8月2日晴れ 吹田は望まない
吹田は普通の子供だった。
小学生の頃、どうやって仲良くなったかは覚えていないが、吹田の周りには友人がいた。
高学年になると、子供の感覚ながら、吹田はカースト上位の人間では無いと悟り、彼らとはちょうど良い距離を保つようにしていた。
休み時間になればクラスメートと遊んだり、友人と図書室に行って本を読んだりしていた。
吹田のお気に入りはハッピーエンドの物語だった。
その物語はどれも仲間と共に悪や問題に立ち向かい、最後には勝利するものだった。
そのような物語を読み続けていた結果、吹田にとって友情は絶えないものであり、消えないものであると信じていた。
卒業が近くなると、友人の数名は受験や学区により違う中学校に通うことが決まった。吹田を含めた友人はバラバラになっても必ずまた会うことを約束し、友情を誓い合った。
中学に入ると、吹田は周りに知らない人間ばかりいることに混乱したが、小学校の頃の友人はいたので、それなりに生活は楽しかった。
それでも春がすぎ、夏に入る頃には、小学校の友人に中学校からの新たな友人ができていた。吹田と遊んだり、一緒に帰ってくれる頻度はぐっと減り、吹田は一人でいることが多くなった。
吹田はより図書館に入り浸り、物語を読み漁った。
変わらないハッピーエンドを求めて。
夏休みがすぐ近くに迫った頃、吹田は小学校の友人と夏休みに遊ぶ計画を考え、予定を聞いて回った。
だが、友人たちが全員合致する日は全くない。
部活や帰省が主な理由で、仲間たちは口々に、残念だ、予定が合えば必ず会おうと口に漏らした。
吹田は友人たちとの友情が変わらずにあることに安心し、1人の夏休みを迎えた。
8月2日、その日は夏らしい猛暑だった。
吹田は気になっていた書籍の新刊を買いに出かけた。
近所の本屋には残念ながら在庫がなかったため、隣の隣町まで足を伸ばし新刊をゲット。ホクホクとした気持ちで帰りの駅へ向かっていた。
そして、吹田は見つけてしまった。
別の中学校に行った2人の友人が、恐らく中学校の友人とゲームセンターで遊んでいるところを。
あの2人はこの日は帰省と聞いていたので、一緒にいるはずがなかった。彼らは嘘をついたのだ。
その瞬間に、吹田は気付いた。いや、気付いていたのに、現実を見ようとしていなかっただけなのかもしれない。
確かに吹田達の友情は小学校の卒業でハッピーエンドを迎えた。しかし本の物語とは違い、現実はそこからも続いていくのだ。
友情も永遠ではない。環境が変われば仲の良い友人も変わり、吹田は旧友になる。
もしかしたら友情というのは、遠くに離れた時に初めて生まれるものなのかもしれない。
そんな不確かなものに期待するのはやめよう。
その日から吹田は小学校の人々に連絡するのを辞めた。そして、彼らから二度と吹田へ連絡が来ることもなかった。
吹田は何も望まなくなった。