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2・心臓を潰す気ですか?

というわけで(どういうわけ?)新キャラ登場。

 少しした後、校門で待っていた僕のところに、秋月さんが走りよってきました。しかし走っている姿もお美しい。


 「御免、遅くなった」

 「いいですよ、僕も今来たところですから」

 「嘘。少なくとも二十分は待たせた」


 何故バレたし!というか先程約束したのですからバレて当たり前ですね。でも言ってみたいじゃないですか。デートで定番の台詞ですし。

 どうせ彼女が出来たことありませんよ!僕は泣きたい気持ちを抑えつつ、彼女に尋ねました。


 「でも何でいきなり、一緒に帰ろうなんて言ったんですか?」

 「一緒に帰りたかったから」


 彼女は、口元に笑みを浮かべさらりと言った。とんでもないことを言ってくれますね。純情少年をからかうと後が怖いですよ?


 「ひょっとして、迷惑だった・・・・・・?」


 待ってください!泣きそうな顔をしないでください!いや、本当に!

 僕が、なかなか言葉を発しなかったからか彼女はなんともネガティブな考えにたどり着き酷く悲しそうです。


「いや、あ、え」


何とかしないと、とは思っているのですが、慌てたせいかうまく言葉が紡げません。国語は得意なのに実技で役に立ってません!


「迷惑、なんだ・・・・・・・・・」


彼女は更に悲しみの色を顔に表しました。誰ですか、彼女を悲しませてるのは!

あ、僕か


「いえ、迷惑なんかじゃありません!本当に!」


 思わず怒鳴ってしまいましたよ。もうほとんどの生徒がいないのが幸いです。もし見られたら、恥ずかしくて死んでしまいます。その前に、秋月さんを悲しませた時点でファンによる拷問を受けて死にます。放課後で本当に良かったです。


 「あら~、二人とも、おアツいですね~」


 見られてましたよ!人生最大の汚点。

 誰やねん!と後ろを勢いよく振り向くと、そこに立っていたのは、少し背の低い女性でした。

 この少女、美しいというよりは可愛いというイメージがピッタリです。肩に流す程度の長さの黒髪に、パッチリと大きな目や透き通るような白い肌、と秋月さんとは違った魅力のある美人です。


 「葵さんも、最近よく休み時間に出かけると思ってたら、こういう事だったんですか~」


 喋り方は聞いてるこちらが脱力してしまうほど、覇気がなく間延びしてます。どうやら秋月さんのお友達のようです。僕も秋月さんの友達。友達の友達は友達。つまり、僕とこの少女は友達なのです。 

 今ここに、僕と少女が会話しても不自然でないことが証明されました。簡単に言うと、美少女と知り合えて僕ラッキー!


みやこ、どうしたの?こんな時間まで」


 秋月さんが尋ねた。この台詞から彼女の名前が京と判明しました。べ、別にラッキーだなんて思っていませんからね!

 ………男のツンデレは虚しいと感じる今日この頃。

 つまらない事はさておき(前作で何回言ったか分からない台詞です)、彼女の質問は少しわかりにくいですね。彼女の悪い癖ですが、口数が少なすぎて何を聞いているのかよく分からない時があります。

 この問いを分かりやすく言いかえると”何で今までも学校に居るの?”と言う意味でしょう。


 「教室で、日向ぼっこをしていましたら、こんな時間になっていました~」


 笑顔のままそうお答えになられるこの女性。見ているだけで癒される感じの笑顔です。惚れてまうやろ!

 しかし、何故だか、彼女とはダーリン、ハニーの関係には如何にしても昇華できない気がします。裏の事情でしょうか?

 それにしても、僕は蚊帳の外の様です。グレてやりたいところですが、そんな子供みたいなこと出来る訳がないだろコンニャ、ゲフンゲフン、出来る訳がありません。

 どうしたらいいかよく分からない、僕を見てか、秋月さんがフォローを入れてきました。


 「日向ひゅうが京、私のクラスメイトで親友」

 「あ、は、初めまして、河合晃と申します」

 「日向京です~、宜しくお願いします」 


 普通語尾などを延ばすと、鬱陶しい事この上ないのですが(主にヤンキー)、彼女だと可愛く思えるのは何故でしょうか?

