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9・殺意とはこういうこと

いつの間にか、お気に入りが十件もあって恐縮の次第であるこの小説も、とうとう番外編を含め十話目。さて、あと何十話続くのだろう…

 僕が小学生の時でした。大人の僕は、道端に落ちていたR18の代物を見て呟いたのです。


 「ポイ捨てとは何事ですか!けしからん!」


 僕は慈善に満ちたマイハートに従い、地球をクリーンアップするため、仕方なく、本当に仕方なく、そのブツを家に持ち帰ったのです。やましい心など、一切、ありませんでした。

 しかし、ほどなくして僕の父親がブツを僕の部屋から見つけてしまったのです。しかも


 「俺の息子は大人になりました~!皆さん、我が息子に祝福を!」


 とメガホンを持って町内に広めてしまったからさあ大変。学校に行けば”スケベ”と呼ばれ、教師には”ブツだせや!俺が使――じゃなくて没収する!”と言われ、”私と良い事してみない?”とオカマに言い寄られるという恥辱を味わったのです!あの時は本当に引きこもろうかと考えましたよ。

 ですが、今、僕は、それ以上に恥ずかしい事をしているのです。


 「あ、ああああああ、あ―――」


 さて問題です、僕は一体何回”あ”と発音したでしょう?八回?いいえ、ケフィアです。


 「あ、あ~ん」


 これは女性が出す艶っぽい声ではありません。僕の声です。期待した人は取り合えず、病院に行ってください。…誰に言っているんですか、僕は?

 さて、何故僕がこんな声を出したのか?という疑問を持つ人もいるでしょう。いや、前回を読んでくれたお方であるならば、推測するのは容易かと思いますが。それでも説明するのが親切設計と言うもの。

 僕は見知らぬ人にいきなり「あ~ん」と話しかける狂人ではありません。結論から言いましょう。この、あ~ん、とは口を開けてくださいという意味であります。つまり、食事中にやるあれです。見てて身体がむず痒くなるやつです。

 そして、その相手は勿論女性でありまして、決して男性では無い事を忠告しておきましょう。男性にやるなんて鳥肌がたちます!汚らわしい!

 そう、今、僕がやっている動作の受け手はまぎれもなく、彼女、秋月葵さんなのです。というか、これだけの事を説明するだけなのに、こんなに文章を使っている作者は馬鹿です。

 お箸でつまんだ御飯を、彼女の口内に入れて、葵が咀嚼します。うん、きちんと二十回噛んで健康的。

 ちなみに、僕達のポジションはジュースを飲んでいた時と同じく隣に座った状態。そして、それを沢山の観客に見られる。ドMやド変態、バカップルならばなんてことはないのかもしれませんが、一般の思考を持つこの僕にはいささか恥ずかしすぎますよ。

 しかもですね、僕はこの状況に少し慣れ始めてきているのです。恐ろしい!慣れ切ったら変態の仲間入りです!しかし、真に僕を困らせているのはその事ではないのです。

 慣れ始める、と言う事は、逆に自分の身の回りに気を配る余裕ができるという事と等しいのです。そして、体制は先程言ったように、ジュースを飲んでいた時とほとんど変わっておりません。

 ジュースを飲む時、緊張しすぎていてホッペにしか気がまわっていませんでしたが、今、僕は他にも色々ヤベェという事実に気付いたのです。

 つまり、それは、葵と体の側面がピッタリ、隙間が無く、くっついているという事なのです。椅子が寄せてあるからこそできる芸当…って違う!

 想像してください。とびきりのS級美人の異性が、自分の隣に隙間なくくっついていたら、どうなりますか?それはもう、理性と言う名の石を本能と言う名の電気ドリルが容赦なく壊してくるのです。お、狼になる~!

