表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フレイミングフレイベル  作者: 風上 環
第4話 ヒマだった天使様 学校へ行こう!
57/59

13 VSフラワーパラズマ?

 ぼんっ、という空気が抜ける音が連続し、フラワーパラズマの両手から球根がそれぞれ発射された。

 着弾地点から茎を伸ばしターゲットを拘束する二つの砲弾はフレイベルによって容易く切り捨てられる。


 横の一振り。それだけで同時に真っ二つに切断された球根は一瞬遅れて燃え上がり、地面に落下することなく空中で灰も残さず焼け落ちた。


 ここまでは前振りに過ぎない。


「おおッ」

 短い雄叫びを上げながら、フラワーパラズマが真紅の天使に殴り掛かる。煉瓦に覆われた右の拳がフレイベルの眼前に迫った。だが魔物の力で常人のそれを遥かに超えた一撃を、彼女は剣を持っていない左手一本でがっしりと受け止めた。

 なッ……、とフラワーパラズマが狼狽えたのも束の間、フレイベルは左手で抑え込んだままの魔人の片腕に右の剣で斬撃を食らわせる。


 フラワーパラズマの右の前腕から青白い閃光が迸った。弾かれたような挙動でほとんど本能的に引っ込めてしまった右腕の代わりに、今度は左腕で眼前の天使を狙う。大ぶりのスイング。大きな弧を描きながら彼女のこめかみを狙った横殴りの打撃を、しかしフレイベルは後方に半歩下がるのみで冷静に躱した。


 煉瓦の拳がフレイベルの兜の一寸先を通り抜けて「ブンッ」と空を裂いた。


 フラワーパラズマの拳が連続する。しかし当たらない。高速で繰り出される打撃はすべて虚しく空気を掠めるのみであった。横に、後ろに、小さなステップを踏んで回避を繰り返しながら、鎧を纏った真紅の天使は隙を突いてカウンターを挟む。


 戦いは一方的だった。


 そんな光景を目の当たりにしている子供たちの反応は無邪気なもので、教官のマッツが彼らが戦いに巻き込まれないようにとせっかく広げた両腕からはみ出さんばかりの勢いで身を乗り出しては「いけー!」「そこだ!」などと黄色い声援を送っている。


 その活躍の前では天使の性別が男か女かなどという議論は意味を成さない。男の子も女の子もフレイベルの戦いにしっかり魅入っていた。

 一人を除いて。


「ふん、おれはそう簡単に靡いたりしないからな」

「すげぇ、かっこいいじゃん……!」

「おいっ!!」

 意地でも認めようとはしないゴウの隣で、リーダー男子のダンが見惚れてしまっていた。


(凄いな……)

 そして彼女の戦いに魅入ってしまったのは子供たちだけではない。

(これが本物の天使の力か)

 天使の力を解放したフレイベルの姿を初めて目撃したモーリスは、その余りの強さにただ見ていることしかできなかった。このまま彼女一人でパラズマを倒してしまうんじゃないか、と思えるほどに。


 モーリスの主な役割は盾で敵の攻撃を防ぎ味方を守ることだ。しかし肝心の味方がそれを必要としないくらい前に出てしまうとこちらはかえって何も出来なくなってしまう。


 出る幕がない。

 引っ張る足すらなかった。


「どうしよ、全然やることないや」

 そうポツリと呟いたのはモーリスではなくトトゥーナである。フレイベルのチームメイトであろう彼女は口では困った風なことを言いつつも手にしたバトンを首の後ろに回して楽そうにしている。やることがないのは同感だがサボれてラッキーとは思わない。


 ドゴッ、という鈍い音。

 真紅の天使が放った鋼鉄の蹴りがフラワーパラズマに直撃したのだ。拳を躱して相手の側面に飛び込んでの素早い回し蹴りが炸裂し、魔人の巨体が石畳の地面に転がる。

 フレイベルが剣に刺さった鍵に手を伸ばし何やら更なる追撃を仕掛けようとしたところで異なる影が動いた。


「君にばっかり良い格好はさせられないな」

 リュードである。フレイベルの前に躍り出た彼は腰のベルトに提げていた、内側に持ち手の付いたリング状のアイテムを手に取るとそれを頭上に放り投げた。すると彼の持つ四本の短剣が空中を泳ぎ一瞬でリングの四方に開いた穴にガチャガチャと音を立ててそれぞれ装填され、一つの大きな手裏剣を形作って少年の手元に落ちて戻った。


 それを、投げる。

 腰を落として大きく振りかぶった。十字の手裏剣がリュードの手を離れ、ライムグリーンに発光する回転する四つの尾を引きながらフラワーパラズマ目掛けて飛翔する。

 しかし手裏剣がフラワーパラズマの身体を貫くことはなかった。


 壁があった。

 フラワーパラズマの目の前の地面からズズズッと真っ赤な煉瓦がせり上がって分厚い壁を形成し手裏剣を阻んだのだ。


「なっ!?」

 突如出現した壁に手裏剣が直撃し甲高い金属音を鳴らす。リュードが手裏剣に手を伸ばし引き戻そうするが、それより先にフラワーパラズマが思いっきり壁を殴りつけた。


 赤い壁が破壊され、バラバラの煉瓦となってリュードたちに向かって吹っ飛んできた。

 当然、その後ろの子供たちにも。


「危ないっ!」

 すかさずモーリスが盾を構えて子供たちの前に立ち、飛んできた煉瓦から彼らを守る。防ぎきれず素通りを許してしまった分はトトゥーナがバトンから伸ばしたオレンジ色のロープ状の光がキャッチしてくれた。彼女はそのままバトンを振って「えいっ」と煉瓦を投げ返したが、フラワーパラズマは頭の上に降り注ぐ煉瓦を拳で破壊してしまう。


