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フレイミングフレイベル  作者: 風上 環
第3話 マジカルガール・ウィズ・フレイミング
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13 悪霊と天使

 緑の多い広場に笛の音が響いていた。

 東サイドのとあるエリア。彼にとって定番の演奏スポットでレミー・ファードンは聴衆たちに囲まれながら縦笛を吹き鳴らす。


 彼の演奏を聴きに集まっているのは皆『外』の人間だ。広場を通りゆく彼らの耳にひとたびレミーの音色が届けば、歩みを止めて聴き入るばかりか彼のもとへと引き寄せられていく。急いでいても、音楽に興味がなくとも、彼の演奏からは逃れられない。


 レミーが一つの曲を吹き終えた。彼のルーツである国に伝わる民族音楽だ。子供の頃に両親から教わり、それを自分で奏でてみるたびに、彼は足を踏み入れたことのない故郷の大地に思いを馳せた。

 曲が終われば拍手が起こる。しかし聴衆たちの拍手にどこまで心というものが籠っているのかは、笛の力で引き寄せたレミー本人にも分からない。


 レミーは集まってる聴衆の顔ぶれを確認し、彼らの中に『コレクション』にふさわしい人間はいるだろうか、と見定めていたが、


「パラズマは魔物だ。よってそれに取り憑かれた人間も被害者として助けるというのがギルドの基本的な理念になっている」


 いきなり聞こえてきた声に拍手が止み、彼らは一斉に声の主を避けるように左右に分かれた。開かれた道の向こうに立っていたその影は、人々が作った道を悠々と歩いてレミーのもとに近づいてくる。


「とはいえ……自覚的にその能力でもって悪事を働いた場合は相応の罪に問われてしまうこともある」

 歩きながら、少年は深緑色の髪をかきあげた。筋肉質な両腕は日に焼けて浅黒く変化している。

「レミー・ファードン。僕はパラズマに憑かれた人間のその後に興味はないが……どうやらあなたには罰が与えられるようだ」


 それを聞いて、レミーのとった行動はただ小さく笑って肩を揺らすのみであった。

 自らの所業を晒された者の諦めか、あるいはここからでも逃げてやろうとする余裕の表れか。

 いずれにせよ、パラズマという魔物に囚われた男がこんなところで止まれるはずもなかった。


「君は霊郷(レキオ)の出身だね。霊郷人に能力をかけたことはなかったから、ちょうどよかった」


 バチバチという稲妻が走る音と共に、レミーの姿が変わっていく。亜麻色の布を全身に巻き付けた魔人が広場に顕現する。

 クロースパラズマは目も鼻も包帯のように細長い布に覆われたその顔の、唯一剥き出しになった口に薄ら笑いを浮かべながら、

「君が果たして僕の『コレクション』にふさわしいか、試してあげよう」


 パラズマを目の当たりにし正気を取り戻した聴衆たちが悲鳴をあげて逃げ惑う中、その少年はまっすぐにクロースパラズマと対峙し、宣言する。

「残念だけど、あなたにふさわしいのは囚人服だ」


     ○


「スピード落とせばよかったッ……!」

 トトゥーナとフレイベルの二人は一定の方角に向かって飛び続ける双葉を追ってレグナンテスの街に架かる橋の上を駆けていた。一刻も早くレミーのもとに辿り着くために双葉の飛行速度を上げておいたがあまり得策ではなかった気がする。


 急がなければ双葉を見失うが、急いで走ったら非常に疲れる。


「頑張ってください!」

「今頑張って倒れたら元も子もないっての!」


 ヒイヒイと息を切らしながらトトゥーナは叫んだ。こう見えて身体を動かすのは好きなタイプなので体力には自信ありだが、このままじゃレミーのいる場所に駆け付けたタイミングでスタミナ切れを起こしてぶっ倒れそうだ。


 街の東西を繋ぐ橋を渡り切ったところで二人の魔針盤(コンパス)が反応した。エリアが変わり、天気塔から送られるパラズマの位置情報を受信したのだ。


「もう戦いが始まってるみたい!」

 一度に複数のパラズマが同時に出現することは滅多にない。レミーがクロースパラズマに変身したと見て間違いないだろう。

 そして、その場にはもうリュードがいて交戦中なのだろう。


「こちらのほうが早いでしょう」


 そう言ったフレイベルがいきなり立ち止まったかと思えば、トトゥーナの身体をひょいと持ち上げた。背中と膝裏に腕を通され、横向きに抱きかかえられる。


「えッ!? ちょっと」

 トトゥーナが戸惑い固まっていると、フレイベルの背中でありえないことが起きた。


 ばさっ!! と彼女の背中から大きな翼が広がったのだ。

 赤と黒。

 二色の羽で構成された一対の翼を彼女の肩越しに目撃したトトゥーナはただ静かに見惚れるしかなかった。


 だから反応が遅れた。


「急ぎますわ」

「は?」


 トトゥーナを抱えたまま、フレイベルはその翼を大きく羽ばたかせた。あっという間にその身体が建物よりも高く舞い上がり、魔法の双葉を追い越していく。

 少女の悲鳴は強風にかき消された。

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