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月の乙女 -1-

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 ――アストロイド王国。


 神に愛された国と称されるこの王国では約250年に一度、《太陽の王》と呼ばれる王子が誕生する。


 太陽の神の加護を受けて生まれてきた王子は、王国に繁栄を齎し泰平へと導く存在だと言われている。


 時を同じくして誕生する太陽の王を支える守護者は五家と呼ばれ、それぞれが水星・金星・火星・木星・土星の神々の加護を受けており、魔法の存在しないこの世界で唯一特別な能力を持つ太陽の王と守護者は、その証として身体に星紋と呼ばれる印があるという。


 そしてもう1人、この王国には欠かせない人物がいる。


 月の女神の加護を受けた《月の乙女》だ。


 太陽の王は月の乙女と結ばれることで月の女神の加護を得ることが可能になり、次の太陽の王の誕生までその加護の力は継続されると言われているが、具体的なことは秘されており国民には知られていない。


 月の乙女は18歳になると、身体のどこかに星紋が浮かび上がってきて、彼らと同じように特別な能力が目覚めると言われている。


 国中の女性たちが自身の身体に星紋が浮かび上がるのを心待ちにし、何事もなく過ぎ去る誕生日に失望の涙を流してきた。


 中には自身が月の乙女に選ばれることを信じて婚約話を全て断り、行き遅れてしまった女性も少なくないという。


 数多の女性たちの中から見事、栄誉を勝ち取った幸運な歴代の月の乙女たちは、直ちに名乗り出て太陽の王と結ばれてきたのだが――――


 煌々と照る満月の光が差し込む部屋で、自身の身体に浮かび上がっている星紋を鏡越しに絶望の表情で見つめる女性がいた。


 運悪く(?)月の乙女に選ばれてしまった、ステラ・セレスタインである。



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「う、嘘でしょう……ありえない……」


 王立天文台にある寮棟の自室で、放心気味にステラは呟いた。


 何かの間違いだと思いたいが左胸の下には見覚えのない痣らしきものがあり、よく見ると七芒星の中に月のマークが描かれている。


 寝ぼけて描いてしまったのかと思って擦ってみるが、どれだけ擦っても肌が赤くなるだけだった。


「……ど、どうしよう……み、見なかったことには、ならない……よね……?」


 いっそ気付かないままでいたかった。そもそも、あんな噂話を耳にしなければ気付かずに済んだかもしれないのに――



 ★★★



 ステラの18歳の誕生日から2ヶ月が過ぎたこの日。


 休暇を利用して久々に街へ出かけたステラが購入したばかりの本をカフェで読んでいると、隣のテーブルの若い女性グループの会話が耳に入ってきた。


『――月の乙女が現れたんですって!』

『まぁ! それは本当ですの?』


(……へぇ~そうなんだ。どんな女性なんだろう……)


 この国では太陽の王と月の乙女の物語は絵本や小説として国民に親しまれており、歴史の授業でも必ず学ぶため知らない人はいない。


 加えて22年前に既に太陽の王である王太子が誕生しているため、いつ月の乙女が現れるのかは国民の最大の関心事だった。


『ええ。王家から貴族たちに通達があったそうよ。自分の娘であれば速やかに名乗り出るようにってね! お父様が言っていたもの。間違いないわ』

『私にもチャンスがあるかしら! 私の両親は何も言っていなかったけれど、それっていつ頃の話ですの?』

『……2ヶ月前だそうよ』


 それまできゃっきゃと興奮気味に話を聞いていた女性の表情は、“2ヶ月” という言葉を聞くなり一瞬で戸惑いの表情に変わった。


 話に聞き耳を立てながらも一旦本をテーブルの上に置き、ティーカップに入った紅茶を飲もうとしていたステラの手も、カップの縁が口元に触れようとした直前に聞こえたその言葉でぴたっと止まる。


『……2ヶ月も前なのに、誰も名乗り出た女性はおりませんの?』

『名乗り出た令嬢は沢山いたそうよ。月の乙女の星紋を偽装してね。そんなのギャンブルと同じだわ』

『星紋がどんな模様かも、身体のどこに現れるのかも非公開ですものね』


 ――――そう


 月の乙女に関する詳細は、王家の人間を除いて誰も知らない。


 国民が知っているのは、18歳の誕生日に星紋が身体に浮き出てくるということだけだ。月の乙女がどんな能力を持つのかも知られていないため、偽装は不可能だろう。


 何よりも、王家の人間がどのような方法で月の乙女の誕生を知るのか、国民にとっては疑問である。


『本物の月の乙女はまだ名乗り出ていないみたいよ』

『……そんな奇特な女性がこの世に存在するのかしら?』

『本当よね。信じられないわ』


 彼女たちの会話が流行のドレスの話題に移ったタイミングでステラは席を立ち、勘定を済ませて店の外へ出る。


 寮棟の自室に戻るまで、ステラの頭の中は先ほど聞いた話で埋め尽くされていた。



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