリアすると当レストランの一回分の食事代を無料にしまーす!二つ目クリアすれば、この商店街のどの店でも使える五千円分の商品券、そして―――」

 「待ってください!商店街って………まさかと思いますけど、この企画って―――」

 「ザッツライト!私たちが企画し、バックアップに商店街全体にコネクションがアリマース!」


 暇人!暇人の集まりや!アホや!商店街全体がこんなくだらない事をするなんて、この町オワタ。

 ただ、コック長の話によれば、ここには”ショタコン喫茶”や”萌え萌え飲食店”などがあるそうで……。それ以上は聞く事に嫌悪感を覚え、慌てて止めに入りましたよ。


 「―――それで三つ目は?」

 「夏に彼氏彼女との甘いひと時をプレゼント、海辺の民宿”浜茶屋”ペア、二泊三日、三食昼寝つきご招待券」


 レベル高っ!いきなり値段が跳ね上がりましたよ!何これ?何でこんな事にここまで金かけてんのよ、この商店街。そもそもさっきからカタコト風味の喋り方だったのに、いきなりスラスラ喋ってんじゃねーよ、コック長!

 こ、これは、参加する価値があるかもしれません!やるは一時の恥、ここでこの招待券を手に入れれば葵とのひと夏の思い出が……やべヨダレ。

 ヨダレを葵に気づかれないうちにハンカチで拭う。ふぅ、何とかバレませんでした。―――待ってください?これは葵の口を拭ったハンカチ―――間接キスやないか!キスやないか!関節は内科!自分が何を言ってるか分からないやないか!?

 ……駄目だ、この程度で動揺しているようで三つもミッションを遂行できる筈がありません。ここは丁重に断りますか。くだならいですし、なにより彼女も僕と一緒に旅行なんて行きたくないでしょうし、ハハ…。

 僕の内心の葛藤が治まると、ほぼ同時でした。彼女が口を開いたのは。


 「………一つ目は何をすればいいの?」


 その言葉を聞いた瞬間、コック長、及び店内の客、また何時の間にやら群がってきた野次馬が歓声を上げる。痛い、痛すぎる。

 葵、まさかやる気?こんなくだらない事を?しかも、全部過程を遂行しても僕との二人きりの旅行ですよ?僕を惑わせて楽しいですか?

 僕は疑問しか出ません。葵はこういう事に興味がないとばかり思っていましたからね。しかし、葵の表情は真剣そのもの。実はやっぱりお年頃の女の子なのでしょうか?一度誰とでも良いからこういう事をしてみたいとか?あり得ます。

 葵=年頃な女の子と僕が自己完結して納得していると、第一のミッションが発表されました。


 「題して”二人で一緒にキャッキャ――”」

 「タイトルは結構です。ルールだけ言ってください」

 「言わせてよー!」

 「だが断る!」


 男にそんな目で見つめられても喜びませんよ。ノシつけて返してあげます。

 コック長は(今思いましたが、何故店長じゃなくてコック長?店長涙目)袖で涙を拭い、抑揚を押さえて答える。


 「まあ、ようは、皆の前で、二人で、一つのハート形のストローで巨大なコップに入ったジュースを制限時間以内に飲み干そう、というものです……」

 「いっぺん死んでください」


 心底つまんなさそうにいうコック長を地獄に放つ一言。これを発したのは誰でしょう?僕以外いる筈がありません。何を言うのですか、このキチガイ。

 まず、最初からいきなり難易度の高さが尋常じゃありません。一回目の商品は、たかだか食事代一度チャラというしょうもないもの。僕はお金持ちですからね。食事代一度ぐらいの出費など痛くも痒くも……御免なさい、見栄張りました。

 で、でも、今日は大丈夫なのです。何故かって?それは財布に樋口さんが二枚いるからですよ。いやー、昨日人助けをしたのでそのお礼に貰ったのですよ。人助けはするものですねー。そして、一万円を要求しないところが僕の優しさ。

 なんか、泣きながら”俺の事燃やしたくせに金まで取るとは鬼畜の所業!”とか聞こえましたが、幻聴、幻聴。

 つまり、今日の僕は全くお金に困っていないので、こんな事やるだけ無駄無駄無駄!


 「はい、これがお飲みになる当店自慢のトマトジュースです!」


 よりによってトマトか!トマトなのか!?普通こういうのって爽やかな奴を飲むんじゃないのか!?これって僕の偏見だったのか!?というか作者がこういうのを呼んだ事がないから分からないのが一番でかい!分からんのならせめて何かで探せや!

 作者の努力不足を嘆きつつ、運ばれてきたコップをじっと見てみる。それはもう舐めるように。底が丸い器に足がついている形(足と言って正しいかは良く分かりませんが)です。しかし、その器部分の大きさが尋常じゃありません。そして、それにこぼれんばかりに注がれたトマトジュース。軽く二リットルは入ってそうです。というか、絶対入ってます。

 トマトジュースを二リットル……、オエ!あのくどい味を二リットル(葵と一緒にですが)も飲むのはきついです!

