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フレイミングフレイベル  作者: 風上 環
第3話 マジカルガール・ウィズ・フレイミング
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08 振り出し

 騒音を聞いて三階まで上がってきたバーのマスター兼宿屋の主人はドアが破壊されているのを見て立ち眩みを起こしたが、トトゥーナがパラズマが出たと説明すると「じゃあ終わったら教えてくれ……」としょんぼりした様子で戻っていった。


 フレイベルはパラズマが去っていっただろう窓の外を見ながら、

「パラズマはもう隣のエリアまで行ってしまったのでしょうか?」

「まだそれほど遠くまで行ってないと思うけど……もう変身も解いちゃってるはずだし今から追いかけても見つかんないよ」


 エミリーから聞いた話では最初にアパートで出現した時もパラズマの反応はほんの一瞬だったという。パラズマが『宿主』の中に引っ込んでしまえば天気塔でも感知できなくなり捜索も困難になる。

 そして宿主が自覚的に能力を行使できるパラズマは凶悪だ。単純な強さより厄介さの方が目立つ。


「結局……テオは悪霊に憑かれてなかったと」

 トトゥーナは窓の近くに転がる靴を拾い上げた。青い靴紐の通った黄色いブーツ。やたらめったら奇抜なセンスだが、どこに売ってるんだ?


「彼じゃないとなると、もう一人を探しに行かなくてはなりませんわね」

「でもどうやって? こっちは部屋が締まってたから特定できたけど、だいたい誰が消えて誰の靴が無いのかすら分からないのに」

「探す必要はない」


 ベッドの周りで何かを見つけたらしいリュードが立ち上がって言った。彼がその手に持っている靴に気付いたフレイベルが訊ねる。


「それは?」

「テオの脱いだ靴だ。彼は襲われる寸前までこのベッドで寝ていたらしい」

「じゃあこっちは……」トトゥーナは奇抜な色のブーツに視線を落とす。

「言っておくが犯人の物じゃないぞ、パラズマになったまま靴は脱げないだろう、ましてやアパートから消えた『もう一人』の物でもない……そもそも誰の靴でもないんだよ」


 トトゥーナは理解が追いつかなかった。

 彼女が固まっている間にもリュードは話を進めてしまう。


「屋上に靴が並んでいるからって、僕たちはそれがすべて消された人間のものだという方に考えすぎていたんだ。考えてみれば靴のサイズが全部同じだなんておかしいじゃないか」

「同じ大きさだったのですね」

「それは見れば分かる」

 しれっと言うリュード。


「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 慌ててトトゥーナが口を挟んだ。リュードとフレイベルがこちらを見る。

「それじゃあアレックスの靴はどうなるの? あたしの魔法で調べたんだから間違いなく本人ものだよ!」

 流れに置いていかれないように、トトゥーナはどうにか言葉を紡いでいく。


「君の魔法がどれだけ正確かによる」

「疑ってるの?」

 リュードを睨み語気を強めるトトゥーナ。その時、剣呑な雰囲気になるのを察したフレイベルが「とりあえず!」と両者の間に割って入った。


「依頼人に確かめてもらいましょう、恋人なら分かるはずですわ」


     ○


 屋上の靴はすべてギルドの本部に移動させてある。これはパラズマ事件に関係のありそうな物を管理しておくというルールのためだ。

 トトゥーナは早速依頼人のイザベラをギルドに呼び出して魔法の双葉が反応した靴を見せてみたが……、


「これ、違いますよ」

「えーっ」


 真顔で言い放つ彼女に革靴を突き返されてしまった。エントランスの端っこに立つ二人の間に微妙な空気が流れる。


「だってサイズが全然合わないし……」

「でも男の人の足ってだいたいこのくらいじゃない?」

「私、アレックスが男だって言いましたっけ」

「…………アレックスって」

「アレキサンドラ」

「そっちかい!」

 そういうことらしい。


「先に言ってよ……」

 ぼやくトトゥーナ。まあ何でも包み隠さず話せというのも酷だ。


 用が済んだと判断したイザベラは遠慮がちに「じゃあ見つかったら教えてくださいね」と言い残すと、肩を落としてギルドを後にした。力なくドアをくぐる彼女の寂しそうな背中を眺めていると、近くの椅子に座っていたリュードが一言。


