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加護の力 -3-

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「はぁー疲れた……」


 仕事を終え食堂で夕食を済ませたステラは、自室に入るなりベッドに倒れ込んだ。このまま眠ってしまいたいが、そういう訳にはいかない。


 これからどうするべきかを考えなければならないからだ。


 仰向けになり天井を見つめていると、今日の出来事が走馬灯のように思い出される。


 星紋のある胸の下に手を当て、「あなたは月の乙女だと名乗り出ますか。Yes? or No?」と自問自答してみるが、何度繰り返しても答えは1つだ。


「……やっぱり、無理だよね。どう考えても私じゃない」


 養父のサイラスは伯爵家の出身ではあるが爵位を譲って今は無爵だし、そもそもステラは養女なので伯爵家の血さえ入っていない。


 今はただのステラ・セレスタインとして生きてはいるが、この道に進む上ではサイラスの後ろ盾が大きかったお陰で、これまで身分の苦労を感じたことはほとんどなかった。


 王立天文学園は完全実力主義で学園内に身分の序列はなかったし、『人を蹴落とそうとするのは研究者にあるまじき卑劣な行為である』という校風から、いじめなどの悪質な行為は退学処分の対象でもあったため、嫌味や陰口を言われることはあっても実害はなかった。


 だからこそセレスタイン姓を名乗ることに躊躇いはなかったし、養女であれ戸籍上では “サイラス・コーネル” の娘であるステラの身元に疑いの余地はないため、こうして王立天文台でも働くことができている。


 もしも別の道を選んでいたらそうはいかなかっただろう。養父に感謝である。


(まぁ、問題は身分だけでもないんだけど……)


 物心ついた時からサイラスのような占星術師になりたい、星の研究がしたいと思っていたステラは漸く念願叶ってスタートラインに立ったばかり。


 国家資格を取得すれば占星術師を名乗ることは可能だが、何の実績もない内では需要もないため、研究者として国に貢献をしてから占星術師を名乗るのが一般的であり、それは時に長い道のりだ。


 だがステラにはそのための時間がある。


 貴族階級の出身である研究者たちとは異なり、家に縛られることもなければ行動を制限されることもない気楽な立場で、これからは一生、自由に、好きなだけ星の研究ができるという幸せを感じていたのだ。それなのに――――


(そんな私が王太子妃に……? なれる訳ない。何のために今まで努力して来たと思ってるの)


 誰も納得しない、誰からも祝福されない未来が見えているし、ステラ自身も望んでいない。


 太陽の王だか月の乙女だか知らないが、そんな “しきたり” に従うことに何の意味があるのだろうか。歴代の月の乙女たちは、何の抵抗もなかったのだろうか。


「……もし、月の乙女と結ばれなかったら、太陽の王はどうなるんだろう」



 ――そんな例は聞いたことがない。



 ステラ自身の事情ばかり考えていたが、太陽の王である王太子の事情は全く考えていなかった。


 太陽の王と月の乙女のことは物語や歴史として国民に浸透しているが、具体的なことは何も知らないことに気付く。


 前の太陽の王と月の乙女のことも、その前、その前の前、その更に前のことも、名前すら知らないのだ。何せ彼らの誕生は約250年ごとである。


 (語り継ぐ人がいなかったから? それとも口外できない理由があった?)


 きっと当事者にならなければ、一度も気にすることはなかっただろう。


(まずは私自身が知らなくちゃ……! 月の乙女になるつもりはないけど、そのせいで殿下に迷惑をかけることにはなるんだし……)


 方針が決まったところでステラはベッドから起き上がり、机の抽斗からノートを取り出すと羽ペンにインクを付けて、明日以降にやるべきことを1つ1つ書き出していく。


 調べものなら王立図書館だが、占星塔の書庫に記録が残っている可能性もある。


 詳しい人がいるのであれば話を聞きたいところだが、月の乙女の研究家など存在するのだろうか――存在したらしたで気持ち悪い気もする。


 詳しそうなのは五家のルイスやルシアンだが、彼らに尋ねるのは流石に負い目を感じるし、逆に疑われて墓穴を掘る自信しかない。


 やはり先ずは自力で調べるのが得策だろう。


「明日の昼休憩に書庫を覗いてみて、次の休暇に王立図書館に行こうかな……あっ!? お義父様なら、何かご存じかも!」


 王立天文学園の非常勤講師を務めていたサイラスだが、ステラが無事に卒業して安心したのか講師を辞め、自身の研究のために旅に出ることが多くなった。


 聞けばステラを引き取る前は、それが日常茶飯事だったのだという。


 博識なのも頷ける。


 直接顔を合わせる機会は少なくなったが手紙のやり取りは頻繁にしており、3日前にも隣国のユピテル王国から手紙が届いたばかりだ。


「暫くは今の宿にいるって書いてあったし、すぐに手紙を出せば届くよね? ……聞くだけ聞いてみよう!」


 善は急げである。


 幸いなことに、王立天文台は国内に点在している領立天文台との文書による情報交換が多いため、2日に一度は郵便馬車が来る。


 料金を払えば個人の郵便も受け付けてくれるため休暇の度に街の郵便局まで足を運ぶ必要がなく、ステラもサイラスに手紙を出す時にはよく利用している。


 郵便に関しては事務職員が対応しているため、何時に訪れるか分からない馬車を気にしながら仕事をしなくて済むので非常にありがたい。


(明日、朝一で職員さんにお願いしようっと……)


 便箋代を節約するために頭の中で書く内容を簡潔にまとめた後、ステラはペンを走らせた。



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