 しかし、そんなことより、問題はストロー。このストロー、無意味なハート型であります。そして、ハートのへこんでいる部分から二つに枝分かれしていました。……一緒に飲むという事で、二人用のストローで飲む覚悟は既にできてましたよ…。

 ですが!


 「何故に、枝分かれしている角度が百八十度ではなく六十度ほどなのですか!?」


 たまにギャグ漫画等でこういうストローを時々見かけますが、普通は向かい合って飲むために百八十度にストローの枝が分かれている筈です。

 僕の最もたる主張を聞いたにも関わらず、コック長はとても軽く答えました。


 「コレーは、貴方達がイチャつくのをからかって我々が楽しむ競技デース!なのーに、向かい合って飲む行為を横から見るだけなんて面白さの欠片もあーりません。まさに、愚の骨頂!つまーり、二人で隣に座りなガーラ、我々の方を向ーき、これを飲み干してもらいまーす、OK?」

 「だが断―――」

 「制限時間は何分?」


 葵!?何を言っているのですか!?こんな人権もくそもない事やる気ですか!?それともあれですか?あなたには羞恥心と言うものがないのですか!?それとも、僕を地獄に突き落としたいのですか!?

 ホラホラ、やるなんて言ったから、コック長も周りの人の目も夜空に浮かぶ星に負けず劣らず輝き始めたじゃありませんか!……でも、どんなものでも、あなたの瞳より美しいものなどありませんよ、葵……こんな事を考える自分、…キモッ!


 「制限時間は、ファイブミニッツ(五分)!OK」

 「嫌で―――」

 「分かった」


 僕に、僕に否定権を!僕はやりたくないのですよ!こんなバカップルみたいな事!親の姿見るだけでこりごりなのですよ!誰か…僕の味方を……。


 「アナータの味方してやる奴なんていないから安心してくださーい」


 ……このコック長も、デフォルトで心を読む機能がついているのか。いや、今の僕の表情に絶望の色が濃く表れていたからでしょうか、ハハ。


 反抗する気力もうせた僕は、流されるまま、一番目立つ喫茶店の中心にあるテーブルに向かいます。もう何でもコイや!

 備え付けの椅子を引き、葵を座らせた後、その横の椅子に腰を落ち着かせます。そして、テーブルの上に先程のコップをセッティングする係員。係員の哀れむような瞳が痛いです。

 そして、僕達の向かい側にこれでもかという程の人間が立っています。軽く百人はいるようです、暇人どもが。


 「ほら、そこ!フラッシュたかない!そして、後ろの方!一脚使ってまで撮ろうとしない!ここは記者会見じゃありません!」

 「はぁ!?何言ってんだよ!?撮ったものを後から今日ここに来てない奴に見せる義務があるんだよ!それで皆で見て、こんな馬鹿な奴がい―――こんな面白い奴が―――こういう微笑ましいカップルがいたという事を伝えてお互いに笑い転――思い出話に花を咲かせるのさ」

 「侮辱にも程があります!僕達にだって人権はあるのですよ!」

 「バカップルに人権はねー」

 「何ですか!?その人権思想は!?ブーケトスが独身者に対する人権侵害だとか言ってるのと同じレベルですよ!」

 「笑いの種にもならないバカップルは公害、これ世界の常識」

 「ふざけないでください、というか、葵も何か文句を言ってくださいよ!」

 「晃、早くストロー咥えて」


 助けを求めて横を見ると、葵は既にストローを咥えて臨戦態勢。何故ここまでマイペースでいられるのか不思議でなりません。

 僕は恐る恐るもう一つの枝の方に口を近づけます。しかし―――


 「―――ッ!」


 僕は思わず、身を引きました。いや、だって、ね?頬がくっついたんですよ?女の子と手を繋がなくなって久しいのに、頬がくっついてしまえば、誰でも動揺しますよ。

 しかし、世の中、こういうことを理解してもらえる事って少ないものなのです。


 「晃、どうしたの?」

 「おい!何やってんだ、早くしろ!」

 「だ、だだだ、だって頬がくっついて―――」

 「そうなるようなストローを特注したのだから仕方ない」

 「確かにそれは仕方ない……って、違います!?なんでこんなものわざわざ特注してるんですか!」

 「頬がくっついたぐらいでなんだ!?男ならビシッといけ!俺達だって暇じゃねーンだよ!」


 いや、絶対暇人でしょ!なら来ないでくださいよ!まじあんたいらない子だから!


