14 勘違いするな
キャンドルパラズマが倒れたことで、レグナンテスを覆っていた蝋燭売りの脅威は去った。
彼女が自身の能力で作りだした蝋燭はすべて消滅し、蝋燭売りと化して街を徘徊していた人々も正気を取り戻す。リュードに頭の蝋燭を折られて気を失っていた者も次第に目を覚ましていくだろう。
「いやぁ~手柄お手柄大手柄だねキミたち」
ギルドに戻ったリュードたちのスコアを換算し終えたエミリーがやけに調子が良さそうに言った。ちなみに事件が解決したので立て籠もる必要もなくなり、バリケードに使っていた椅子とテーブルは元の位置に置き直されている。
あれだけの騒動の後にもかかわらず、街は既に本来の姿を取り戻そうとしていた。
「別に、この街じゃ日常茶飯事だろう」
「なんか言ってる。二人がかりでやっつけたくせに」エミリーは呆れたように言う。「そうだよ! あんたらチーム組めばいいじゃん」
ベストなコンビだと思うんだけどな~、とエミリーは二人の顔を交互に見た。
「いい考えですわ」
と、フレイベルがリュードに右手を差し出した。
「リュード、これからよろしくお願いします」
リュードはその手を眺め、
「僕が? 君と?」
視線を上げると、彼女は目を細めて微笑んだ。
リュードは振り返る。一人で蝋燭売りと戦っていたところに彼女が駆け付けたことを、キャンドルパラズマを倒すため横に並び立ったことを。
彼女と共に戦っている時に胸の内に湧いた感情を思い出し、リュードはふっと笑って右手を伸ばすと……、
「いや、ないな」
握手をしかけた手を引っ込めてぱたぱたと振った。
「やっぱり君と組むつもりはないよ」
フレイベルは目を丸くした。
「もうてっきり仲間かと」
「勘違いするな。今回はたまたま戦う相手が同じだっただけだ……僕はこれからも一人でいい」
リュードはそれだけ言って身を翻すと、ギルドの出口に向かってしまった。
「あんま気にしないで……あいつはああだから」
エミリーが言った。
「リュード・ジャーガル……」
軽い足取りでギルドを後にする彼の背中を眺め、フレイベルは少し笑うのだった。
「分からない人」
○
実は、戦いの後にこんなやり取りがあった。
キャンドルパラズマが爆発し、煙の中から宿主の少女が現れる。マイリーは気を失っているため、そのまま地面に倒れてしまった。
リュードは軽く息を吐き、回転しながら帰ってきた手裏剣を捕まえた。がちゃん、という音と共に手裏剣の鍔から短剣が離れ、それぞれ元の鞘にひとりでに収まる。
離れたところに着地していたフレイベルが変身を解いていた。剣から鍵を外すと、真紅の鎧が燃え尽きたように消滅し、剣と鍵も同じように虚空へ消えた。
元の姿に戻ったフレイベルはボリュームのある紅い髪を揺らしながら、広場の中心に倒れるマイリーにもとに歩いていった。パラズマの宿主になった者の救助と言うか回収は衛兵の仕事でバスターである我々がこれ以上関わる必要はない。まあ彼女のことだろうし、優しく介抱でもするつもりなのかと思ったが、リュードの予想はちょっとだけ外れた。
気絶したマイリーの手元には数本の蝋燭が転がっていた。パラズマの能力で生成されたそれらと違って彼女が一から作ったものは消えずに残ったのだ。マイリーの傍に両膝をついてしゃがみ込んだフレイベルはそのうちの一本を手に取ると、代わりに彼女の手に銅貨を一枚握らせた。
「……どういうつもりだ?」
円形のグリップをベルトに提げ直してリュードが訊ねる。
「元はと言えば、わたくしのせいかもしれません……」フレイベルは蝋燭をもう一本手に取ってリュードに差し向けた。「いかがですか? あなたも」
「同情ならしないほうがいい」リュードは彼女に近づいて言う。「気休めにしかならない」
悪霊に取り憑かれた者は何かしらの問題を抱えていたりするものだ。パラズマを倒したところでその問題がすっきり解消とは限らないが、かといって一人一人の問題解決に奔走していたらキリがない。
バスターの仕事はあくまでパラズマの退治。宿主の内面にまでは踏み込まないのがお約束だ。
それでも。
「それでも……たとえ気休めでも構いません。わたくしがこの街に来た理由は、きっとここにある」
言って、フレイベルはマイリーの顔を見た。
気を失った少女の表情はどことなく悲しげだ。そんな彼女を見つめるフレイベルの、慈しむような横顔を見て、リュードは溜息混じりに呟いた。
「やっぱり……君は甘いな」
そして。
○
そして、モーリス・ゴドラクは蝋燭の赤い炎に照らされる寮の自室で目を覚ました。




