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月の乙女 -2-

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(――2ヶ月前……本物はまだ名乗り出ていない? ……そんなまさか、ね)


 自身との共通点が重なり、嫌な予感が頭から離れない。


 この国の女性なら一度は月の乙女を夢見たことがあるのだろうが、ステラは特殊な生い立ちであるが故に、月の乙女に選ばれることなどこれまで想像すらしたことがなかったのだ。


 ステラはコーネル伯爵家の長男として産まれ育ったにも関わらず、家督を弟に譲って占星術師になった変わり者のサイラス・コーネルの養女として育った。


 爵位の代わりにサイラスが譲り受けた別邸で不自由なく12歳まで過ごした後、13歳で王立天文学園へ入寮し、学園を卒業した今年から王立天文台の寮棟で生活をしている。


(――家を出てからは身の回りのことは自分で賄ってきたから、身体を人目に晒す機会もなかったし……勉強で忙しくて自分の身体のことなんて気にしたこともなかった……)


 言葉を覚える頃にはサイラスの影響で占星学に興味を持ち始めていたステラは、ごく自然に自身もサイラスのような占星術師になりたいと思うようなる。


 するとサイラスが非常勤講師を勤めている王立天文学園のこと、かつて所属をしていた王立天文台での話を聞かせてくれた。


『素質があれば身分は問わない王立天文学園に入学が出来れば、狭き門ではあるけれど努力次第で王立天文台に所属する道が開かれる。そうすれば市井の出身でも、女性でも、身を立てることができるんだよ』と。


 そしてステラが本気でその道を志すのであれば、サイラスは全面的に協力をするつもりだという。



 ――――ステラに迷いはなかった。



 他のことには目もくれず何年間も必死に勉強し、サイラスの英才教育の甲斐もあって見事、難関の王立天文学園の入学試験に合格した。


 学園の入学前にサイラスからステラの産みの母の姓がセレスタインだと打ち明けられ、コーネル姓を名乗るかセレスタイン姓を名乗るかはステラの選択に任せると言われたので、その頃からずっと表向きはセレスタイン姓を名乗っている。


 これからサイラスと同じ道を歩もうとしているステラには、名の知れた占星術師であり学園の非常勤講師でもあるサイラスと同じ姓を名乗ることには抵抗があったし、学園の生徒たちから自身の努力をすべて親の七光で片付けられてしまうことも嫌だった。


(……血の繋がりはないから、正確には育ての親の七光だけどね)


 だが何より、自立をしなくてはならないと感じていた。いつまでもサイラスの庇護下にいる訳にはいかない。いつかサイラスと肩を並べるためにも――――


 そうして努力を続けてきたステラは、学園を学年3位の好成績で卒業した今年から憧れの王立天文台の占星塔で新人として働き始め、子供の頃に思い描いた夢を1つ叶えたのだ。


 例え両親がいなくても、自身がどこの誰だか分からなくても、サイラスという家族がいて、大好きな星の研究ができればそれだけでステラは幸せだった。


 それなのに――――



 ★★★



「――やばい! もうこんな時間!!」


 この先どうするかを考えていたら、いつの間にか机の上で眠ってしまっていたようだ。急いで洗顔を済ませて制服に着替えていく。


 先ずはブラウスに袖を通し、上から黒のワンピースを重ねる。


 次に赤のタイと白のニーハイソックスを身につけ、黒のショートブーツを履いたら、最後に赤いローブを羽織って着替えは完了。


 王立天文台内は占星塔と天文塔に分かれているため、職員の制服はタイとローブの色分けがされており、占星塔の職員は赤、天文塔の職員は青と定められている。


 3分で着替えを済ませたステラは鏡の前でミルクティーベージュの長い髪をリボンで1つに束ね、戸締りの確認をしてから1階にある食堂へと向かった。


 ――ステラが働く王立天文台は、アストロイド王国で最も有名で権威ある研究機関だ。


 アストロイド王国は昔から占星学と天文学の研究が盛んな国として知られており、王立天文台を通る子午線が世界の標準子午線と定められていたり、王立天文台での測量データを天文暦として販売した書籍は世界中の研究者にとって必需品とも言われている。


 天文台内は4つの建物で構成されており、占星学を研究する占星塔、天文学を研究する天文塔、その間には守護者棟と呼ばれる五家専用の建物があり、守護者棟の裏にステラが生活をしている寮棟兼食堂がある。


 王立天文台で働くためにはまず5年制の王立天文学園に入学する必要があり、占星学科と天文学科に分かれて専門知識や歴史、語学などを5年間かけて学ぶ。


 更に国家資格を取得した上で、卒業試験の成績上位5名しか推薦枠を得られないという高いハードルをクリアしなければならない。


 そのため王立天文台で働く研究者たちはエリート集団としてこの国では認知されており、王立天文台の職員の証である赤と青のローブは世界中の研究者たちの羨望の的でもあった。


 そんな憧れの対象である赤いローブを身に纏ったステラは、すれ違う職員たちと朝の挨拶を交わしながら食堂に入った。



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