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五家の守護者 -2-

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 あの時は本当に驚いたなぁと回想をしていたステラは、テーブルの向かい側で疲れた表情をしているルイスの「はぁ……」という溜め息で現実に引き戻された。


 よくよく見るとルイスの目の下には、うっすらと隈のような影ができている。元先輩であり同僚のステラとしては心配だ。


「ここ最近はお姿を見かけませんでしたけど……忙しかったのですか?」

「そうなんですよー! 最近忙しくて、ゆっくり朝食を食べるのも久しぶりで……。本当にルシアン兄さんは人使いが荒くて困ります」

「えっ? ルシアン様がですか……? そんな印象はありませんでしたけど……」


 五家の1つであるサティスト家は代々王家より王立天文台の運営管理を任されており、土星の加護を受けている守護者のルシアンは27歳にして占星塔の教授であり、ステラの直属の上司だ。


 初めて顔を合わせたのが面接試験の時であったため当時は厳しそうな印象を持ってはいたが、学園時代に生徒会で2年間書記を務めていたステラの字の綺麗さを見込まれて、今ではルシアンから直々に記録付けや代筆を頼まれることもある。


 口数が多い方ではないが一才の無駄がない仕事ぶりと、的確な指示、ステラを含めた新人3人のことも気にかけてくれて、時にはフォローもしてくれる。


 そんなルシアンはステラにとって理想の上司であり、尊敬している人物でもあった。


「僕たち守護者は子供の頃からの付き合いですからね。遠慮がないんですよ」

「私に何かお手伝い出来ることがあれば、お力になりたいのですけれど……」


(守護者に関係する仕事であれば、私が立ち入れるはずないよね……)


 守護者棟には王家と五家の関係者、そして守護者しか立ち入りが許されていない。


 慣習的に五家の守護者は王立天文台への所属が義務付けられてはいるが、サティスト家の後継であるルシアンのように必ずしも研究者の道に進む必要はなく、各々が加護の力を活かせる職に就いている。


 今現在、守護者棟で生活を送っているのはルイスとルシアン、それから五家の紅一点である金星の加護を受けているカトリーナ・ヴィーアの3人のみであるが、日常的に占星塔でステラが顔を合わせるのはルシアンだけだ。


 月に一度、普段は天文台にいない守護者と王太子が守護者棟に集合するという噂はステラも耳にしたことがあるが、実際に目にしたことはない。


「お気持ちだけで嬉しいです。あ、でも……聞くだけ聞いてみようかなぁ……」

「はい。何でも聞いてください」

「ステラは――月の乙女に心当たりはありませんか?」


(!? なんてタイムリーな話題……!)


 ルイスの口から発せられた『月の乙女』の言葉に一瞬ドキッとしたステラは、その心の動揺をルイスに悟られないように必死に平静を装う。


「……そういえば昨日、街で月の乙女の噂を耳にしました。まだ、見付かっていないそうですね」

「そうなんですよ。王子と無条件で結婚ができるっていうのに、無視し続けるなんて信じられません」

(うっ……)

「おかげで僕はこの2ヶ月、月の乙女探しに奔走させられているわけで。……前代未聞ですよ! 向こうから名乗り出るのが当然だと思ってきた王家の人間にとって、こちらから探しに行かなきゃならない状況なんて予想だにしていませんでしたからね。見付け方なんて誰も知らないのに、探せとせっつかれる僕の身にもなって欲しいですよ」

「……た、大変そうですね……」


 ほとんど愚痴のようなルイスの話を、ステラは肩身を狭くして聞いていることしかできない。


 だが、ルイスの話はステラにとって大きな収穫だ。誰も見付け方を知らないということは、このまま黙っていれば気付かれないということではないだろうか。


 いつも以上に饒舌なルイスを見て、ステラは一番気になっていたことを尋ねてみることにした。今なら教えてくれるかもしれない。


「そういえば……月の乙女が現れたことがどうやって分かるのか、ルイス様はご存知ですか?」

「えっ? あ、うーん……詳しくは言えませんけど、殿下には分かるんです」


 殿下には分かる? ――何か秘密があるのだろうが、やはりその理由は口外できないらしい。


「……そうなんですね。ちなみに、このまま月の乙女が見付からなかったらどうなるんですか?」

「どうなるんでしょうね。国中の女性を集めて身体検査をすることになったりして」

「――!? そ、そんなまさか!!」


 冗談じゃない。


 万が一そんなことになったら、確実にバレてしまう。


「あははっ。流石にそれは冗談ですけど、今月からリーナ姉さんも手伝ってくれることになっていますから、案外直ぐに見付かるかもしれませんよ」

「!? ……カトリーナ様が!?」


 五家の1つであるヴィーア家の守護者であり、金星の加護を受けているカトリーナは絶世の美女で、王立天文学園時代のステラの1学年先輩だ。


 学園中の女性たちにとってその美貌は憧れであり、当然ステラも例外ではない。


 未来の研究者を育成するという堅苦しい学園にも関わらず、女性で唯一ファンクラブがあり、男性たちにとっては正に学園の女神ヴィーナスだった。


 そんなカトリーナの卒業に涙した生徒がどれだけいたことか。ちなみに、男性で唯一ファンクラブがあったのは、言わずもがな王太子のアルバートだ。


 学園時代のステラはカトリーナと直接話をしたことはなかったが、占星塔で初めて顔を合わせた時には『女の子同士、仲良くしましょうね』と優しく声をかけてくれて心の中で泣いたものだ。


「そもそも星紋は服を着ていたら分かりませんし、女性の方が見つけやすいだろうという話になりまして。ヴィーア家はサロンを経営していますし、女性が集まる場所の方が情報も得られやすいでしょうから」

「……確かに、そう……かもしれませんね?」


(私には縁のない場所だし、一先ず安心、かな……?)


「――そろそろ始業時間ですけど、行かなくて大丈夫ですか?」

「えっ!? まだご飯食べてないのにーーーー!」


 ニコニコしながら食堂の時計を指差したルイスの指先を視線で追うと、なんと始業5分前である。話に夢中になって食事をするのを忘れていたらしい。


 1つのことに集中してしまうのは研究者の悪い癖だ。


 気付けば食堂にはステラとルイスしかおらず、既に料理人たちが後片付けを始めていた。


 何も食べずに午前を乗り切るか、少しでもエネルギーを補給しておくか一瞬悩んだが、すっかり冷めてしまったスープと乾いたパンを無視して、サラダをフォークで急いで胃の中に入れていく。


 サラダだけでは空腹は満たされないが、何も食べないよりはマシである。


「ご愁傷さまでーす」

「……ルイス様、私で遊んでいませんか?」

「そんなまさか! 癒されているが正解ですよ」

「……なら、いいです」

「ふふっ。それじゃあ、僕はお先に。遅刻したらルシアン兄さんに叱られますよ~」


 愉しげにひらひらと手を振りながら去っていくルイスの後ろ姿を少し憎らしげな気持ちで見送った後、ステラはトレーを返却口まで持って行くと「ご馳走様でした! 全部食べられなくてごめんなさい!!」とすっかり顔馴染みになった料理人たちに挨拶をして駆け足で占星塔へと向かった。



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