5・これぞ死の方程式
な、なかなか商店街についてくれない!そして、こんなんで読者は喜ぶのか。はなはだ不安な六話目。
追記
活動報告始めました、各話の経緯や皆様への質問がありますので時間があればみてほしいです
僕達は、今、商店街に向かうため駅に向かっております。しかし、何度思い返しても悲しい。股間を押さえて悶絶しているところを秋月さんにマジマジと見られるとは。
………どなたか、良い樹海を知りませんか?
「河合君」
「良い樹海を教えてくれるのですか、秋月さん!」
「………?一体何の話?」
あなたはニッシーの様に人の心は読めないのですか。というかそれが普通なのですが。
それにしても、こんな事になるのであれば、制服じゃなくて私服で来れば良かったです。女の子と遊びに行くのに制服って……。でも、制服じゃなかったら、秋月さんのご両親とひと悶着あったかもしれないし―――ウウウゥ。
彼女の寝癖はもうなくなっており、先程の服装と少し小さめの鞄を両手にぶら下げています。
ん?彼女の口に何か……ついてますね。ヨーグルトのようです。朝御飯に食べたのでしょうか。
僕は常備しているハンカチをポケットから取り出します。ここが、僕のハンサムたる所以(文句は認めません)。
いや、だってね?男子でハンカチ持ってきている人って案外いないのですよ。大体の人はトイレから出たらズボンをハンカチ代わりにするのです。時々洗いもしない奴もいますが、
僕はそんな情けない人間とは違い、ハンカチとティッシュを常備するようにしているのですよ、昨日から。でも、他には財布しか持ってきてません。急いで出てきましたから。そのせいで、先程秋月さんのお父様に”避妊道具を持って行かんか!”と言われましたよ。
別にいりませんと言っても”妊娠したらどうするつもりだゴラァ”と勘違いする始末。そんなことする訳ないじゃないですか、と言いつつ今の秋月さんの姿を見ると、少し自信を失ってきました……。ともあれ
「秋月さん、口元についてますよ」
「えっ……!?」
キュッキュ
僕は彼女に近づき、口元を拭きました。これで良し。って、このハンカチ!今秋月さんの唇に触れました!これは、もう洗いません!不潔と思われようが洗いません!
僕はガラスを扱う様に丁寧にハンカチをポケットに収納する。
「じゃあ、改めて行きましょうか」
「…………」
「ん?あ、あの、秋月さ~ん。もしもし?」
「………」
まずい、秋月さんが固まりました。秋月さんが固まりました。重要な事なので二回言いました。
さっきから目を見開いた状態で瞬き一つしません。どうしたんですか、おーい!
「………」
動かず。どうしましょうか?よし、いっちょ驚かせてみましょう!
「わっ!」
「………」
だ、駄目ですか………。な、なら恥ずかしいですが、ここは!
「氷のように固まりましたね。こおりゃまいった!」
「………」
………ギャグがスルーされることほど悲しい事はないものです。どうせつまらないですよ!
な、何か、何か手を打たないと、彼女が動けなくなってしまう!なんてことはないだろうけど、少なくとも彼女とのデートの時間が減ってしまう!
そ、そうだ、一つ、さっきより恥ずかしいけれど、引かれてしまうかもしれないけど、手段がある!
行くんだ!僕!
「あ、あ~っと」
「………」
ど、どもってしまう!頑張れ、僕。ここで頑張らないと話が進まなくて作者が困る。
さあ、言うんです!
「あ、葵、さん…!」
「……!え、えっ……?えっ?」
今、僕の事をヘタレだと思った方!そうですよ、ヘタレですよ!悪いですか!
ま、まあ、なにはともあれ、彼女は再起動しました。僕を一度驚いた眼で見つめた後、視線を左右させてます。
ふぅ……、まさか、睨めっこ(笑う以外に喋ってもいけないルール)で培ったこの裏技が役に立つとは。人生何が起こるか分かりませんね。
彼女は未だに落ち着かないようです。しかし、先程も言いましたが、デートの時間を死守するためにも、ここで立ち止まる訳にはいかないのです。
「じゃあ、いきましょうか、秋月さん」
「え、えっ……?あ、うん」
呼び方を元に戻す。どうせヘタレですよ!
「あ、さ、さっき、な、名前―――」
「さあ、行きましょう。今すぐ行きましょう。光速で行きましょう」
恥ずかしい事はなかった事にする。これに限るのです。どうせ僕は以下略。
快晴の天気のもと、少し頬が赤くなった彼女と僕はようやく駅に着きます。
「えーっと、商店街は、あ、この”笑顔駅”ですね」
僕と彼女は笑顔駅の切符を買い、まもなく来た電車に乗りました。それにしても三駅で三百円は高すぎると思うんですが。
特に混んでいなかったので座席につくと、そのすぐ隣に彼女が座ってきました。って、近いです!
