01 ルームメイト
【前回のあらすじ】
ギルドに入るため、リュードのパラズマ捜査に協力したフレイベルの正体はあの炎の天使だった!
真紅の鎧を身に纏いフレイミングフレイベルとなった彼女は無事パラズマを撃破するが、うっかり街の結界を壊してしまう。
彼女を認めたくないリュードだが、このままでは天気塔の修繕費を一人で背負うことになってしまう。リュードは仕方なくフレイベルがギルドに入ることを承認するのだった。
「寮は原則二人一部屋。どうせなら仲良くしてほしいけど、合わないと思ったら遠慮せず言ってね、こっちで変えてあげるから」
歩きながら、エミリー・ブルームはこちらを振り返って言った。彼女が前に向き直ると、肩まで伸びる青髪が少しだけ揺れた。
フレイベルは彼女の後ろを付いて行きつつ視線を巡らせる。
二人が歩いているのはギルドに所属する『バスター』たちが暮らす寮、その廊下だ。通路の両サイドには一定の間隔でドアが並んでおり、建物の反対側まで続くその空間をこれまた一定の間隔で天井に吊るされた球体が橙色に照らしていた。
ギルド。そう、ギルドだ。
フレイベル・ベニーロは天使である。天界から地上の都市レグナンテスへとやってきた彼女は、魔物退治を生業とする『バスター』としてこれからこの街で暮らしていくことになる。
「ギルドの大まかなシステムについてはルームメイトの子から聞くといいよ」
前を向きながらエミリーが言う。
体のラインが出にくい、ゆったりとしたシルエットの服が彼女の歩きに合わせてひらひらと揺れている。彼女の後姿を眺めている内に、カーテンのようにくるぶしまで下がるそれがワンピースやロングスカートの類ではなく、裾部分のやたらと広がったワイドパンツだとようやく気が付いた。
「それと、任務の時もその子と協力するのがおすすめかなあ。別に一人でも構わないんだけど、誰かと一緒にいた方が良いじゃない?」
「ええ、そうですわね」
「まあ私的にはリュードと組んてもらっても全然いいんだけどさ」
(リュード……)
エミリーの口から出てきたその名前をフレイベルは頭の中で繰り返す。
リュード・ジャーガル。
フレイベルが地上で初めて出会った人間だ。パラズマという人間に憑依して生まれる魔物の退治に協力し、彼の承認を得ることでギルドへの仲間入りを果たしたフレイベルだったが、その時の彼の不服そうな顔がどうにも気に掛かっていた。
態度があからさまに変わったのは自分が天使の力を解放してみせた時からだ。曰く、向日葵畑で魔物を倒したことに起因しているらしい。
助けたつもりだったが、なぜか怒られてしまった。
分からない人。
「到着、ここがあなたの部屋ね」
と、エミリーがドアの前に立ち止まって言った。フレイベルは分からないことについて一旦考えるのをやめる。
ドアには三ケタの数字が記されたプレートが取り付けられていた。頭の数字はこの部屋が建物の一階にあることを示している。
「ルームメイトの名前はトトゥーナ・エホマール。ここの出身だから街の案内とかしてもらいなよ」
はいこれ、とエミリーに渡されたのは鍵だ。四角い持ち手にはドアのプレートと同じ数字が刻まれている。
フレイベルは受け取った鍵を上着のポケットにしまいながら、
「ありがとうございます。ところで二人一部屋ということは、わたくしよりも前に同居人がいたと思うのですが」
「う~んそれは」
フレイベルの問いに答えかねたエミリーがお茶を濁した時だった。
轟音を立てながらドアが勢いよく開き、部屋の中から大量の植物が雪崩れ出てきた。
うわあ!? と爆発的に飛び出した蔓を飛び退いて避けるエミリー。フレイベルがドア越しに部屋を覗いてみるとその中はぎっしり緑の草木に埋めつくされてジャングルみたいになっており、すっかり部屋の構造が分からなくなっている。
「ああ気にしないで。部屋の模様替えをしたかっただけだから」
と、何やら足元から声がしたので見てみると、廊下に散らばった植物たちの中に一人の女の子が埋もれていた。十六歳くらいの、薄紫色の髪をツインテールにした褐色肌の彼女は縄ほどの太さの蔓に全身をぐるぐる巻きにされながら、やけに落ち着いた様子でフレイベルに話しかけた。
「おっ、もしかして新しいルームメイト? あたしの名前はトトゥーナ・エホマールだぜよろしくゥ」
「はい、こちらこそ」
ばっちりウインクまで決める彼女に、フレイベルはしゃがみ込んで答える。
その様子を見て、エミリーは安堵の息を吐いた。
「よかった、気が合いそうで」