 「あ、葵、助け――」

 「――待たせるのは悪い」


 僕の助けをしてくれる人は、誰も、いなくなった。

 

 

 

 

 

 

    完

 

 

 

 

 いや、ジョーク。ブラックジョークですよ。皆さん。こんな中途半端で終わらせるほど、僕のへそは曲がっていません。

 さて、勇気を振り絞り、僕はストローを咥えました。うう、ほっぺが柔らケー。やばい、頭に血が上ってきました。ああ、今なら死んでもいい。


 「では、五分間で頑張って飲み干してくださーい。よーい、ドン」


 ストップウォッチを持ったコック長の掛け声とともに、僕達はトマトジュースを吸い上げます。

 一刻も早く、飲み終えましょう。そして、こんな羞恥心を刺激するイベントを終わらせましょう。でないと――


 「いいぞ、もっとやれー」

 「うおーい、もっと頬くっつけろや!」


 出来ませんよ!そんなことできる訳ないでしょう!もう、嫌だ、泣きたい。でも、ここで泣いたら、一生笑い者にされます。それは僕のささやかな(ここアンダーライン引いといて)プライドが許しません。


 「おい、手がお留守だぞー」

 「そうだ、肩抱けや!眼鏡」


 ハ、ハァアアアアア!で、出来るか~!


 「やれや!面白くねーだろ!」


 す、スルー決定!こんなリクエストに答えていたら身が持たない!


 「ちなみに客からのリクエーストは、実行する義務がアリマース!」

 「ちょ、出来るわけありませんよ!?そんな事」


 思わずストローから口が離れ、慌てて、再びジュースを飲みほしていく。自分の突っ込み気質が憎い。


 「じゃなきゃ、懸賞品出ません」


 な、何たる鬼畜!お前の母ちゃん、絶対出べそでしょ!そうに違いない。前回に僕はこんな事を言う程ガキじゃないとか書いた気がしますが、気のせいだと思ってください。

 流石に、ここまでやって、懸賞品が出ないのは虚しすぎるので、恐る恐る、僕は右手を彼女の肩に乗せました。


 「………ッ!」


 彼女は触れた瞬間に少し肩をびくりとさせましたが、黙々とジュースを飲んだままで、何一つ言ってきません。


 「あんた、何、人の肩勝手に触ってるのよ!」


 とか言われたら、もうニッシーを道連れにして死ぬしかありませんでしたので、安心しましたよ。

 しかし、このトマトジュース、味が酸っぱいような甘いような…、とにかくくどい。口に纏わりつくような感覚がして、正直言って直ぐに飽きました。

 でも、食事代をチャラにするためにも、頑張るしかありません。出来るだけハイペースで喉に流し込んでいきます。そして、周りの観客の声を受け流しながら、残りが後八分の一くらいになった時


 「はい、残り一分ね」

 「後、一分しかない……」


 横の葵がそう呟きました。いや、後一分あれば、余裕ですよ。完璧!

 ―――あ、葵!こ、ここに来て、スピードダウンですか!?いや、今、一分しかないって言いましたよね?なら普通ラストスパートかけるところでしょう?なのに、なんで一気に飲むスピードが遅くなっているのですか!?

 葵は急にやる気がうせたように、ストローをただ咥えた状態になりました。そして、刻一刻と迫りくる時間。これはやばい!

 こうなりゃヤケや!飲み干してくれる!僕は顔の形が変わるぐらいに口に力を入れ、一気に吸い上げました。ま、間に合ってくれー!


 「十、九、八、七」


 うわー、間に合うか、いや、間に合わせるんです、頑張れ僕!


 「三、二」


 無理だ~、間にあわねー!そう思ったその時でした。今まで、ストローを咥えているだけだった葵がようやく、復活したのです。


 「一」

 「御馳走様!」


 復活した葵のおかげで、ギリギリ飲み干す事が出来ました。というか、出来るなら途中で吸うのをやめないで欲しかったです。

 ともあれ


 「挑戦成功!食事代無料の権利を手に入れました!」


 や、やりました…!でも、どちらかというと疲れの方が大きいです。ああ、もうドリンクいりません…。

 僕は一度大きく息を吐くと、ずっと彼女の肩にかけていた手をどかしました。


 「……あ」


 何故か、彼女は残念そうに声をもらしました。何でしょうか?彼女が残念に感じる原因が分かりません。


 「はい、これーがお食事券でーす!」

 「?あ、ああ……どうも」


 危ない危ない。一瞬汚職事件と勘違いしてしまいました。さっきからここがフラッシュでたかれまくっているのが原因に違いありません。


 「では、第二ミッション!」


 し、しまった!忘れてた!まだ、このイベントありました!?ヤメテー!


 「ここの料理を彼女と一緒に食べてくださーい。ただし!お互いにダーリン、ハニーと甘く囁きながら。そして、お互いに自分の分の料理は恋人に食べさせてもらーう事!」


 こんなくだらない考えを考案した人に意見します。はっきり言って痛すぎです。 

 

 

ああ、なんか書いている自分が痛い

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