02 同期
リュード・ジャーガルが任務を終えてギルドに帰った頃には昼時だった。
「リュード!」
受付で報告を済ませたリュードは食堂に入ったところでルームメイトのモーリス・ゴドラクにばったり出くわした。
「今帰ってきたところ?」
「ああ、そういう君はこれから出発みたいだけど」
モーリスは盾を背負い直しながら頷いた。大柄な彼の上半身を隠せるほどの大きな盾の前面には鹿の頭をかたどった装飾が施されており、これは彼の出身国にかつてあった『戦士団』とやらのシンボルなのだそうだ。
「そういえば聞いたよ。この前の蝋燭騒動、リュードが解決したんだって?」
キャンドルパラズマの起こした事件からしばらく経ち、今頃になって誰がパラズマを倒したのか噂されるようになった。
規模で言えばレグナンテスが最も壊滅に迫られた事件だったが、別にこれを解決したからといって周囲の見る目が変わったりはしない。
「よく知ってるな、世間じゃもう一人が解決したことになってたはずだけど」
「俺は分かってるよ。もう一人って確か最近ギルドに入った新人だろ? 俺まだ会ったことないんだよなあ……」
「さすがに見かけたことくらいあるんじゃないか? 結構目立つよ、アレ」
ボリューミーな紅い髪を揺らした天使が脳裏をよぎった。
「それにしても君が誰かと協力するなんて珍しいよね。どういった風の吹き回しだい?」
「別に……」リュードは言い淀む。「討伐対象が被っただけだ」
以前のリュードなら何の気なしに言ってみせただろうが、彼の返事はどうにも歯切れの悪いものだった。自分でも気づかないうちに心境の変化があったとでも言うのか。
モーリスは「そっか」とだけ返すと、それ以上追及はしなかった。会話が途切れて気まずい空気が流れかけたところで、エントランスに繋がる通路の方から「行くぞ!」とモーリスを呼ぶ声がした。二人組の男で、たぶん彼のチームメイトだろう。
「そろそろ行かなきゃ、じゃあ!」
モーリスはそう言ってリュードに笑いかけると、慌てて二人組の方に駆け寄った。鹿の頭のデザインされた大盾が通路の向こうに消えていくのを見送っていたら、
「一緒に行かないんだ」
と、リュードのすぐ傍にある二人席に陣取った青髪の女性が何やらニヤニヤしながらこっちを見ていた。いつの間に座っていたのか、日替わりメニューのジャガイモ料理を半分くらい食べている。
リュードは二人席の向かいに腰を下ろしながら、
「そんなことしたら僕が出番を搔っ攫ってしまうだろ? チームの勝利っていうのはみんなの勝利なんだ、僕が一人で活躍しては彼らのためにならない」
「何言ってんのさ。モーリスとは上手くやってるんでしょ? せっかく私が同室にしてあげたんだから仲間に入れてもらいなさいよ」
「余計なお世話をありがとう。だけど向こうは地元の仲良し三人組だ、僕が入る余地なんてない」
エミリーが湯気の立ったジャガイモに必死に息を吹いて冷ましているのを眺めつつリュードは答える。彼の視線に付いたエミリーは口を尖らせたまま料理を奪われまいと自分の側に皿を寄せた。
「リュードくんさぁ」エミリーはジャガイモの一切れをフォークで突き刺して言う。「いい加減仲間作ってみれば? そういうのいないでしょ」
「侮ってくれるなエミリー、僕だって仲間の一人くらい」
「言っとくけど私をカウントしないでよね」
エミリーは即答し、ジャガイモを頬張る。
「僕は仲間なんて必要ない! 仲間なんているか、だいたい僕はチームプレイとシークヮーサーが苦手なんだ。協調性がないなんて言われるけどな、あんなのは僕についてこれなくなった人間が勝手に離れていっただけじゃないか」
何かを思い出してヒートアップしていくリュードの言葉をエミリーは黙って聞いていた。というか口の中にまだ物が残っているので喋らないだけだった。
「ブルーム、ジャーガル。いいところにいた」
会話の途切れた二人に、がたいの良い中年の男が話しかけてきた。
「ボス」
「お前たちに仕事を頼みたい、パラズマ退治だ」
野太い声でボスは言った。
「私がまだ食ってる途中でしょうが」エミリーは芋を呑み込んでから言った。「ていうか私も一緒に? やだなぁ私はバスターさんじゃないっすよ」
「ギルドに入りたての頃はコンビで活動していたじゃないか」
確かに、リュードとエミリーは同じタイミングでギルドに入った同期だ。最初の一年くらいは二人でパラズマ退治に奔走していたものだ。
「昔はね。でも気づいたんですよ、どうせ私は戦わないし、だったら走り回るより本部に引きこもって愛嬌でも振りまいてたほうが楽だってことにね。だから私はニコニコ受付嬢♪」
「ニコニコってかただの薄ら笑いッ……!」
リュードの語尾がおかしく跳ねたのはエミリーがテーブルの下で彼の脛を蹴っ飛ばしたからである。痛みに悶える彼は絞り出すような声で「職員同士の戦闘はギルドの禁止行為にあたる……」とブツブツ言っていた。
「でもなんでわざわざ私たちに? 他にも頼めそうな人はいるでしょ」
エミリーは食堂を見渡した。昼時の食堂には同業者のバスターたちが三々五々に集まってそれぞれ食事をとっている。
「今回の事件はどうにも不可解で被害者も多い、おそらく今まで以上に手強いパラズマが現れたと見える」
「なるほど、面白い」
「こないだの蝋燭も大概でしたけどね」
「というわけでこの件は実力のあるお前たちに任せたい。やってくれるな?」
いいでしょう、と得意げに立ち上がるリュードとは対称的に、エミリーは乗り気じゃなさそうだった。
「確かに私は優秀ですけど~見て分かるように私はこのジャガイモをふーふーするのに忙しいんです」
最後の一切れをフォークで突っつきながらエミリーは言った。なのでリュードは彼女からフォークをぶんどり、残り一つとなったそれに突き刺した。
ああっ、と間の抜けた声を出すエミリー。
「今すぐ行けますよ」
そう言って、リュードはジャガイモを口に放り込んだ。「熱っつ」




