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フレイミングフレイベル  作者: 風上 環
第3話 マジカルガール・ウィズ・フレイミング
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04 屋上の異変

「いつの間に鞘の位置変えたんだ」

「ああ、この前寮の屋根から飛び降りた時にちょっと思いついたことがあって」

「さらっと何言った?」


 なんて会話を交わしながらリュードとエミリーの二人はパラズマの出現地点に向かっていた。ちなみに今のリュードの鞘は背中に二つ、腰に二つという配置になっている。腰のそれはともかく、背中の鞘は相変わらず手を伸ばして剣を抜けるような位置にはない。


 道すがら二人は事件について話す。


「事件が起きたのは街の一角にあるアパート。居住者はみんな私らと同じ余所の国から来た人たちで、これが一夜にして全員いなくなったと」

「なるほど、神隠し」

「かみ……? ええと、ギルドに知らせてくれたのはこのアパートの清掃員で、朝になって掃除をしに来たら一人もいなくなってるのが分かったとか」

「ちょっと待った。パラズマが関係しているなら天気塔(てんきとう)に反応があった時点で誰かしらが駆け付けてるもんじゃないのか?」

「警報が鳴ったのが真夜中だったんだよ、しかも『地図』のログを確認したらほんの一瞬だけパラズマが出現して消えたことになってる。たぶん塔の誤作動だってスルーされちゃったんだと思う……最近そういうの多くて」

「職務怠慢だな、僕の地元じゃ夜中になっても容赦なく魔物が降ってくるというのに」


 リュードが暮らしていた『霊郷(レキオ)』のような、教会の勢力下にない国には天気塔がない。人間に憑依する新種であるパラズマが出現しない代わりに四六時中魔物が出てくるのでそこは()()しだが。


「ここだね」


 目的地に到着した二人は目の前にある長方形の建物を見上げた。五階建てのポイントハウスは縦に長くちょっとした塔のような印象を受ける。


 エミリーは腰に手を当てて言った。

「にしても、なんで私も一緒に来なきゃならんかね」

「仲間作れって言ったのそっちだろ」

「だから私はノーカンだっつってんの」

「そういうわけにはいかない」リュードはエミリーに向き合った。「エミリーは僕の大切な仲間だ」


 じっとエミリーを見据えて微笑むリュード。エミリーは「リュード……」と彼の名前を声に出して真剣な表情のまましばらく見つめ合うと、彼のおでこをいきなり引っぱたいた。


「さっさと行くよ」

 額をさするリュードを放置してエミリーはアパートに入ってしまう。


     ○


 正にもぬけの(から)であった。


 リュードとエミリーはアパートの階段を上がっていく。一階上がるたびに見える通路にはずらりと部屋のドアが並んでいるが、どこも開きっぱなしになっていてまるで人の気配が感じられない。


「みんなでどこかに出かけちゃったって可能性は?」

「そりゃないだろう」


 エミリーの疑問に答えたのはこのアパートの清掃員だ。彼も二人と一緒に階段を上っているが、年老いて体力が衰えているためか、だいぶペースが遅い。


「ここに住んでるのはみんな違う国から来たいろんな人間だ。まあ俺からしたら全身同じ『外国人』だがね、彼らが纏まって行動することはないんじゃねえかな。だいたい、鍵ぐらいかけてくだろうよ」

「それもそうか……」

「パラズマが出たって分かってるんだから、そんなこと訊いても仕方なくないか?」


 先頭のリュードが言った。多彩な能力を発現するパラズマが犯人である以上『どうやったか』はさほど重要ではなかったりする。


「どうしても誤作動を疑っちゃうんだよねぇ。ほら、前にあったじゃない? 同じパラズマの仕業かと思ってたら模倣犯が紛れてたヤツ」

「あんな事件は後にも先にもあれっきりで充分だ」


 話している内に最上階まで上がってきた三人。やはりすべてのドアが開放されており、人の気配は全く感じられない。

 時間帯的にはみんな仕事に出ているので人がいないのは当然かもしれないが、今このアパートを支配する静寂はそれとは明らかに違うものだった。


 探索は終わり。特に目ぼしい情報は得られなかったので引き返すところだが、上へと続く階段はまだ続いていた。


「屋上は見てなかったな」

 ゆっくり階段を上がってきた清掃員の男が、リュードたちの視線に気づいて呟くように言った。彼らの見上げる階段の向こうには一枚のドアがあり、中央に付けられた窓から日光が差している。


 リュードは無言で階段を上がり、屋上に続くドアを開けた。後ろの方から「いつもは鍵締まってたよなあ……」という声が聞こえる。


「何これ……」

 ドアが開いたことで太陽の光がどっと入ってきて、隣のエミリーが眩しそうに小手をかざした。それから目の前に広がる光景を見た彼女が息を吞んだ。


 屋上には柵がない。これは元々人の出入りを禁じているので設置する必要がないからだろう。屋上の端には雨漏り対策の笠木(かさぎ)がある程度で、街を見下ろす景色に吸い寄せられて(つまづ)きでもしたら五階下の地面に真っ逆さまに落ちてしまう。


 その笠木の上に、靴が置かれていた。

 一足や二足ではない。


 ずらっっ……と、(かかと)を綺麗に揃えた靴が笠木を埋めつくすように並べられていたのだ。


「どうなってんだか」

 遅れてやってきた清掃員の男が声を漏らした。


 リュードは屋上に出て脱ぎ揃えられた靴が並んでいるのを見渡した。色や形、材質など靴の見た目は様々だ。そして、その中の一つ、光沢のある革靴に何やら双葉が乗っかっていることに気が付いた。


 リュードは革靴の傍でしゃがみ込んでその双葉を手に取る。茎の部分で切れてはいるが、植物特有の青臭さがある。

 双葉を革靴の上に戻したリュード。その時彼は、アパートの屋上から見下ろした地上の先からこの建物に向かっている二人組の存在が目に入った。


「あっ」

 二人組の片方、真っ赤な燃えるような髪を揺らしたその女と目が合って、口を開けた彼女がそう言ったような気がした。

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