04 魔法のことならセンパスチル
かららん、という音を立てて『センパスチル』のドアが開く。
「ただいま~」
寮でもないのにトトゥーナは建物に入るなり言った。フレイベルは彼女に続いてドアをくぐり、それからゆっくりと閉めた。
トトゥーナに連れてこられたのは彼女が任務の合間に手伝っているという店だ。とあるエリアの『エリスト通り』という場所にある。
ざっと店内を見渡した。入って左には背の低いテーブルとソファが置かれ談話スペースになっており、奥にはカウンターがある。そして右の空間の床とか棚には不思議な形をした商品が大雑把に並べられていた。
フレイベルはそのうちの一つ、植木鉢から大きな輪っかの生えたような物を手に取ってみた。両手に抱えるくらいのサイズ感でそれなりに重さを感じる。
「それはウィンドメイカー」トトゥーナが解説を始めた。「魔法で風を送れるの、流す空気の温度を変えられるから暑くても快適。まぁ寝ながら浴びると最悪死ぬけどね」
トトゥーナの言葉にぎょっとしてしまうが、冷静に考えてみればただの注意喚起だ。フレイベルは大人しくウィンドメイカーなる魔法道具を棚の下段に戻し、別の商品を手にする。
「これは?」
「それはアイスポッド。食べ物を凍らせたり冷やしたまま保存できるやつ。ここには置いてないけど大きいサイズならもっと色々詰め込めるかもね」
「そっちのは目覚まし薬! 朝起きて飲めば一日中シャッキリよ。ただし効きすぎるのが難点で夕暮れ時に飲んだら徹夜コース確定」
「ああ~お腹の脂肪落とすやつね。ぶっちゃけ部分痩せって迷信じゃない?」
フレイベルが興味を示した物に、トトゥーナが短い紹介を挟んでいく。一目見ただけでそれが何なのか頭に入っているようだった。
「色々な道具があるんですね、もしかして全部把握しているのですか?」
「当然!」トトゥーナは誇らしげに胸に手を当てた。「あたしはギルドに入るずっと前からここを手伝ってるんだから。それにこの中にはあたしが発明したものだってあるんだよ」
「すごい! じゃあこれは?」
「ただの花瓶」
ぴしゃりと言われ、フレイベルは黄色い花の刺さった花瓶を静かに窓際に戻した。
沈黙が生まれる。
と、そんなやり取りをしている二人に話しかける声があった。
「もしかして次のルームメイト?」
店のカウンターのさらに奥から現れたその女性は、トトゥーナの頭越しにフレイベルを見て言った。年齢は四十代くらい。艶のある黒髪にトトゥーナと同じ褐色の肌をしていて、大きな丸眼鏡をかけている。
「そうだよ、ベルっていうの」
「初めまして」
「私はマジョルジョ・エスタ。こちらこそよろしくね、トトゥーナちゃんがお世話になります」
「先生……親じゃないんだから」
微笑むマジョルジョに、トトゥーナは口を尖らせた。
「先生、というのは?」
「あたしはこの人から魔法を教わっているの」
「なるほど、あの部屋を植物まみれにしたのも魔法なのですね」
「まっ、まあ……うん」
「ベルちゃんだっけ? あなた気をつけてね。この子、前のルームメイトを魔法でパイナップルに変えちゃったから」
フレイベルの刺すような視線に、トトゥーナがわざとらしく肩をすくめた。
「大丈夫だって戻したから」
そんなことより、と彼女は両手を合わせる。「先生! 修理した魔法道具が溜まってるんじゃなかったっけ」
「そうそう、纏めて返してきてくれる?」
マジョルジョが小さな紙をトトゥーナに手渡した。トトゥーナはそれを受け取って「了解」と言った。
「仕事ですか?」
「『センパスチル』は魔法道具を売るだけじゃなくて修理も請け負ってるの。みんなのところに持っていきたいんだけど、一度に運ぶのってすごく大変でさ~」
トトゥーナはちらりとフレイベルの方を見る。何か言ってほしそう態度だ。
「ふむ……」フレイベルは肘に手を添えて言った。「いいでしょう! わたくしが手伝ってあげますわ」
「まじ? いやぁ助かるな~」
マジョルジョが溜息を吐いた。