 ここに来て新たな能力。しかも花とは関係ない。


「そうか」

 後方に跳躍して飛び散る煉瓦を避けたリュードは既に確保していた手裏剣を分解し、使わない二本の短剣を腰の鞘に戻しながら、

「操作できるのは花だけじゃない……あれは『庭』を操る能力だったんだ」

「なるほど、そういうことですか」

 どういうこと!? というモーリスとトトゥーナの声が被った。納得できたのはフレイベルだけらしい。


 理解の及ばない二人を置いてけぼりにして、リュードとフレイベルは果敢にも敵に立ち向かっていく。フラワー……改めガーデンパラズマが両腕を下から上へ、掬いこむような動作で振り上げると、連動して石畳の地面から今度は細長い板のような物体が飛び出してきた。


 柵である。庭の仕切りに使うような、真っ白なペンキ塗りのウッドフェンスがリュードたちを狙う。近づく者を串刺しにせんと、その先端を三角に尖らせて急成長したタケノコのように次から次へと生えてくる柵をギリギリで避けながら、二人はあっという間に距離を詰めて武器を振るった。


 しかし刃が触れる直前、ガーデンパラズマの両腕に煉瓦がボコボコと隆起してそれを覆いつくした。今まで以上の煉瓦に覆われ堅牢さを増した左腕がリュードの双剣を、右腕がフレイベルの銀剣をそれぞれ食い止めて強烈な金属音を打ち鳴らした。

 二人は動揺することなく二の矢を継ぐ。それでも煉瓦に埋めつくされた魔人の腕は一切の刃を通さなかった。


 ガーデンパラズマが反撃に移る。まずはフレイベルの剣を弾き、返す刀でリュードに狙いを定めて拳を放つ。リュードは胸の前で双剣を交差させて拳を受け止めた。衝撃で少年の身体が宙に浮き、彼は咄嗟の判断でその勢いを逆に利用して後方へと飛び退いてみせる。


 隙を突いてフレイベルが切りかかった。狙うのは腿。おそらく煉瓦を増やせるのは腕だけと踏んでの一閃だったが。

 ガチン! と、まるでそこに攻撃が来るのを予想していたかのように銀の刃を掴まれてしまう。

 掴んだのは左腕。ちょっとした意趣返しのつもりか。


 そのままガーデンパラズマが銀剣を掴んだ腕を勢いよく振り上げる。フレイベルの身体が無理やり引っ張り上げられ、彼女の空いた胴にもう一方の拳を力強く叩き込んだ。

「ッ……!」

 魔人の鉄拳を真正面から喰らい、真紅の天使が宙を舞った。フレイベルは吹っ飛びながらも空中で冷静に受け身をとる。バク宙の要領で体を回転させて後頭部から地面に叩きつけられるのを回避した。


 だが。

 地面に片膝をついて着地した時、顔を上げたフレイベルの目の前には既に全力で殴り掛かるガーデンパラズマの右拳が迫っていた。

 天使の剣でも傷一つ付けられない剛腕が直撃すれば兜を被った彼女であっても一溜りもないだろう。


「ベル!」

 トトゥーナが叫ぶ。思わず駆けだそうとしたモーリスも間に合わないことを悟り一歩踏み込んだところで地面に縫い留められたかのように足が止まってしまう。

 子供たちの前に立つマッツも無意味と分かっていながら彼らの視界を塞ごうと両腕を伸ばしてしまう。


 だがガーデンパラズマの拳がフレイベルの顔面を貫くことはなかった。


「…………お?」


 拳が止まっていた。真紅の兜と一体となった、翼を模した黒い仮面に触れる直前でその拳はピタリと静止している。


「おおっ、なんだ、これはッ」


 最も動揺しているのはガーデンパラズマ本人である。どれだけ力を込めても煉瓦に覆われた右の拳は動かない。それどころか何か透明な力に操られるように徐々に腕ごと後ろに引っ張られようとしていた。


 そしてそのまま。

 ドゴン! とガーデンパラズマの右の拳が自身の顔面を思いっきり殴りつけた。


「ぎゃあっ!?」

 謎の力に負けまいと右腕を無理にでも前に押し出そうとしたのが仇となった。極限まで弦を張り詰めた弓から矢を放つように、ガーデンパラズマの拳はただ振るうだけでは出せないような速度のまま急カーブを描いて己の頬を打ち抜いた。


 ぐらつく魔人の姿に、その場にいた誰もが目を見張った。


「あれ?」

 今の現象が誰によって引き起こされたのか辺りを見渡して探っていたマッツは、ふと視界に入った後ろの生徒たちを見てあることに気が付いた。


 一人いない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