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5月10日 雨 吹田はそんなにモテたくない

5月に入ってから雨が多くなってきた。

吹田は変わらず図書館で勉強を続けている、


5月の模試はまあまあと言ったところだった。

前から考えていた志望校を判定用紙に書き、試験を受ける。今までも何度かやった事のある作業だ。


それでも今回は、自分でも驚きだったが、志望校について書くのを少し躊躇した。

今まで志望の大学に行けば将来も幸せになれると信じていた。だから勉強してきたし、こうして1年の時間を作った(正確にはこの1年は望んでいないのだが…)のである。


でも、西園寺と弥生のやり取りを見ているからだろうか。

大学に行ってから自分がどうするかを考えているのか?大学は私を変えてくれるのだろうか?本当にやりたいことは無いのか?

そんな疑問が沸沸と湧いてくるのだ。

それでも、今回は志望校は変えなかった。


簡単に吹田は変われないのだ。


ーーーーーーーーーーーーー


西園寺と弥生は雨の日もやってくる。

西園寺は白地に青い水玉の入った派手な傘で、弥生はビニール傘を、雨粒がつかぬように透明な傘用のレインコートに入れ、カサカサと音を立てながら吹田の近くに腰を下ろした。

よく見るとカバンに雨のまだら模様をつけており、その数から、家を出た時よりも思ったよりも雨が強いことを吹田は感じ取った。


「雨というのは本当に嫌なものだ」弥生が恐らく外の天気と同じくらい期限の悪そうな顔で呟く。

「降るだけならまだしも、時折急に強くなるじゃないか。自分が外に出た瞬間に雨が酷くなったら、過去の所業が悪かったと懺悔を強要されているようで。」

「多分過去を振り返るのは弥生だけだと思うぞ。」西園寺はふっと笑いながら窘める。

「それとも弥生は過去に深く懺悔するようなことが沢山あるのかな?」


「まさか。」弥生は首を振る「ただ、人は誰しも迷って、実行しなかった方の未来を捨てきれないものじゃないか。」

「ふふ、弥生らしい答えだ。」

吹田も内心クスリとしてしまった。どうやら弥生は昼食を決めるのにも、壮大な未来を見据えてしまうようだ。


西園寺は続ける「私は雨が好きだな。とても気に入っている傘を見せびらかして歩けるから。」

それはやはりお気に入りなのか。吹田は派手な傘をちらりと見ながら、西園寺の服装にも素早く目を配らせた。

吹田が言うのもなんだが、西園寺の服装は毎回かなり地味だ。大抵黒か紺かグレーで彩色はそこまで無い。ただ、吹田が見た中で、全身同一色のような服装はなかった。まぁ、男子大学生ならこんなもんだろう。知らないけれど。


「それにしても普段の服からは想像できないほど鮮やかな傘だな。」吹田の心の声に気がついたかのように弥生が口に出す。

「花と一緒さ。」西園寺は軽やかに答えた。

「花を咲かせるまでは緑でいいのさ、時が来たら輝けばいい。」

「西園寺の言う、その時って言うのはいつなんだ?」弥生の表情はいつも通りに戻っている。


「うーん、そうだなぁ…」西園寺は雨を落とす曇天の雲を見つめて一瞬考えた。

「デートの時…とかか?」


それなら一生私は他緑のままだな。

吹田はノートに目線を落とす。


そうだ、自分から誰よりも高く伸びるツタになろう。

吹田の夢がひとつ出来たみたいだ。


ーーーーーーーーーーー

5月10日 雨

本日の勉強項目


現代文長文読解

英語長文読解

英単語

英熟語


計7時間


今日は何故か勉強に集中できたと思う。

なぜかは一向に分からないが…



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