少し横を見れば、彼女との顔の距離は数センチ。これは辛抱たまらん!って、違う!
僕はさりげなく、彼女から少し離れると、彼女はそれに合わせて移動してくる。や、やめて!これ以上近づかれると、うるさいくらいなってる心臓の音が彼女に聞かれてしまう!
僕の理性が持つかどうか甚だ不安なまま、このデートは始まってしまいました。
”えー、次の駅は理不尽、理不尽でございま~す”
電車が走り出し、アナウンスが流れます。それにしても…そろそろ離れてくれないと、ハハハ。
よし、ここは交渉です。少し距離を話してもらう様に……駄目です。言ったら、昨日みたく「迷惑……?」って聞かれます!涙目で!そして、この近くの男性陣に理不尽にぼこぼこにされて、痴漢という事で駅長に捕まり、裁判にかけられ、THE END。なんか、大袈裟じゃなくそう思えてきました……。
そう思う理由があるのです。さっきから、車両に乗っている男性陣のほとんどがこちらを殺気のこもった視線で射抜いてきているのです。
その目はさながら”美人とくっついてにやけてんじゃねーぞゴラァ”と言っているようです。だって、仕方ないじゃないですか!これだけ近くに美人がいて、にやけない人は男性じゃありませんよ!いたとしても、そいつはゲイ、ホモ、ガチ、ショタのどれかです!僕にはそういう性癖はありませんから!
そ、そうです!引くが駄目なら押してみな、の精神に従って、逆にこっちから更に密着しましょう。そうすれば、彼女は否が応でも僕との距離を意識し、恥ずかしがって、少し離れる筈です!これぞ妙案!
僕は一度大きく息を吐くと、彼女のいる方に近づきました。う、彼女の肌の感触が!良い匂いが鼻をくすぐります。や、やばい!理性が焼き切れる!
「………っ!」
彼女は驚愕したようで、僕の方を見ました。恥ずかしくて、僕は明後日の方向を向きます。
横目で彼女の様子を窺うと、彼女は恥ずかしいのか俯いています。
そ、そうです。は、早く離れてください!理性が、本能に投了する前に!
―――って!何で更に近づいてきているんですか!あ、良い香り……って違います!僕は、離れて欲しくて近づいたのに本末転倒じゃありませんか!
僕は彼女の方向を向くと、今度は彼女が、明後日の方向を向いています。恥ずかしいならやめてください!でも、この状況を嬉しいと思っている自分が心底腹立たしいです!
って、うわ、こ、この腕に、当たる感触は、お、男の聖地、ボ、ボイ……、恥ずかしくて言えないです!
…ゾクッ!幸せ気分に浸っている僕を射抜く先程のそれをこす殺気!しかし、それをも凌駕する彼女の身体の一部の感触。
そ、それにして、も、ハハ、理性マジ切れる五秒前。皆さん、今からこの小説はノクターンへ向かいます。さようなら、さようなら。
「おい、何いちゃついてんだよ!」
その声に、僕はギリギリ我に返り、思わず彼女から離れます。それは彼女も同様で、彼女も僕から離れました。
あ、腕が寂しい……じゃなくて感触が無くなってもうた、でもなくて!僕は声のした方向を向きます。
「ニ、ニッシー、何故ここに!?」
「お前が、秋月さんと何処かへ出かけるのを見つけて後をつけてきたんだよ!」
「ストーカーですか!?」
「違うわ!」
そうでした、ニッシーはあのマンションの近くに居たのでした。そもそも、インターホンだって、ニッシーが押したのですから。
―――そうです、復讐です!でも、秋月さんの前じゃ明らかに暴力的な事は出来ません。クソッ!
