16 おわりよければ
「お、終わったみたい」
地図の上で光を放っていた天気塔のレプリカから反応が消え、地図の部屋で仕事をサボっていたエミリーはリュードがパラズマを倒したのだと察した。実はパラズマを撃破した時とただ逃がした時とで光の消え方が違ったりする。
ところであのフレイベルとトトゥーナのコンビは結局合流したのだろうか。リュードがちゃんと彼女たちと協力できたのか少しだけ心配だ。
いつまでもここにいたら他の職員にどんな小言を言われるやら。エミリーが椅子から腰を浮かせたところで、にわかに部屋の外が騒がしくなった。
ドアを開けて通路の様子を確かめると、ちょうど別の部屋から大勢の人間がどっとあふれ出てくるところだった。突如ギルドに現れた彼らの表情は困惑に満ちており、話している内容から自分たちがどうしてここにいるのか分からない様子だった。
クロースパラズマが倒れたことで能力が解けたのだ。元に戻った人々でもみくちゃになった通路を見てエミリーは「あらら」と他人事のように肩をすくめた。
○
任務を終えたモーリス・ゴドラクがレグナンテスの街に戻る頃にはすっかり日が傾いて、空も黄色く染まっていた。
体が重い。上半身を覆うような盾を背負って駆けまわるような仕事をしていれば当然だが、それ以上に精神的な疲労の方が大きかった。仲間の二人はまだ街をぶらつく程度には元気が余っているらしいが、彼らについていく気にはなれなかった。
さっさと帰って重い盾から解放されたい。寮のエリアに移ったあたりでモーリスは見知った少年の姿を見かけた。
モーリスは小走りで近づいて、深緑色の髪をした彼の横に並んで「やあ」と声をかける。
「魔物は倒せたのか」
「当然だよ……でも、正直疲れたって言うかさ、チームって面倒なんだ……いや、ごめん。君に言ってもしょうがないよな」
不意に愚痴がこぼれる。言った直後に発言を後悔し始めるモーリスだが、リュードは表情を変えることなく、
「いや、分からないこともない」
と返した。
リュードの言葉には今まさに経験してきたかのような実感が籠っていた。何があったのか気になってしまったが、彼にそれを尋ねる勇気は今のモーリスにはなかった。
○
レミーは駆け付けた衛兵たちに連れて行かれた。
彼がこの街の出身で、『外』の人間ばかりを狙っていたという事実は表沙汰にするつもりはないらしい。両者の軋轢を生まないためとか何とか。
それでいい、と正直にトトゥーナは思った。
クロースパラズマによってファッションアイテムに変えられ、行方不明だった者たちが帰ってきて今回の事件は閉じた。実に二百を超える人間が一斉に消されていたわけだが、なぜかあんまり騒がれていない気がする。
他人が消えたところで何とも思わないのか。
やっぱり人と人との繋がりは希薄なんだろうか。
いや。
「本当に、ありがとうございました」
イザベラとアレックス。頭を下げて身を翻し、肩を寄せて歩く二人を見送りながら、トトゥーナはそんなことはないと思う。
生まれも育ちも、レグナンテスは色々な人が集まってできた街だ。
ただ、人がいる。そこには少なからずの繋がりがある。
それ以上でもそれ以下でもない。
「よかったですわね」
隣でフレイベルが言った。
トトゥーナは彼女の顔を見て、それからもう一度、遠ざかる二人の背中を見て「うん」と頷いた。