「これで振り出しか」

「何も分からなくなってしまいましたわね」


 フレイベルも同じテーブルを囲んで座っている。

 まったくやかましい二人だ。


(でも、本当にどうしよう)

 屋上の靴を手掛かりに捜査を進めていたのに、それは最初から住人のものじゃなかった。それじゃあ誰の靴なんだという疑問は残るが、捜査が無駄に終わっただけでなく犠牲者を一人増やしてしまった(しかも一度は犯人と疑った相手を、だ)罪悪感にトトゥーナは苛まれていた。


 手掛かりなし。


「どうだった~?」

 内心割と落ち込んでいるトトゥーナとは対照的に、通路の方からやってきたエミリー・ブルームは暢気な様子で訊いてきた。ゆったりした服がいつにも増してヒラヒラしている。

「アレックスはアレキサンドラだった」

 リュードが言った。勝手に言うな。

「なるほど」

 何がなるほどなのか。


「あ、靴は私が部屋に戻しておくから」エミリーはトトゥーナから革靴を受け取る。「事件が解決するまで保管しなきゃだし。最近これ系の届け物が多いみたいで保管部屋がファッションアイテムでギチギチなんだよねぇ……ギルドが古着屋さんになっちゃうよ」

「それって古着に入るのですか」

「靴以外にもってどういうことだ?」


 リュードが訊くと、エミリーは「それなんだよ!」と指を立てた。


「こっちに戻ってから色々調べてみたんだけどね、こういう服の一部が街中に落っこちてることは何度もあったらしいの。で、今回の事件でまさかと思って『地図』のログを調べてみたらドンピシャ、落ちてた場所とパラズマの出現反応があった場所が一致した」

「それは具体的にどれくらい?」

「衣類の数なら今回のを入れて二百は超えたね」

「まさか同じくらい人が消えてるとか言わないよね……?」


 トトゥーナは恐る恐るといった態度で尋ねてみる。もしアパートの件と同じく、現場に残された衣類と同じ数の人がパラズマに襲われているのだとしたら、この街では既に二百人以上の人間が失踪していることになってしまう。


 フレイベルもリュードもその可能性に思い至ったのか、エミリーに視線を向けて彼女の答えを待っている。

 できればそうであってほしくない、と心の奥で期待しているトトゥーナだったが、


「消えてるけど」

 冷淡な答えだった。


 二百人の失踪という事実に誰もが言葉を失い、しかしエミリーは続ける。


「襲われたのは全員街の『外』から来た人。これはあのアパートの住人と同じだね」

「いつからだ?」

「だいたい半月前かな」

「どうして今まで気が付かなかったのですか!?」

「だから私に言わないでよ、パラズマの反応は一瞬で夜中のことだし。ていうかこれはあなたたちにも言えることじゃない? 二百人消えたって聞いても誰が消えたかちっとも心当たりがないでしょ?」


 エミリーの刺すような返しに、フレイベルは「それは……」と黙ってしまった。


「ま、言えてるな」リュードは他人事のように頷いた。「知らない国から来た知らない人間が知らないうちに消えたって気づきようがない。この街の人間は思っている以上に他人に興味がないわけだ」

「(興味ないのはあんたらだけでしょ)」

 こっそり毒づくトトゥーナだったが、エミリーが「言われてんぞ」とリュードを小突くさまを見て無意味に口を塞ぐ。

 聞こえていた。


 リュードは無視して、

「にしてもパラズマの出現地点に服の一部が落ちてるって話が気になるな。襲われた本人のそれじゃなくても関係はありそうだ……エミリー、ここから一番近い出現ポイントはどこにある?」

「それなら……」

 エミリーは旧市街に隣接するエリアの一角を示した。


「早速向かいましょう、これ以上犠牲者を増やさないためにも」

「待ってよ!」

 先走ったフレイベルがギルドを飛び出して行ってしまい、慌ててトトゥーナが彼女を追いかけた。


「そうだ」

 二人が建物を出て行くのを見送ってから、リュードはエミリーに声をかける。

「一人、調べておいてほしい人間がいるんだけど」

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