「秋月さん、こんな奴と何処かに遊びに行くなんて危険ですよ!」
「どういう意味ですか!?」
僕と一緒に遊んだからって何が危険なんですか!せいぜい、ホテルに連れ込むくらい……って違います!秋月さんの父親みたいなことを言ってしまいましたよ。
まあ、邪魔したくなるのは分かりますがね。ニッシーは秋月さんの事が好きなのです。ただし、既に砕けましたが。
その後、例の殺人事件が起こり、あろうことかこいつは秋月さんが犯人だと推理したのです。まあ、それが間違いだと分かり、事件の後日、彼は秋月さんに謝ったらしいですが。
もうそれは、とんでもなく壮絶な謝り方だったそうで。聞いた話によると”死ねばいいのよ”と言った彼女に憧れている女子が言ったのを聞いて”天皇陛下バンザーイ!”と言いながら投身自殺しようとしたらしいです。
流石の彼女も必死に止めて、彼を許したそうな。でも、そんな奴に僕達の事をどうこう言われたくはないです。
”間もなく、理不尽~、理不尽でございます。お降りの方は座席の方にあるボタンを押してください”
バスですか!と内心突っ込みつつ、如何にして、ニッシーに復讐してやろうかと考えていると、秋月さんが口を開きました。
「河合君は危険じゃない。良い人」
「もう、話にならねー!眼鏡、次の駅で降りろ!」
そう言って、ニッシーは僕の腕を持って立ち上がらせようとします。オイオイ、それはいくら何でもやりすぎです。
―――ピコンと閃きましたよ!ニッシーに復讐する妙案が!僕は、少し声帯をすぼめました。
「キャー、痴漢!」
出来る限りの女声を出した後、皆の視線がこちらに向く前に僕は驚いて力を失ったニッシーの手を彼女の腕に移動させました。
「痴漢がいるぞ!取り押さえろ―!」
「ち、違うわ!俺は痴漢じゃ無い!」
「その腕が何よりの証拠!」
電車に乗っていた他の男性乗客が指さす先を見るニッシー。ニッシーの手は、秋月さんの腕に。それに気付いたニッシーは慌てて手を引っ込めます。
だが、時既に遅し!
”理不尽~、理不尽でございます。お降りの方は足元にご注意ください”
「さあ、駅員のところに行こうな」
「は、離せ!俺は痴漢じゃない!」
「かつ丼が待ってるぜ」
「それでも俺はやってない!理不尽だ!」
電車のドアが開き、ニッシーは数人の乗客に連れて行かれました。さよなら、ニッシー。後で覚えていたら弁解してあげますから。
「河合君」
「な、何でしょう?」
”流石にやりすぎじゃ”とでも言うんでしょうか。十分あり得る。そして、”あんた最低”と言われて頬を叩かれ、今度は僕が痴漢扱いにされ以下略。
そ、それは困ります、と思いつつ、彼女の方を向きました。
「く―――」
「ひぃ、御免なさい!やりすぎました!やりすぎましたから!切腹だけはご勘弁を」
「……?靴ひもほどけてる」
マイペース!彼女は呑気ですね、と思いつつ僕は靴ひもを結び直しました。
ニッシー達と入れ違いに、ある程度人が乗ってきます。座席は全て埋まり、僕達は再びくっつく事を余儀なくされました。
ま、まずい、と思っていると、目の前にもう八十を越えているであろう老人が立っているが目にうつりました。
そうです!席を譲りましょう。そうすることで、僕は危機的(理性が)状況から脱し、更に彼女の好感度があがります!おまけ程度にお婆さんの好感度もついてきますが、そんなのどうでもいいのです。
「席、代わりましょうか?」
僕は、あくまで紳士的に老婆にそう問いかけました。
「年寄り扱いするんじゃない!」
理不尽です!だって、あなたどうみても八十こえて……。
「いた!殴らないでください!どっから出したんですか?その鍋のふた!待ってください!鍋の蓋は武器じゃありません!防具です!勇者の防具ですから!」
とても理不尽です。皆さん、人の良心は好意的に受け止めましょう。
”え~、次の駅は、嫉妬、嫉妬でございま~す”
「あら~、河合さんに葵さん~」
僕が何とか、老婆を鎮め、何処かへ行くのを見届けると、間延びした声が聞こえてきました。
オゥ、この声は聞いた事が、イエー、あります、YO!何でノリノリになっているかと言うと、それは勿論、この声の主が美人だからだ、YO、チェキラ!
「京…、どうしたの?」
そう、そこに居たのは昨日知り合ったばかりののんびり系美少女、日向京さんだったのです。
「この次の嫉妬駅に用があって~」
そう、笑顔で答える彼女は非常に愛らしい。秋月さんとは違った魅力がありますね。
それから、全体を白に統一した服装も、彼女の明るさに絶妙にマッチしています。
「嫉妬駅に?何の用ですか?」
「はい、何でも最近~、美味しいお店が出たらしくて~、興味があったので行ってみようかと~」
「あ、もしかして、次元店ですか?」
「はい」
「最近僕も行った事があるのですが、凄く美味しかったですよ、特にデザートなんかが」
そう、僕も興味があったので殺人事件で学校が休みになっている間に食べに行ったのですよ。
値段もリーズナブルで味も文句なし。強いて言えばマスターが頑固おやじでツケがきかない事ですかね。
そのおかげで、僕は一緒に来た奏に”トイレに行く”と言ってお店を抜け出す羽目になりましたよ。
その後に、奏のはなった右ストレート、痛かったなあ。あいつ、サッカー部で筋力強いですから。
でも、何故か泣きながらだったのですよ。”どんだけ、皿洗いさせられたと思ってんだ!”とも叫んでましたね。
あまりに可哀そうでしたから、ニッシーのクラス(七組)に向かい、鞄を探り自分の食事代の倍のお金を彼に渡し、何とか友情に亀裂は走らずに済みました。
ニッシーがその事で騒いだのは言うまでもありません。
「本当ですか~?楽しみです~」
「特に地獄パフェってのが絶品ですよ」
男二人で店に行き、パフェを食べるとは如何に?という突っ込みはスルーします。
こうして、僕と日向さんはそのレストランの話題で盛り上がりました。
”嫉妬~、嫉妬でございます。お降りの方は足元にご注意ください”
そうこうしている間に嫉妬駅に着き、日向さんは僕達に笑顔を向け、電車を降りて行きました。
うん、にやけてしまうのは仕方ないと思うんです。だって、最後にみせた日向さんの笑顔、大体の人なら悶絶ものですよ?