 頬がつい緩みそうになるのをグッとこらえながら、彼女を見つめてふと疑問に思いました。


 「あれ、始業式の騒ぎの時に居ませんでしたよね?」


 始業式の騒ぎとは第一話でも触れましたが、簡単にいえば、始業式に植物園で人が死んで彼女が疑われ僕が無実を証明し犯人を捕まえたのです。いや、捕まえたのは警部さんですけど。

 しかし、その騒ぎの中で彼女を見かけませんでした。学校中の人間が事件現場に集まったというのに、しかも親友が疑われているというのに現場に来ないとは如何に?

 もしかして、あなた悪女?


 「インフルエンザ」


 さいですか。日向さんの代わりに秋月さんが教えてくれました。インフルエンザで始業式を休んでたのですか、季節から考えて新型でしょうか。

 おっと、もう一つ疑問に思っている事がありました!


 「そう言えば、あの日の犯行時刻、何処に行ってたんですか?秋月さん」


 そう、その事件で彼女にはアリバイがなかったのです。休み時間中に教室から離れていたみたいで。秋月さんはまじめな性格です(僕もね)。テストの合間の休み時間が犯行時刻でしたが、彼女ほど真面目であれば、教室で次のテストの為の最後の追い込みをする筈でしょう。

 僕は真面目ですよ!真面目に不真面目なのです!休み時間に廊下で植物園を眺めていたとしても、僕は真面目です!誰か認めてください……

 くだらない事はさておき、僕は秋月さんの言葉を待ちます。まさか彼氏が?そいつの名前と電話番号を教えてください。毎夜毎夜イタ電し、ゲフンゲフン、お友達になりたいです。


 「トイレ」


 さいですか。


 「ほお、そんなに時間がかかったのですか?」

 「月経」


 さいですか、ってええ!そんな事をさらりと言って大丈夫なのですか?僕の心臓を壊す気ですか!

 

 

 

 その後、帰る方向が真逆の日向さんと泣く泣く分かれ(本当に泣いたら引かれるので心の中で)、今は秋月さんと一緒に夕焼けの中帰途についています。というか


 「秋月さん、家はこっちのほうにあるのですか?」

 「うん、この先のウィンターヒルズ」


 ほう、僕の家の近くのあのマンションでしたか。って、こんな美少女が近くに住んでいるのに気付かなかった僕の馬鹿!


 「河合君もこの方向?」

 「イエス、キ」


 キリスト!と言いかけて口を噤む。僕はキリスト教徒ではありません、幸福実現党ですし。嘘です。


 「ウィンターヒルズの奥のしがない一軒家ですよ」


 これも嘘。実際は手前にありますが、そんな事を言えば、彼女と帰れる時間が削れてしまいますよ。そんなことは認めません!


 「嘘」


 何故ばれたし!あれ、デジャヴ?

 彼女が指差した先を僕が見ました。おぅ、この洋風づくりの二階建ての家はマイホームではありませんか。しかも、玄関口に”河合”というプレートがありますよ。ナンテコッタイ、いつの間にか家の前にいたじゃありませんか!


 「違います」

 「でも河合って」

 「同性の別人ですよ」

 「あ、お帰り。晃」


 お母様ァァァァァ!僕の必死の言い訳が無駄になったではありませんか!


 「パパもいるぞ~、息子よ」

 「あなたはいりません」

 「ヒドッ!」


 玄関から出てきたお父様とお母様(しかも腕を組んでいます、いい年して)のせいで、ここが僕の家だとばれてしまいました。個人情報が漏れてしまいましたよ。


 「慰謝料を要求する!」

 「息子に慰謝料を要求する親が何処にいるのですか!」

 「ここに!」


 ベタなギャグは要らないです!


 「今時悪口を親に言わない息子のほうが少ないですよ!」

 「それに対しての慰謝料じゃない!」

 「じゃあ何ですか!」

 「ママとのラブラブタイムを邪魔されたからだ!」

 「くだらないですね!」


 むしろ、彼女との帰宅時間を邪魔されたこちらが慰謝料を請求したいですよ!

 あれ、お父様と思考回路似てきました?イヤジャー!

 僕とお父様が言いあいをしていると、お母様が僕の隣にいる女性に気がつきました。


 「キャアアアア!幽霊!」


 何故!彼女の何処をどう見れば幽霊になるのですか!ほら彼女も、何が何だか分からないと言った顔をしていますよ。


 「幽霊じゃありませんよ」

 「じゃあ」

 「妖怪でも、プラズマでも、宇宙人でもありませんよ」

 「ダウト!」

 「嘘じゃありません!」


 さっきから怒鳴りっぱなしで疲れますよ、本当に。って、お父様、何蚊帳の外になっただけなのにそんな悲しそうな顔で見つめてんですか!いい年して、指をくわえないでください!


