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加護の力 -2-

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 暫く作業を続けているとルシアンが研究者に呼ばれて一時退室したので、ステラは手に持っていたペンを置いて指を組むとぐーっと頭上へ腕を伸ばした。


(ふぅ~。……朝ごはんをしっかり食べ損ねたからかな? いつもより集中力が続かないなぁ……)


 元々高い集中力を持つステラは、普段であれば休憩などを挟まなくても任された作業を終えられるのだが、今日はなぜだか集中力が切れやすい。


(ルイス様から月の乙女の話を聞いたばかりだから……?)


 気が散ってしまうのはそのせいだろうか――だが、仕事に私情を持ち込むべきではない。


 新人のステラに直接仕事を任せてくれているルシアンの顔に泥を塗るような仕事をする訳にはいかないのだ。


 すーはーと何度か深呼吸をして心を落ち着かせると、清書済みの用紙を手に取り誤字がないか、インクで滲んで読めない文字がないかをチェックしていく。


(えーっと……今回の議題は『マンデン占星学における気象の警報について』かぁ)


 マンデン占星学とは国家や領地の行方を予測するものでいくつか種類があるのだが、今回は天災に関しての予測だ。


 天災と一言で言っても地震などの地象、津波などの海象、台風や豪雨・豪雪などの気象の3つに分類されており、戦争とは無縁だが自然災害の多いこの国ではとても重要な研究分野である。


 避けられない災害による被害をいかに最小限で抑えるか。


 特に災害による農作物の被害は経済への打撃や、物価の上昇による国民生活への影響も大きいため、正確な予測を立てることは国を支える王立天文台の腕の見せ所でもある。


 こうした研究には前提として、国の建国図や国王・王子の出生図を使用する必要があるため、占星塔のセキュリティは天文塔よりも厳重で人の出入りも厳しく管理されている。


 ちなみに議事録のタイトルにある警報とは、星同士が凶角であったり不吉な配置にある場合に使用される言葉で、昔から星を読む占星術師たちはこれを星からの警報という言い方をしている。


 日々の観測や研究を基に研究者たちの会議で作成された議事録は、教授であるルシアンが実際に計算・作成したチャートを見ながら確認をし、何かしら事前に対応が必要であると見受けられた場合は彼の父親である台長に報告、そして最終的に台長が国へ報告するか否かを決定するという流れになっている。


 ステラのような新人ではまだ会議に参加するどころか実際にチャートを作成したり見せてもらうことも出来ないため、こうして議事録を見れるだけでも貴重だ。


 このチャート作成に必要不可欠な天文測量をし、データを占星塔へ提供するのが天文塔の仕事の1つではあるが、そもそも天文学は科学、占星学は非科学のため基本的に研究分野に共通性はない。


(……あっ! 議事録の最後に手書きのチャートがある……!?)


 内容が気になりまだ清書をしていない分を読み進めていると、最後のページに誰かが手書きで作成したチャートが書かれていた。


 学園ではチャートの作成方法を教わるためステラも書くことはできるが、天文台に来てからは一度も作成する機会がなかったため見るのも読むのも久しぶりだ。


 少しワクワクしながらチャートを見ていたステラだったが、ふと違和感を感じて目を擦る。


(――!? あれ、私の目……おかしい?)


 チャートに散らばる星が、なぜか地図のように見える。


 正確に言うとチャートを地図の上に重ねて、下にある地図が透けて見えているような感じだ。


 念の為に紙を裏返してみるが当然ながらそこには何も書かれておらず、再び表に返して暫く凝視していると目が慣れたのか、先ほどまでぼやけていた文字が今度は鮮明に見えた。


(……マクライド伯爵領?)


 赤で印が付けられた火星の下に “マクライド伯爵領” の文字がはっきりと読み取れる。


 非現実的すぎる状況に思考が一瞬停止するが、ふと頭に浮かんだのはルイスによる瞬間移動の体験だった。


 あんな不思議な体験をすることは二度とないと思っていたのに――もしかしたらこれが月の乙女の加護の力なのだろうか。


 どんな能力でどんな意味があるのかは分からないが、凶星である火星が上に重なって見えているのはただの偶然ではない気がする。


「マクライド伯爵領に何かあるのかなぁ……」

「――マクライド伯爵領が何か?」

「……っ!?」


 無意識の内に考えていたことが口から出てしまっていたらしく、ルシアンが扉を開けて入室してきたタイミングと運悪く重なってしまったようだ。


 訝しげにステラのデスクまで歩いてきたルシアンは、ステラが手にしていたチャートを覗き込んでくる。


「あぁ……マンデンのチャートですか。マンデンは国のチャートで特定の地域を示すものではありませんが、何か気になることでも?」

「……い、いいえ! ただ……マクライド伯爵領に、行ってみたいなぁ~と思いまして……」

「……随分と唐突ですね」

「はい。私は唐突な人間なのです」

「……そうですか」


(うぅ……そんな目で見ないでください……)


 もっと上手い誤魔化し方が思い付ければ良かったのだが、こんなに至近距離で見つめられたら無理である。


 疑わしげなルシアンの視線に耐えられず、ステラは両手をパンッと叩き「私のことはどうでも良いので、仕事をしましょう!」と言って作業の続きに取り掛かることにした。


 わざとらしく「どこからだっけ……」とページを探している間に、ルシアンも追求するのを諦めたのか自席で作業を再開させたので、ステラも雑念を払って再び意識をペン先に集中させる。


 ――気にはなるが、マクライド伯爵領までは辻馬車を拾っても3日はかかる。


 そんなに休暇は取れないし、行ったところでどうすれば良いのかも分からない。


 結局のところ加護の力というのが何なのかが判明しない限り、ステラには何もできないのだ。


(何の役に立つかも分からない加護の力は要らないから、月の乙女を辞退させて欲しい……)


 ステラは向き合わなければならない現実を思い出し、心の中で深く溜め息を吐いた。



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