「あ、そうだ、次元店、帰りに―――」
僕達も寄っていきましょうか?と秋月さんに言おうとして言葉を失う。
な、なんで、そんなに、泣きそうな顔をしているのでしょうか!?
あ、そ、そうです。先程日向さんと会話していた時、彼女、完璧に蚊帳の外でした!
で、でも、普通、不機嫌にはなっても、泣きそうにはならないんじゃないでしょうか!?
ほ、本当にそんな顔はやめてください!僕はあなたの泣きそうな顔なんてみたくはないのです!
そうこうしている間に、電車は出発します。そして、周りの皆の”何女の子泣かせてんだ!”って目で見てきています。
な、何とかしなければ!
「あ、あの、秋月さん」
「……」
秋月さんに視線を外される。ど、どうすればいいんですか!?これから、僕達は何時間か一緒にいる訳です。でも、こんなに険悪なムードは御免です!
誰のせいですか!あ、僕ですか。
「き、機嫌、直して、もらえませんですか……?」
「………」
哀愁を込めた瞳でそっぽを向いたままの彼女。う、うわー、マジどうすればいいのですか!?人生でこんな経験した事ないから分かりません!
誰か、誰か、教えてくださ~い!AT世界の中心。
こ、こうなったら、男のプライドかなぐり捨ててでも機嫌を直してもらいます!最初からないだろうというのはスルー。
「ぼ、僕に出来る事でしたら、何でもしますから!お願いですから、機嫌を直してください」
「………」
彼女はちらりと、僕の方を見ました。いけます!もうひと押し。
「ええ、何でもします!あなたは笑っている時が一番素敵で可愛いのです!その笑顔を見られるのなら何でもします!」
「………!か、河合、君。ここ、電車」
ハッ!僕とした事が!こんな公衆の面前で臭い台詞を吐いてしまうなんて。皆が僕の事を軽蔑のまなざしで見てきています。ヤメテー。
僕は、慌てて口を押さえます。彼女はと言うと、顔をほのかに赤くし、僕の方をちらちら見てきます。
「え、えと………」
彼女は、俯き、声を絞り出しています。ど、どうやら、彼女は僕にお願いを言うようです。でも”時価三千万の絵が欲しいの”とか言われたら、どうしようもありません。
彼女の価値観が普通である事を祈りながら、僕は言葉を待ちます。
「………………な、名前」
「え?」
「な…名前で呼んで欲しい」
”まもなく~、笑顔、笑顔でございま~す”
小さな声で、しかもアナウンスが重なり聞き取りづらかったですが、僕の耳にはしっかり届きました。
た、確かに、それは僕にも出来ますが…!その、恥ずかしいというか、え、えっと…。
「……駄目……?」
「―――っ!」
至近距離+涙目=死
前に似た方程式があったなー(前作)、と思いつつ僕は覚悟を決めました。
「あ、あ、葵、さん」
い、言ってやりましたよ、文句ありますか!顔が紅潮するのを感じつつ、秋月さんを見ると、先程より顔を赤くしつつも、まだ、何か納得がいかないような顔で僕を見つめてきます。
「…よ、呼び捨てでよんでほしい……」
無理!いや、それ無理!マジで無理!僕はヘタレなのですよ!ヘタレなのですよ!なのに呼び捨て?呼び捨て?
そんなの猿に数学の証明問題を解かせるぐらいに不可能ですよ!
「……駄目?」
至近距離+涙目+袖クイクイ=DEATH
「あ、あ、あ、葵」
絞りに絞られた変な声で、ようやく僕はそう呼ぶ事が出来ました。すると、彼女もすこしぎこちない笑みを浮かべてくれました。よ、良かった~。やっと笑ってくれました……。つ、疲れた~。
”笑顔~、笑顔でございます。お降りの方は足元にご注意ください”
「…ありがとう、あ、晃」
クーデレってこれであってるのでしょうか?良く知らないから正直分かりません。
何か、おかしなところがあったら教えてください。
そして、次回こそはデート本編に!