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加護の力 -1-

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「し、失礼いたします……」

「――セレスタイン嬢、2分の遅刻ですよ」

「……も、申し訳ございません。ルシアン様……」


 食堂から全力疾走で占星塔内にある教授室へと向かったステラが呼吸を整えてからノックをして扉を開けると、すぐ傍で待ち構えていたルシアンが手にしていた懐中時計をパチンっと閉じた後、遅刻時間を告げてきた。


 今日の仕事が時間に厳しいことで有名なルシアンの助手とは、全くついていない。


 尊敬する上司に『時間を守れないろくでなし』だと思われたらどうしよう……そんなことになってしまったら、とてもじゃないが生きていける気がしない。


 ちなみにステラを含めた職員がルシアンを家名ではなく名前で呼んでいるが、それは単に彼の父親の台長と区別するためだ。


「……まぁ、あなたの遅刻は初めてですからね。今日は不門としましょう」

「!? あ、ありがとうございます!」


 以前ルシアンが15分遅刻してきた職員に対して、面と向かって『ルールを守れない人間は存在するに値しない』と口にしていたのを偶然聞いてしまったステラは当然のように怒られることを覚悟していたので、ルシアンのこの言葉には驚いた。


 もしかすると今日は機嫌がいいのかもしれないと思い、目を凝らしてルシアンの表情を観察してみる。


「何ですか?」とでも言いたげな様子でステラを見返してくるルシアンは長身で、黒い前髪から覗くラピスラズリのような涼しげな瞳に見つめられると心の奥を見透かされているような気がすると職員の誰かが言っていたが、ステラからすると真っ直ぐで曇りのないその瞳は寧ろ安心すると感じていた――――昨日までは。


 一夜にして人生で最大の秘密を抱えてしまったステラには、守護者の1人でもあるルシアンに凝視されることに耐えられそうにないため、今後はなるべく近距離で視線を合わせないようにしようと心に決める。


「――さて、本日の作業ですがこちらにある議事録の清書をお願いします」

「? ……議事録の清書ですか?」

「えぇ。字が汚くて読めないのです。これは議事録ではなく、落書きと呼ぶ方が正しいでしょう」

(…………)


 確かにお世辞にも綺麗と言えるような字ではないが、流石に言い過ぎではないだろうか……。こんな風に何の迷いもなく言い切られてしまったら、ステラなら泣いてしまうかもしれない。


「こちらの作業は午前中までにお願いしますね。午後からは別の仕事がありますので」

「承知いたしました」

「いつも通り、そちらのデスクを使用してください」

「はい。お借りいたします」


 ルシアンから議事録と用紙を受け取ったステラは、ルシアンのデスクから少し離れた場所にある小ぶりなデスクに向かい、椅子を引いて腰掛ける。


 椅子の高さは以前ルシアンがステラに合わせて調整してくれたのでピッタリだ。


 ステラは慣れた手付きで机に誂えられた羽ペンにインクを付けると、議事録から読み取った文字を丁寧に紙に書き写して行く。


 ステラが不自由なく作業を始めるのを見届けたルシアンも、自身のデスク上に積み重ねられた書類に順番に目を通し始めた。


 いつものことながら、ステラがペンで文字を書く音とルシアンが書類をめくる音しか聞こえない室内は、占星塔内で最も静かな場所だとステラは思う。


 初めは緊張感しか感じなかったこの静けさに心地よさを覚えるようになったのは、上司が実は気遣いの人であることに気付いたからかもしれない。



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