 それなのに僕の理性が持つのは勿論、ここが公共の場である事、そして衆人環視の状況である事が大きいです。これが僕の部屋であれば、それはもうR17な事になりますよ。彼女が怒って。


 「うおい、そこは”ハニー、あ~ん”って言うところだろが!」

 「そうだ、何で名前を囁かない!?」


 ハニーは名前やない!と突っ込んでも仕方がありませんか…。そう、このカップル特別イベントは、相手に食事を食べさせるだけではなく、相手の事を”ダーリン””ハニー”と呼ばなければならないという、考えた人を奈落の底にたたき落としてやりたくなるようなルールが存在するのです。

 そもそも僕達はカップルじゃないんですよ?何で、そんな事をせねばならないのですか?そう思わないですか、葵。


 「ダーリン、あ~ん」


 あえて…何も突っ込むまい。こうした状況を受け止める事で、人間は大人になっていくのです。

 フォークで刺してある煮込みハンバーグを僕に向ける葵の表情は何時もの如く、クールフェイス。無表情と言う程ではないのですが、やはり読み取りづらいです。まだ葵検定四級からは這いあがれません。


 「あ、あ~ん」


 やはりどもってしまう情けない僕は、ハンバーグを口に含み、ゆっくりと噛む。彼女が食べさせてくれたものを、すぐに飲み込んでしまうのは礼儀知らずですしね。

 ここのハンバーグは、良く漫画である、とびきりうまい物ではなく、そこら辺の喫茶店にあるそれとほとんど味は変わらないようです。さて、なんでここで断言しないかと言いますと、正直、今の状況にまだ慣れ切れていなくて、ハンバーグを味わえる程の余裕が復活していないのです。つまり味が感じられません。御飯の神様、申し訳ありません、と心にもない謝罪をしてみる。


 「さあ、次は眼鏡、てめぇの番だ、今度はちゃんと言えよ!」

 「なんなら”ベイベー”でもいいぜ」


 それは断固拒否。し、仕方ありません。言うぞ!


 「ハ、ハ―――」


 が、頑張れ僕!


 「ハチミツ!」

 「おい!」

 「ハッポウサイ!」

 「てめぇ!」

 「ハクサイ!ハッパ、ハンコ、ハッケツビョウ、ハハ、ハンパ、ハッスルハッスル!」

 「――もしもし、ここに気違いがいます!今すぐ来て――」

 「ま、待ってください!言いますから!それから気違いは死語です!」


 す、少しは心の準備をくれないのですか?僕は純真無垢な日本の清潔さを代表するような好青年なのですよ。照れぐらい許してください。


 「ハ、ハ、ハニー、あ~ん」


 言いました!言いました!僕グッジョブ!しかし、その一方で僕は何か大切なものを失った感覚に襲われました。気のせいだと願いたい。


 「あ~ん」


 それに対して、彼女は余裕。なんか憎たらしく思うと同時に、可愛らしくも思えてくるのはやはり美人だからなのでしょうか?

 ウィンナーを彼女の口内に入れます。こんなくだらない事は、早めに終わらせるのが得策。とにかく、早く食べてしまいましょう。

 しかし、そうは問屋がおろさないのが、このお店。周りの人がなにやら画用紙にマジックペンで文字を書いたものを見せてきます。まさか…


 「この台詞を言いながら、次やって」


 で、でで、ででで、デデデ、できるかー!一瞬大王の名前を言ってしまった自分を恥じますが、その画用紙に書いてある言葉を見てしまって正気でいられる訳がありません。そんなはずい台詞が言えるかー!そんな事、バカップルだって言わないだろ!


 「言わないと、商品没収アーンドその料理の代金も払って~もらいまーす」

 「待ってください!僕達は一つ目の課題をこなしましたよね!?」

 「……分かーりました、ここは民主主義にのっとーて、多数決で決めましょーう」

 「待ってください!もうそれほとんど民主主義じゃありませんから!僕と彼女対その他大勢で勝てる訳が―――」

 「はーい、この件について反対の人、手をレイズアップ!」

 「はいはいはーい!」

 「反対はたった一人、以上によりこの件は可決となりまーす」

 「り、理不尽です!というか、葵、せめてあなたも手を挙げてください!」

 「はい、あ~ん」

 「あ、え、えーっと、あ~ん、モグモグ………って違います!」


 このサラダ美味なり!ってこれも違います!なんだか今日は彼女に振り回されてばかりな気がしますよ。彼女に悟られないように小さくため息をつきます。

 眼は口ほどに物を言う。この言葉を思い出しました。そう、皆の眼が語っているのです。”とっととやれや”とおっしゃっているのです。

 命の危機すら感じる視線の中、美少女の様な繊細な心を持つこの僕が(だから、そこ!突っ込まない!)どうして耐えられるでしょうか?いや、耐えられる訳がありません!