 「こちら、学校の友達の秋月葵さんです」

 「は、初めまして」


 何やら彼女は少し緊張しているようで、彼女にしては珍しく、最初詰まりました。しかし、礼をするのを忘れていません。さすが和風美人(関係ない)


 「私、晃の母親の河合岬と言います、初めまして」

 「俺は、晃の父親のディーブスペク、ちょ!ギブギブ!関節が~!」


 外国人を親にもった覚えはありません。僕は父に関節を決めながら、代わりに彼女に答えた。


 「この人は、河合健介太郎の介五郎座絵門直孝です」

 「ちょまて!何かいろいろ要らないものがついてる!って、イタ!」


 いえ、あなたは河合健介太郎の介五郎座絵、座絵………


 「初めまして、河合健介太郎の介五郎座絵門直孝さん」


 そうそう。


 「ママ、皆がいじめる~!」

 「はい、よしよし。高い高~い」


 いい年して、甘えない!って、高い高い?

 おっと、読者の皆様にも二人の容姿を言っておかないと。変に気持ちの悪い顔を想像されてはたまったものではありません。ちなみに僕は黒髪ショートヘアの眼鏡です。

 お母様とお父様はいたって平凡です。二人とも中肉中背。バカップルである事以外に特に特徴はありません。何でこんな平凡な家庭に、僕のような素晴らしい息子が生れたのでしょう?自分を過大評価してスイマセン。


 「これから、パパ達は映画に行くからな!ついてくるなよ」

 「バカップルのデートに付き合う人が何処にいますか?」

 「ついてこいよ!」

 「どっちですか!」


 泣きながらお父様に袖クイクイされてもうれしくありません!


 「ママー!晃が~」

 「パパ、晃はツンデレなんですよ」


 違います!何時僕がデレましたか!


 「そうなのか、おい、晃。それならツンが無くなった時に一緒に」

 「何処にも行きません!」

 「ママー!」


 もう、うざいからとっと出かけてください!


 「パパ、行きましょう」

 「うにゅー!」


 お父様は渋々、ガレージに向かい車に乗り込みました。お母様もそれに続こうとして、途中で踵を返し、僕の耳元でこう囁きました。というか耳がくすぐったい。


 「家のベッドはママとパパ専用だからね。するなら自分の部屋で」

 「しません!」


 親が何という事を言うのでしょう。秋月さんに聞かれていないかひやひやです。心臓に悪いですよ。

 こうして、両親は車で映画を見に向かい、家の前に僕たちが残される形になりました。僕がかすかに溜息をつくと、今まで閉口していた彼女が喋りました。


 「賑やかな家族」

 「家族じゃなくて両親と言ってください。その言い回しだと僕も含まれている事になります」

 「違うの?」

 「違います」


 絶対同種の人間ではありません!将来は絶対にあんなバカップルにはなりませんよ。

 え、なんで皆”嘘つき”って顔して僕を見るのですか?


 「ここが、河合君の家」


 彼女はそう言って僕の家をじっくりと見ます。恥ずかしいからやめてください。


 「自慢できるほどの家じゃありませんけどね」

 「ううん、良い家」


 彼女は首を振ってそう答えました。何故か気恥ずかしい気持ちになり、ふと、僕たちは帰宅の最中であった事を思い出します。そうだ!親のせいで彼女の家までいけなかったのでした!家に帰ってきたら靴の中に画びょうを仕込んでやります。

 しかし、まだチャンスはあります。秋月さん、今から言う言葉に肯定の返事をしてくださいね?


 「家まで送っていきますよ」

 「別に良い」


 即答しないでください!悲しくなります!どうせ僕なんか!

 僕は悲しみに打ちひしがれました。しかし、そう言ったのに彼女はその場を離れず、車の去った方向をじっと見たまま立ち止まったままです。どうしましたか?イケメンでもいましたか?―――どうせ僕なんか!

 すると彼女は一度頷くと、僕の方をむきました。何ですか?彼女はクールフェイスであるからして、考えている事がよく分かりません。


 「河合君」

 「な、何でしょうか?」

 

 


 

 

  

 

 「明日、私を拉致してほしい」


 は?今なんと?

いやはや、名前を考えるのはいつも大変です。京はなかなか出ませんでした。

というか、面白いのか、この回?

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