 だからといって駄々こねて泣くのは、僕のプライドが許しません!もう、僕の退路が一つしかないのです…。故に、仕方なく(こちらも多少なりともプライドに傷がつきますが)僕はその台詞を読むしかないのです……。


 「ああああ愛していますよ、ハニー、あ~ん」


 どもりまくった僕の様子を見て爆笑する野次馬。ああ、殺意ってこういうのを言うのですね。

 対して、葵はと言うと、流石に恥ずかしいのか、頬を染めて、先程より小さく口を開けます。


 「あ~ん」


 まるで雛鳥に餌を与える親鳥の心境です(これが分かる人間はいないでしょうが)。

 前を見ると、コック長が笑いを噛み殺しながら、新しい台詞を画用紙に書き、それを掲げてきます。……今度はそんな台詞を言わねばならないのですか。そして、彼女の分の台詞を見て再び驚く。いや、これはねーよ!

 彼女は野菜を飲み込むと、今度はハンバーグを箸でつかみ、僕の口元に持っていきます。


 「ダーリン、あ~ん」

 「あ~ん、モグモグ」

 「美味しい?」

 「ハニーが食べさせてくれれば何でも美味しいですよ」


 おお、何時の間にか、すらすらと言えるようになっている自分がいます。こうして男は軽い人間になっていくのでしょうか?

 しかし、問題は次の台詞。


 「公共の場だから口移しができない。御免」


 読者の皆様に聞きます。如何にバカップルと言えど、こんな事を平然と言う奴がいるでしょうか?いたら速攻で教えてください。そんな人がいたら、バカップルが公害であるという事を認めましょう。……何故でしょう?将来、僕は似たような事をやりそうな気がします。

 さて、ここで画用紙に書かれた指令によれば、僕は”続きは家に帰ってからしましょうね”と笑いながら彼女の頭を撫でなければならないようです。しかし、僕にそんな事が出来る訳――


 「続きは家に帰ってからしましょうね、ハニー」


 ボクゥゥゥゥゥウゥ!一体どうしたのですか!?身体が勝手に動いた!?怪奇現象!しかも、ハニーと追加している時点でノリノリである。

 これは、あれですか?場の雰囲気に酔ってしまったのでしょうか?つまりこのままいけば、場に流されて僕もチャラ男になってしまうのでしょうか?それだけは断じて阻止せねば!自分をしっかり保つのです、僕!

 彼女の頭を撫でながら、僕の頭の中はただ一つの事で埋め尽くされていました。

 それにしても、彼女の髪、ふわふわである。

 ホッペの感触などでも思ったのですが……、女の子の髪や肌って明らかに男のそれとは違う材質でできていると思うのですよ。

 僕が撫でている間、まるで本物の猫のように、彼女は眼を細め気持よさそうな顔をします。なんでしょう、何か、男心をくすぐるような、この感情は!?

 

 

 

 

 以上の事を幾度となく繰り返し、長針が一回りしたくらいで、ようやく全ての料理を食べきりました。正直精神的疲労が凄い事に。

 こうして、商品券を手に入れた僕達は、第一の課題で手に入れた食事券で代金を払い、いよいよ最後のミッションを言い渡されます。取り合えず、さっさと終わらせて、映画館に行きたい。


 「まさーか、第三ミッションに辿りつく人がいたーとは。大抵挫折するのーに」


 コック長の台詞に、野次馬がうんうんと頷く。まあ、それはそうでしょうよ。正直今も死にたい気持ちでいっぱいですし。


 「それで最後の課題はなんですか?」


 どうせくだらないんでしょうがね。


 「最後のミッションはとってもカンターン。そこの公園の中心で、二人の名前をお互いに何度か叫びあってもらうだけですから」


 何処が簡単だ、このヤロ。

 

後から読むと凄く恥ずかしいというこの罠

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